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今なら「ああ、生きるよ。」と言える 【いちご同盟 三田誠広⠀】

 今回は私の座右の書である三田誠広さんのいちご同盟について書いてみようと思います。 
いちご同盟を初めて読んだ時、私は主人公と同じ中学三年生でした。

その主人公の良一は、ピアノを習っている少年で、クラスでは目立つタイプではありません。お金や数字ばかり気にするようになった父と厳しくそりの合わない母、名門私立に通う弟と比べられたりなど家庭もあまりいい状況ではない、音楽科に行きたいと思うが母の反対や本当にピアノを仕事にしたいかのなど進路についても悩みが尽きないです。そして良一は「むりして生きていても どうせみんな 死んでしまうんだ ばかやろう」と遺し、自殺した少年が暮らしていた町に時々訪れます。作者が自殺した遺書のような本を毎日、大切に持ち歩いています。

良一の一番の悩みはどうせみんな死んでしまうのに何をする必要があるのだというものでした。

そんな良一は同級生で人気のある野球部のエースである徹也を通し、徹也の幼馴染であり、重病を患い入院している直美と出会い、惹かれていきます。

この小説で私が一番印象に残っているシーンが、良一が一人で直美のお見舞いに行ったシーンです。

その時、良一は直美に「悩みごと、あるでしょ。」と言われ、自分の緩やかな自殺願望について話します。 それを言った良一に対して、直美は、

「可能性がある人がうらやましい。自殺のことを考えるなんて、贅沢だわ」そう言って、直美はぼくの方に目を向けた。涙でうるんだ大きな目が、じっとぼくを見つめていた。この眼差しには、どんな言葉も対抗できない、とぼくは思った。

直美は「自殺は元気な人がやらないと誰も驚かない」「あたしに与えられたリストは、病気、病気、病気、これだけ。」とも言っています。

私はうつ病患者です。自殺を否定する訳ではありません。生きている方が死ぬことよりつらくなることはあります。精神病も病気です。

けれど、私はこの直美の言葉を聞いて人はどんな時でも可能性があるのだとハッとさせられました。

重病を患っている、大人になることは出来ないだろう直美もです。彼女は病気になり、多くの夢が絶たれました。けれど、直美はある日、良一に「きみが好きだ」と言われ、

「あたしは運命を恨むわけにはいかない。運命が、あなたをあたしの前に連れてきたのよ。だからあたしは、この運命を、喜んで受け入れようと思うの」

と言います。直美はもっと生きたかった、残酷な話かもしれません。けれど、どんな絶望的な状況でも可能性はあって、だからこそ生まれる幸福もあるのだと感じました。

そして、この小説で最も有名なセリフは直美が良一に言った、

「あたしと、心中しない?」

良一は徹也と十五同盟(いちごどうめい)を結びます。「百まで生きて、その間、直美のことを、ずうっと憶えていよう」というものです。

直美も最後病気で亡くなり、二人が心中することはありませんでした。

けれど私は二人は心中したのではないかと思います。

人は二度死ぬといいます。直美のその二回目の死は良一と迎えたのではないかと思います。二人は二人で生きて、そして死んだのだと思います。

徹也の話が出きていないので、ここですると、徹也の父は浮気性で多情です。そのせいで現在は別居中。しかし徹也は自分にその親父と同じ、多情な血を感じています。直美がいる間はそんなことはしないが、いなくなってしまったら、親父のようなだらしないやつになってしまうかもしれないと思っています。だから、十五同盟を結びますが、良一に対して「お前が頼りだ」という場面もあります。

 でも、私は徹也がこれからどんな人生を歩んでも、直美は徹也の中で生きていると思います。私も自分の性格の悪さに悩んだ時もありました。自分の嫌な頑固さは祖母や父にそっくりでした。でも今の私は、理想通りとはいきませんが、人は案外なりたい自分になれるし、親は親、自分は自分だと思えます。


私は、高校三年で不登校になり、うつになりました。可能性なんて見いだせなかった。幸福になることなんて考えられませんでした。

直美が亡くなり、病院出た時、徹也は最後、「生きろよ」と良一に言います。そして、良一は「ああ、生きるよ。」と返します。

 今の私なら、良一と同じように返事が出来ると感じます。

良一はもう自殺した少年が過ごした町にも訪れることも、本を持ち歩くことも無いでしょう。

 私はこの小説を生涯、肌身離さず持っていたいと思います。

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