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技術指導から、感性支援へ。幼稚園絵画指導の大改革記① -改革のはじまり-

2022年夏。
私の元に、一本のメールが届きました。

検索していたときに、UMUMさんを見つけ、読んでいて、素直に自分が求めていた絵画保育が見つかったと感じました。
本園の先生は毎年2月に園の作品展を開く関係もあり、熱心に絵画指導をしていますが、手探り状態で取り組んでいるという状況です。(中略)しかし、まだまだ子ども達は描かされている感じが強いと思っています。
(中略)
令和5年の6月に本園で研修会を行います。もしUMUMさんに講師を引き受けてもらうことができればぜひ絵画の研究保育をやりたいと思っています。

問い合わせてくださったのは、藤枝順心高等学校附属幼稚園の鈴木副園長。

ここから2年間に渡り、藤枝順心高等学校附属幼稚園のみなさんとUMUMの
幼稚園における、絵画指導の大改革が始まりました。


大改革の前後

問い合わせをいただいた経緯を、副園長先生は次のように語ってくれました。

本園では毎年2月に作品展を実施している。
担任は保護者に観ていただくため、ある程度の作品の質を保障しなければならないと考え、子どもへの指導やどの作品を展示するかなど苦心している。

昨年、ある小学校の1年生の授業参観をした際、教室・廊下に貼り出されていた絵を見た。ある絵本の一節を切り取った場面の絵であった。構図、色彩がとてもいいなぁと感心して見ていた。しかし、すぐに違和感を覚えた。他に掲示されていたどの子の絵も同じ構図、同じ色彩だったからである。
違うのは筆に慣れているか慣れていないかというタッチの差と、形の捉え方の優劣の差だけであった。もしかしたら見本を見て、描かされているのではと考えてしまった。
同時に、本園の園児の絵はどうだろうと振り返ってみた。すると、作品展で展示されている作品に同じ構図、同じ色、同じ筆使いの絵が低学年に多いことを思い出した。
こうした絵は、指導者(保育士や教師)の意図が強く反映したものであり、子ども達は本当にその絵を描きたかったのだろうかと考えてしまった。
また、子どもの意に沿わない「描かせる」絵画指導から豊かな感性や表現力を育成できるのだろうかと疑問を感じた。


それまでの、この園での絵画指導は
教室の一角においた机に
クラスのこども3名と先生1名が対面で座り
先生が指定する絵の具を用い、描き順を丁寧に教えていました。
この指導方法により、絵画指導の経験が少ない保育者であっても
一定水準の絵をどの子にも描かせることができ
保護者に満足してもらえる展示作品として担保できる
「丁寧・確実」な指導法だ、と先生方は考えていたそうです。
年に一度の展覧会では、丁寧な指導の積み重ねによる
高い技術のたくさんの作品が並んでいたそうです。

年中作品。ピザ、ライオン、白い顔、うさぎなど一つ一つのテーマをよく見ると
同じ色のえのぐと画用紙で、同じ方法によって描かれていることがわかります。
また全学年通して、具象画が多かったそうです。



2年後の絵画指導では
「つめたい」「あったかい」「おしゃれ」などの抽象的なイメージを、こどもたちが好きな色で表現したり
「宇宙」をテーマに、クラス全員で大きな作品を制作したり
段ボールや壁に立てたビニールなどに、好きな道具でえのぐ遊びをしたり。
2年前に比べると、個人制作の作品は一枚一枚の違いが大きく
個々の発想や解釈が表現された作品になっています。

年少「おしゃれなハンカチ」
こどもたちがそれぞれの感性で表現しています
年長「宇宙」
大きな模造紙に塗る、宇宙の色は何色か?というころから
クラス全員で話し合いながら、共同制作した作品
大きな模造紙や段ボール芯に、思い思いにえのぐを載せるこどもたち

作品の多様性のほかにも
画材の幅、テーマの幅、作品の大きさの幅など
活動そのものの多様性も生まれています。

さらに、園児の反応にも変化があり
「やりたくない」「できない」と言う園児や
「先生、〇〇していい?」と確認する園児が減り
絵画を能動的に楽しむ園児が増えたそうです。


この取り組みで、とても大事なポイントは
ほとんどの絵画指導の授業を、先生方が自ら考えたこと

2年間の関わりの中で
「こんな授業をやってください」
「こどもたちには、こんな声かけをしてください」
と、UMUMが正解を手渡すことはしませんでした。
そのやり方では、実践の場面でいつか
「UMUMに、そう教えてもらったから(正しいはずだ)」
という思考停止の瞬間が訪れます。
それは、先生自身のアイディアや問いの種を
見えないものにしてしまいます。
また、長期的には、こどもたちが安心して自分を表現する環境を
持続的に作り続けることが難しくなると考えたからです。

対象(絵画指導、しいてはこどもたち)に興味をもち
自ら問いを立て
実践(授業)を重ね
自分なりの最適解を探していく。
まさに、こどもだけでなく
先生方も授業を通して、探求学習をしていました。
その渦中は、決して簡単ではなく
先生方の中には
それまでやってきたことを否定されたような気持ちになったり
これでいいのか、と自信を持てない場面
そして、変化への不安もあったと思います。

この大改革は、とてもドラマチックで
濃厚な2年間でした。
どんな変遷を辿ったのか?
まとめていきたいと思います。

長文になりますが、お付き合いください。


<つづく>

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