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技術指導から、感性支援へ。幼稚園絵画指導の大改革記② -先生方の理想と不安-

藤枝順心高等学校附属幼稚園での、2年間にわたる絵画指導大改革。
はじまりについて、こちらで書いています。

藤枝順心高等学校附属幼稚園は
年幼〜年長までの4学年、全15クラス380名の、とても大きな幼稚園です。
今回のプロジェクトでは、授業作りや展覧会づくりのサポートを主に
UMUMは直接こどもたちに関わることはせず
担任の先生方、副園長、主任教諭の合計17名を対象に
研修や、報告↔︎フィードバックというかたちで関わりました。

2年間の変遷は、大きく3つの目的に分けることができます。
フェーズ1:2022年8月〜2023年6月 ブロック研修に向けて
フェーズ2:2023年10月〜2024年2月 作品展に向けて
フェーズ3:2024年5月〜2024年9月 持続的な指導に向けて

ここでは、フェーズ1について綴っていきます。


フェーズ1-1:研修初回。先生方の意見を聞く

今回のプロジェクトのきっかけとなったブロック研修とは
藤枝市内の幼稚園と子ども園が集まる大きな研修会「藤枝市私立幼稚園・認定こども園協会 南ブロック全体研修会」の略称。
その年にホストとなる園が「体操」「安全」など任意のテーマを決め
他園の先生方も集う研修会で、見学や対話を通して学びを深めます。

2023年のホスト園となった藤枝順心高等学校附属幼稚園は
"豊かな表現力を育てる絵画指導の取り組み
『「描きたい!」と、目を輝かせて夢中になる自由表現』"

というテーマを定め
UMUMはブロック研修会講師として、お声がけいただきました。

問い合わせをいただいた翌年、2023年1月。
出産を終えた私は、搾乳機とパソコンをリュックに詰めて
新幹線で藤枝に向かいました。

 産後、久しぶりの電車!しかも新幹線!
駅弁ゲットのために、30分早く新横浜に到着。
でも新幹線の乗車時間は、たったの45分。


到着し、年少クラスで行われていた絵画指導を見学して
午後、1回目の研修を行いました。

副園長先生から
「UMUMの取り組みである自由表現を、園で導入したい」
という趣旨を伺っていたものの
実際、現場に立つ先生方は、どう感じているのか?
指導の現状をどう捉え、どんな指導を望むのか?
この研修では、そこをしっかり確認したいと思っていました。

まずはアートを知るレクチャータイム。
アートは「自分の答えを探し求める」活動とし
その自由性や、決められた正解がないことの意義
そして、具象画や技術だけに依らない価値を
現代アーティストの作品や美術史をヒントにしながら
先生方に伝えました。

レクチャー内容を実感に落とし込むため
実際に、いくつか作品制作も行いました。
「しゃきしゃき」というオノマトペや
はぶらしの触感のイメージなど
具体的な形(一つの正解)をもたないテーマで
絵を描いてみる。
これにより個々人の持つ多様な感性を可視化し
その違いはネガティブではない
ということを知ってもらいました。

手を動かすフィジカルな共体験があると、関係性も温まります

最後に、この日のレクチャーを踏まえ
絵画指導について、個人の思いを書き出し
グループごとに深める、対話タイムを設けました。

先生方は、「こどもたちが自由に表現できる指導をしたい」という理想を持っていること
一方で、「それ(その時間でできあがった作品)を保護者や第三者に理解してもらえるのか?具体的にどうやったらいいのか?」という不安をもっていることが伝わってきました。

下記は先生方の意見の抜粋です。

<①絵画指導でこどもたちに伝えたいこと>
・表現って自由なんだ
・友達と一緒なことが正解じゃない
・自由にのびのびやっていいよ
・間違いはない、失敗はない
・自分にない発見や、新しいやり方やコミュニケーションの関わり方が生まれるのもいい
・自分で感じたものをちゃんと表現できるようになってほしい

<②絵画指導で具体的にできること>
・どんな作品を見ても否定はしない
・たくさん褒めて自信をつける
・友達同士作品を見せ合って、違いを知る
・いろんな色の画材や画用紙を準備したり、情報共有をして、自分たち自身がいろんな技法をできるようになったらいい
・頑張りを認めてあげることが手立てかな?

<③課題が出た場合は記入>
・「作品展を二点必ず出さないといけない」というプレッシャー
・保護者に成長の過程を見せたいから、「そこまででいいんじゃない」と指示だししたりしちゃう。
・テーマを決めるのか、自由にするのか
・「自由」ならどこまでやる?どこまで画材を用意し、時間はどれくらい?と考えると、色々課題が出てくるなあ
・自由にするとなると、これまでのやり方と変わるので、保護者への理解や作品展の見栄えも考えなきゃいけない。
・見本を出すと、コピペにして描く子とか、見本を見せないと書き出せない子がいる。
・こどもの素直な思いを大切にしたい一方で、自由ってなると難しい。
・「間違えちゃった」とぐちゃぐちゃにする子もいる。
・先生自身が楽しまないといけない

私個人的な思惑として、「自由表現=正解/技術指導=不正解」という概念を植え付けたくなかったので
今回の研修では、あえて「自由表現をやろう!」というメッセージは入れずに臨んだのですが、先生方の方からこういった思いが出たことが印象的でした。

最後の質問タイムでは
・画用紙の色はどう選ぶ?
・題材はどう選ぶ?
・年齢に応じた画材の選び方を教えてほしい
・書き出せない子に対する声かけを教えてほしい…
などなど、how to的な質問が多く
実践を視野に入れていることが伝わってきました。



フェーズ1-2:やりたいことを、やってみよう

1回目の事前研修後、いくつかのクラスの先生が
早速新しいエッセンスを加えた絵画指導を行った、と報告が届きました。

<2歳&満3歳クラス>
これまで一斉に絵画をやったことはありませんでしたが
単色でしたが1人にひとつずつ絵具を与え
四つ切画用紙に描いてみました。
子どもたちはとても楽しかったようです。
先生も、2歳&満3歳でもこんなにできるんだと
やった甲斐があったと感じていました。
何歳にはこれ、何歳では無理などの考えは大人の考えであって
子供はもっともっと力を秘めているんですよね。
ブレーキをかけていたのは大人なんだと改めて感じたようです。
こうした取り組みが全職員に広がってくれたらと願っています。
<2歳&満3歳クラス>
単色でやっていたのを2色にチャレンジしました。
ある子どもがすごいことをやっていました。
ふつうは2色を塗りながら、自然に混ざってしまい、最終的にはべた塗になります。
ところが、筆の先を使い、画用紙全体にドットのように押し付け描いていました。
それを見た先生たちは、驚きと感動で言葉になりませんでした。
やれば、変化がありますね。子どもの力は底がしれません。
絵画って楽しいですよね。


とても嬉しい反応でした。

こういったレポートを拝読しつつ
先生方の、こどもを見る眼差しの深さと
抱える理想と不安、その背景には何があるのか考えました。

数日後、副園長先生、主任の先生と打ち合わせで
展覧会について具体的な話を伺った上で
このプロジェクトの大きな目的を提案しました。

◆自由な作品で、かつ見応えのある作品の制作環境をつくる◆
事前研修で見えた、「自由な作品≠展覧会で飾る作品」という先生方の中にある葛藤。
それを解消し、こどもたちがのびのびと取り組む「自由表現による作品」と
展覧会で、保護者に胸をはって見せられる「見応えのある作品」の架け橋となるような制作環境をつくりたい!

我ながら、かなり思い切った提案だったと思います。
うまくいくか、確証はないけれど
仮にうまくいかなくても
そこに先生方の思いがあるなら
やってみる価値はあるはず。
管理する立場にある人が設定した、大きな目的に
現場がついてこれなくなるというのは
残念ながら、よく目にするシチュエーションです。
そうならないために
小さくてもいいから先生の中にある理想を
少しづつ形にするサポートをしていこう
そのためには、先生にできる限り寄り添ってみよう
と思っていました。

副園長先生と主任の先生に確認いただき
この提案と、授業案づくりのためのフォーマット
そして授業作りのヒントをまとめた資料を
先生方にお渡ししました。
このフォーマットにアイディアを記入してもらい
UMUMがフィードバックして
実践してもらう作戦です。

17人の先生方との、試行錯誤の時間が
いよいよ始まります。

<つづく>



いつも長文を読んでいただきありがとうございます! サポートは、企画のための画材&情報収集に活用させていただきます。