本日の本請け(2024.2月)
本に合う食べ物、飲み物を用意して読書しています。なんだか「ことば」に関する本ばかりになりました。
『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』今井むつみ、秋田喜美(中公新書)
ゆる言語学ラジオが好きで、言語に興味がわいていたところに、本屋さんで見つけて購入した本。帯にも推薦文があり、その後ゆる言語学ラジオでも言及されていたので少し内容を知ってから読み始めました。それが結果よかったと思う。
論文のように、その説はどういうことか、それを説明するための思考、論理が系統だって示されているので信用が置けるのですが、あんまり読みやすくはなくて(笑)。だから、先にさらっとでも知ってることがあったのがとっかかりになってよかった!
とはいえ結局3ヶ月くらいかかってようやく読み終えたのですが。
「言語の本質」ってすごいタイトルだな……と思ったし、最後にはわかりません!で終わったりして〜と思っていたのですが(失礼)、きちんとわかったことが示されていて……最後にこれまでの話がまとめて書いてあって、整理されていてとても助かりました。
動物と人間の違い、人間とAIの違い。本当に「言語の本質」に迫っている。誇大広告じゃない!
途中で出てきた分数のわかりにくさについてが薄々思ってたことにハマってたので、紹介されていた他の著作を読んでみよう!となりました。
『ことば、身体、まなび 「できるようになる」とはどういうことか』為末大、今井むつみ(扶桑社新書)
上の『言語の本質』が面白いけど難しく、他にもいろいろ今井むつみ先生の本を読んでみたらいいんじゃないかなと思っていたら、オーディオブックにいくつか見つけました。しかも、身体を使うことに関わりがありそう!
先月『聞くこと、話すこと』を読んだときに、身体を使う、ということがいまいちしっくりこなかったのがちょっとひっかかっていたのです。ちょっと趣旨が違うかもしれないけれど、ヒントにはなるかな、ということで早速聞いてみることにしました。
為末さんのお話している、言葉かけがすごくて、同時にスポーツをやっていたときのことを思い出しました。
うまくできない後輩に対して声をかけるときに、自分がかつて先輩にかけられた言葉を復唱しているだけの自分に気がついたんですよね。そして、それ以外に言葉を知らない。どうやって言えばいいのかわからない。言葉を操ることは得意な自信があったのに、自分にびっくりしたのです。
また、「こうやってやるんだよ!」と動作をされたとき、または試合映像を見せられて勉強しようと言われて見たとき、なーんにもわからなくてぽかんとしたことを思い出しました。
そう、映像には情報量が多すぎる。この本の中で同じことに言及されていてそうなんだよ〜と膝を打ってしまいました。
そして、言語は自分で試行錯誤して考えて取り込む、「接地」という概念。
ただこう考えるんだよ、と降ろされるのではなかなか……というのはわかってはいたけれど。
「きびきび走る」よりも「熱いフライパンの上を走るよ」方が伝わる。
でもそれは、熱いアスファルトや砂浜を走った経験があって、フライパンの上を走ったことなんてなくても抽象化されたものを考えられるから。
そのためには経験をしていないと落とし込めない。
納得しつつも考え込んでしまいました。
最近、「体験格差」のニュースも耳にします。
努力すれば貧困等、課されている重りを取り払える、そうしないのは自己責任、という論調も聞くけれど、例えば暑い最中にでかけたり、海に行ったりするのが、ひとつひとつは小さなことだったりつながっていないように見えても巡り巡って理解の助けになるなら、そうできないのに「自己責任」というのはあんまりだよなあと。
また、本を読んだり物語を取り込むにはこの抽象化する力がとても大切だなと実感しました。練習試合と本番の試合ではシチュエーションが違うけれど、それでも本番の試合で力を発揮する力は、文章を読んで心に思い描いたものを取り出す力と密接に関わっているところなど納得。
この場合はこう、と自分で応用できる力、さらに学んでいける力をつけられるようになってほしいというところに大きく頷きました。
文を読むことは実は眼球の動きと関わりがあり、それは小脳の働きであるとか、確かに「身体」とのつながりがよくわかって、面白かった。学びの多い一冊でした。他にも今井さんの算数の本がオーディオブックにあったので、読んでみます!
『言語学的ラップの世界』川原繁人(東京書籍)
これもゆる言語学ラジオを見て聴いていて知った研究者の方。
この方の著作を以前読んで、他のも読んでみたいと思って新刊を購入しました。
この本を紹介していた動画はこちら。
語り口はけっこう軽めで、著者の人生も見えてくるようなエッセイのようなかたちなんだけれど、ラップについての解説・分析は個人的にはかなり本格的に感じてしまい、実は一度本を閉じたものの、上記の動画で少し語ってくれていたので無事読み通せました(笑)。
以前に読んだ別の著作も、なるべく専門用語を使わないように説明してくれていたので、きっとこれでも簡単に書いてくれてるのだと思うのですが。
そもそも「韻を踏む」ということが、中高のときにやった漢文の知識くらいまでしかないので、文末を揃えるだけじゃないんだー、ということがわかっただけでも一歩進んだのだろう、ということにしておいてほしい(笑)。
出てきたラップをyoutubeで探して聞いたりもして楽しかった!
新刊も出たようなので、また読んでみたい。
著者のXにて反論記事の紹介もあったので、それも貼っておく。
『小さなことばたちの辞書』(著)ピップ・ウィリアムズ(訳)最所篤子(小学館)
これまた言語学ラジオを聞いていて、辞書の回を見て面白いなーと思っていたときに書店で見かけた本です。衝動買いして積読にしてしまったのですが、ふと思い立ち読み始めました。
舞台は19世紀末のイギリス、「オックスフォード英語大辞典』の編纂社である父に連れられて、仕事場に通う幼いエズメという少女が主人公。彼女はやがて、辞典に入れてもらえないことばを収集し始めます。
オーストラリアで2021年、ベストセラー1位になった本です。
歴史上の事実が作中で起こり、オックスフォード英語大辞典の編纂に関わった実在の人物たちも登場し、主人公エズメのことは架空の創作ですがとてもそうは思えないほど「生きて」いると思える物語になっています。著者あとがきで語られていますが、上の動画でも取り上げられている『博士と狂人』を読み興味を持っていくうちに、辞書とは男性のものだったのだという印象が拭えなかったため、そこから考えた作品なんだそうです。
イギリスが舞台だし……!と、テンションあげていくためにヴィクトリアケーキというのを頼んだらずっしりしていて、おいしいけど食べごたえありまくりで、罪悪感が大変なことになりました(笑)。
出てきた言葉がとても胸を打って、大好きな本になりました。
エズメのお父さんの言葉。よかったなあ……。
エスペラント語を使って少年をケアする場面で泣いてしまった。
その他にも、リジーに友人ができるところ、プロポーズの場面、兵士の母言葉、忘れられないところがたくさん。
シスターフッドって言葉を最近よく聞くのだけど、全然ピンときていなかったのがようやくわかった気がする。
いやあー、本当によかった。もっともっと読まれてほしい。
著者・訳者さんのあとがきも解像度が上がってよかった。
こちらは訳者さんの記事。
『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』知念実希人(ライツ社)
児童書で初めて本屋大賞に入った……ということで購入。
小学生の主人公三人が、謎に挑む児童向けのミステリ。「読者への挑戦」が挟まり、きちんとそれまでの本文で謎が解けるようになっています。三人のキャラクターがかわいい!イラストもちゃんとヒントになっているところがすごい。
実は2巻まで購入したのですが、そちらの帯に1巻の謎は子どもたちの10人にひとりがわかったと書いてありました。張り合うわけじゃないのですが(笑)、一応犯人わかったんですが細かいところは違ったのでまだ修行が必要だなと思いました。
ライツ社は新しい出版社のよう。ホームページがかっこいいし、インタビューも面白かったです。
『夏期限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信(創元推理文庫)
アニメ化だし新刊出るしということで読み直し中。
今回アニメ化になるのはこの作品までかと思うのですが、ここで終わるのはあまりにも……苦味が残るのでは?と心配になりました(笑)。びっくりするくらい内容を忘れていて、楽しめました。たまにトリックがわかって「ふふふ……」という得意な気分になったのですが、そのたびにいや、読んだことあるんだから当たり前では、と自分にツッコミを入れてしまいます。
『秋期限定栗きんとん事件(上)』米澤穂信(創元推理文庫)
上記に続き、小市民シリーズ第三弾。
連作短編がひとつの流れを作っていた前2作とは違い、この上下巻はひとつの大きな流れの中に小話がある、といったかたち。
高校二年生から三年生にかけての、小市民を目指し、互恵関係を解消したふたりのそれぞれが語られます。
夏期限定のラストが衝撃の展開……だったので、どきどきしながら読み始めました。本当に、読んだはずなのにずいぶん忘れていて再読が楽しいです。
たまに、前世の記憶みたいによみがえってくるところがあって「ああ、これそうだった!」と思いながら読んでいます。
そういえば「男のヒステリー」って言葉が出てきたのですが、ヒステリーって女に対して使う言葉だったっけ?と思って調べたらそういう歴史のある言葉なのか。なんとなく、今の時代では直される言葉な気がしましたが、この本、2009年の本なんですよね。アニメで改変されたりするのだろうか。
『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信(新潮文庫)
「小市民シリーズ」のアニメ化にブチ上がり、オーディオブックをどれか聴こう!と思ってこれにしました。
最初に読んでからずいぶん時間が経っているので、再読なんですがほどよくトリックを忘れていて、最後の文章に「うわー!」ってなるのは変わらず楽しめました。
自分はホラーは得意ではないんですが、この作品はホラーというわけでもなく、でも感想を求められると「怖い」って言ってしまいそうな、この、ほどよい後味の悪さ、ほんのりとした毒気、上品さの中に潜む醜さ、最高です。
他にこういう作品ないかなとも思うんですが、案外ない。
下の、恩田陸の理瀬シリーズが少し質感が似ているかもしれません。だからこそ、この時期に読むのが被ったのかもしれない。
「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの晩餐」の5編ですが、この並びがまた良い。この並びで読むからこその味わいがある。
「山荘秘聞」がかなり好きなのですが、最後に違和感があって調べたら単行本のときと微妙にラストのセリフ変わっているんですね!
なるほど、となりました。
『夜明けの花園』恩田陸(講談社)
理瀬シリーズの短編集。2編は以前に恩田陸の他の短編集に収録されていましたが、他は未読(……のはずなんですが、たまに雑誌で読んだりしていたので覚えがあるものもありつつ)、書き下ろしもあって久しぶりにどっぷり!理瀬シリーズのワールドに浸かりました。
ヨハンの話「水晶の夜、翡翠の朝」、あの人の話「麦の海に浮かぶ檻」、理瀬の幼少期「睡蓮」、そして書き下ろし「丘をゆく船」は黎二と麗子の話。聖の話「月蝕」、そして恐らく「黄昏の百合の骨」と「薔薇のなかの蛇」の間の理瀬のバカンスの話「絵のない絵本」。
「丘をゆく船」、読みたいものが読めてしまって呆然としてしまった……。
この日、この本を読むぞと気合いを入れて、やっぱり「お茶会」がたくさん出てくるんだから紅茶にしなくっちゃ!とハーブティーを頼んだら、カップに麦が印刷されたものでものすごーく嬉しくなってしまいました。偶然だろうけれど、店主さんありがとう。最高の気分で一気読み!もう、本当に楽しかったです。
インタビュー記事のリンクも貼っておきます。
「丘をゆく船」は編集部に読みたいものをアンケート取ったらしく、本当にありがとうございました。わかってくれている。本当にありがとう。
『紫式部と藤原道長』倉本一宏(講談社現代新書)
昨年末、『みんなで読む源氏物語』を読み、こんなに源氏物語の周辺って面白いんだ!と感動し、その勢いで他の新書を!と思い購入した一冊。
大河ドラマが始まったら、史実とは違うところが出てくるだろうけれどそこを放ってドラマだけを楽しむのもどうなんだろうと思い、今回大河ドラマの時代考証をやっているという方の本を選びました。
こちらは著者のインタビュー。
でも実は、最初のうちは「読むのしんどい……」となり一旦置いていました。藤原が多すぎる。
しかし大河ドラマが始まって、登場人物たちがわかってくると、この本を読めるようになってきました。名前の漢字を見ると登場人物たちの顔が浮かび、区別ができるようになったのです!
特に面白かったのは第七章、源氏物語の執筆の動機や時期を解説しているところです。源氏物語を書くには一体どれだけの紙が必要だったのか計算していたり、それを手に入れることが当時どれだけ貴重だったのか、ということに言及しています。
考えてみると、歴史の授業で平安時代では紫式部って人が『源氏物語』を書いたよ!と習ったけど、じゃあどうやって書かれたのか、紙がどれだけ必要か、そして印刷技術もないのにどうやって流布したのか、ちっとも考えたことがありませんでした。
そして、そもそも、当時の権力者が藤原氏だとも知っているけれども、そのふたりの運命に関わりがあったなんて、想像もしませんでした。
実は大河ドラマ、毎週とても楽しみにしています。
藤原道長って、この世は俺のものだとなんかイキってるヤツで、娘を政治の道具として使ったなんてサイテー、みたいな気持ちしか持てていなかったのです。
しかしドラマを見て、人間、見えている一面だけではないかもと思いました。
そもそも「この世をば……」という歌が詠まれたのがどういうシチュエーションだったのか。病に苦しみ続け、仏教に救いを求めた、そういう道長の姿が、この本からもよくわかります。
ドラマのネタバレ(笑)になるかなと思ったのですが、これを読んでも大河ドラマの辿り着く先は全然わからず、相変わらず楽しみです。
著者の方は、ドラマの影響で史実が誤って広まったり、ふたりの人物像が固定されてしまうことをあとがきでも恐れていて、それも最も。その思いを汲み取って、ドラマはドラマとして、そしてそうではない部分をしっかりと見られるような受け取り手でありたいなと思う。
少なくともドラマのおかげで、人物たちを見分けて読み進めることができてよかったなと思います。
『銀河英雄伝説2 野望篇』田中芳樹(創元SF文庫)
オーディオブックにて読了。
一度読んだはずなのですが、この巻の最後に起こる事件を完全に忘れていて、歩きながら聴いていたのですが立ち止まっちゃいました。
アンネローゼからラインハルトに来るお手紙が「カセット」で、そこだけ書かれた時代を感じてしまいました。もしかしたら宇宙歴では、カセットが生き残ってる時代なのかもしれないけれど。
そういう意味では、今描かれれば女性がキャラクターとしてもう少し多く出てくることになるのかな、と思わなくもありません。男性キャラが多いので。ヤンの部下の、元帝国軍から亡命してきた人が好き(名前を覚えていない)。
『北北西に曇と往け』入江亜季(青騎士コミックス)
大好きな漫画です。
友人と旅行に行ったとき、施設に自由にコミックスが読めるスペースに注目作品として置いてあって、別行動中だったので読み始めたら止まらなくなり、友人たちがいつまでも来ないので迎えに来た、ということがありました。それがこの作品で、以来自分で購入して何度も読んでいます。大好き。
絵が上手なのも、アイスランドの空気感やそこに住む人の生き方、そういうのをとても丁寧に描き出しているのも、魅力いっぱいのキャラクターたちも全部好きだけれど。
今回で言ったら、三知嵩がボリボリ氷を食べている、あそこに2ページ使っているのとかそういう、映画の演出的なところにほうってため息が出てしまいます。