【不眠小説】眠れない男:1時間しか寝れなかった葛藤?
金曜日の夜、男は一週間にわたる眠れぬ日々を背負って、ようやく家に帰りついた。足取りは重く、体はフラフラとし、どこか魂が抜け落ちているような感覚を覚えながらも、玄関の扉を開けた。仕事のことも、心の中に渦巻く雑念も、今はすべて放り出したかった。ただ、眠りたかった。
時計を見れば22時を回っていた。普段ならまだ夜の時間を楽しむこともあるが、今日は何もかもが面倒くさく感じられた。彼は無言でシャワーも浴びず、ベッドに倒れ込むように横になった。まるで久しぶりに訪れた安らぎに包まれるような気がした。
そして、やっと眠りの世界へ足を踏み入れた。だが、しばらくすると、何かが彼を引き戻した。目を覚ますと、時計の針は23時を指していた。たった1時間しか経っていなかった。
「どうしてこんなに眠れないんだ…」
男は寝返りを打ちながら、重たいまぶたを必死に閉じようとしたが、なかなかうまくいかない。頭の中には仕事のことや、積み重なったストレスが渦巻いている。自分がどれだけ頑張っても、答えは出ないまま毎日が過ぎていく。
しばらく寝返りを打ち続けた後、仕方なく起き上がり、風呂を沸かすことにした。お湯が温かくなるまでの時間、男は無駄にスマホを手に取った。だが、何も目に入らなかった。ただ、頭の中を駆け巡る思考の嵐が彼を支配していた。
お湯が沸き、ようやく風呂に入ることにした。湯気が立ち上るお風呂に身を沈めると、体が温かさを感じ、少しリラックスできた。しかし、目を閉じると、次々と頭の中に浮かんでくる雑音が消えない。
「このまま…うたた寝してしまえばいい」
気づけば、少し意識が遠のきかけていた。だが、何かに急かされるように目を開けた。焦って湯船から立ち上がり、慌てて風呂を出る。再び眠りにつこうとベッドに横たわったが、眠気が襲ってくることはなかった。
また、無意識にスマホを手に取った。数通のメッセージが表示されているのが目に入った。
『どこにいる?』
『大丈夫か?』
『反応しろよ』
『行きてるか?』・・・
すぐに土曜日の約束を思い出した。だが、画面の下に目をやると、そこに表示されていたのは、今日の日付ではなく、明日の日付。
「…まさか、こんな時間に?」
彼は急いで時間を確認した。驚くべきことに、すでに25時間が経過していた。今は土曜日の夜中!
あっという間に、眠りの世界で一日を越してしまったのだ。
驚きと共に、どこかホッとした気持ちが込み上げてきた。寝られなかった日々の苦しみが、ようやく報われた瞬間だった。
「やっと寝れた…」
男は深く息を吐き、再び布団の中に身を沈めた。今度は、なぜか素直に目を閉じることができた。そして、ゆっくりと呼吸を整えながら、再び眠りの世界に身を委ねていった。
翌朝、目を覚ましたのは日曜日だった。いつも通りの朝の光が差し込む部屋で、男はゆっくりと体を起こした。昨日の疲れがどこかに消えて、体も心も軽く感じた。久しぶりに眠れたことの喜びが、じわじわと胸の中に広がっていった。
その日、男は何も急ぐことなく、ゆっくりとした朝を迎えた。たった一度の深い眠りが、彼の中でどれだけの安らぎをもたらしたのか。今はただ、その感覚を大切にしたいと思った。
眠りというものが、どれほど人を救うものか。彼はそれを、今、身をもって感じていた。