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【連載】#27 人生の楽しみ方は、子どもに学べ|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」
職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。
※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。
仕事柄、各所で老若男女、いろいろな方々をお迎えして、料理教室の講師を務めることがあります。最近多いのは、お子さん向けの食育料理教室です。お子さんたちの純粋で真剣な眼差しには、時に圧倒されそうになります。一挙手一投足を見られていると言いますか、心の中まで見られているようで、気を抜けません。質問も、私がハッとする、的を射ているものが多くあります。お子さんたちに料理実習をしてもらっても、本当に一生懸命やってくれて、私が見本でつくったものを積極的に味見もしてくれます。お子さんたちが真剣だと、ついつい私もいつも以上に真剣になり、より多くのことを教えてあげようという気持ちになります。このように、夢中で真剣になれるものがあることはとても幸せなことです。
料理をうまくつくるには、食べる人の気持ちになって、段取りを考えたり、調理法を考えたりと、さまざまなことに気を配る必要があります。よって、料理に興味を持つことは、学校の勉強の学力向上につながりますし、自立心を養うにはうってつけです。最近は、家庭科の授業も減っているようですが、料理実習の授業は、男女を問わず減らさないでほしいものです。
一方、大人向けの料理教室になると、どこか冷めたような感じの方も時々いらっしゃいます。そんな空気感が漂っているときには、「私の教える料理が気に入らないのかな」と、変に勘繰ってしまい、少しばかり盛り上がりに欠けるときがあります。ところが、実際にお聞きすると、「いや満足していますよ」とのご返事(笑)。何でしょう、確かに人生経験を積んでくると、理想と現実の壁にぶち当たり物事を冷めた目で見ることもありますが、私はいつまでも子供の頃のワクワクする気持ちは持ち続けたいと考えています。そのほうが限りある人生を楽しめると思うからです。死ぬときに持って行けるのは、思い出だけですから。
「真剣な眼差し」というと、かつてパンやスイーツ、洋風惣菜の技術指導をさせていただいた韓国の大手食品会社(SPCグループ)の皆さんも、毎回真剣な眼差しで感激しました。指導を始めた最初の頃は、韓国のパンやスイーツ、洋風惣菜のレベルは、正直、本当に低いものでした。しかし、毎回食い入るように、一人ひとりがデジカメ片手に私の技術を貪欲に吸収し、その積み重ねを経て、今では日本と対等なレベルになってきました。SPCグループの会長ご夫妻が、とにかく日本の食文化が大好きで、そのすばらしさを韓国にも広げたいとの情熱が実を結び、最近では中国にも進出して、北京や上海などの大都市でも大ヒットしています。やはり、日々の努力は裏切りません。コツコツ、真剣な眼差しを持って頑張れば、世界に可能性が広がることを韓国の大手食品会社が証明してくれました。
皆さんも、心の中にしまっている童心の扉を、もう一度開けてみませんか。子どもの頃に夢中になっていたものを思い出してみてください。何でもいいので真剣に向かい合ってみると、今までぼやけていた視界が広がりだし、日々の暮らしにもハリが出て、ワクワクしてくるはずです。
私自身は、やっぱりおいしいものを見るのも、食べるのも大好きなので、それがたとえ、B級グルメだろうとなかろうと、駅の立ち食い蕎麦でも、素朴な食堂の定食でも、町中華のチャーハンでも、コンビニのスイーツでも、おいしいものには「なんでおいしいのだろう?」と真剣に考え、つくった方に敬意を表しています。だから、いつもワクワク、夢中になれて、毎日がとても楽しく過ごせています。もし、最近人生にハリがない、つまらないと思ったら、子どもの頃の純粋で真剣な眼差しを、今一度取り戻してみようと意識してみてください。きっと何かが変化しますから。
【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。
▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。