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フライング小僧
2020年7月21日 22:09
ヒロアキは恋をしていた。出会いは一年前。宮崎の田舎に住んでいたヒロアキは大学進学をきっかけに夢だった東京に出る事を決めた。親の説得には苦労したが無事東京行きが決まったときは興奮で眠れない日が続いた。金の無いヒロアキは都内で安いアパートを探すことにした。何件目かの不動産屋で見つけたその部屋はいわく付きかもしくはオンボロでなければ説明がつかないほど激安物件だったが、内見に行くと思ったより綺麗で
2020年7月16日 07:55
一羽のカラスがこちらに向かって飛んできた。スズメの群れがざわつき始める。“ヤツよ”“ヤツが来た”“悪魔だ!”“卵を守れ”カラスは一直線にスズメの巣に向かって飛んで行き近くの枝に着地した。“よう。久しぶりだな。”にやりと笑うカラスに対して1番若いオスのスズメが対応する。“な、何しに来たんだ!”その言葉を聞いたカラスは声を出して笑い始めた。“はーはっはっは。何しに来
2020年7月13日 23:42
眠れない。そう思えば思うほど眠気は離れていく事を知りながら今日も僕は夢の中で呟いた。“眠れない。”
2020年7月13日 23:37
身支度を済ませ家を出た“それ”は何かに気が付き戻って来た。『危ない危ない。忘れてたよ。』そう言って“それ”は私の顔をはめてもう一度家を出た。
2020年7月13日 18:27
『やっと終わった。』残業を終えた井口はそそくさと帰り支度を始めた。すでに自分しかいないオフィスの戸締まりをすませて帰路につく。入社してから五年が経つが年々忙しくなっているように感じていた。残業の毎日で日を跨いでの帰宅も珍しくない。ふと携帯を開くと一通のメールが入っていた。確認すると母から"誕生日おめでとう"というメッセージとともに慣れない絵文字が添えられている。思わず顔がほころん
2020年7月7日 20:32
『パパー』今年で5歳になった息子が父である佐々木の腕を掴みながら言った。妻に頼まれた夕飯の買い出しについてきたのだ。『どうしたユウト』『パパのその傷ってどうしたのぉ?』佐々木の額には大きな傷があった。買い物袋を持ち変え息子の手を握り直し佐々木は口を開いた。『これはな、男の勲章だ。』『おとこの…くんしょう?』キョトンとした顔でユウトはその言葉を反芻した。『パパとママ
2020年7月7日 08:38
"ピロン"突然携帯が鳴った。確認すると一通のメールが受信されており宛先には“坂崎理沙”と表示されている。久しぶりに見たその名前に山下健は心臓が強く脈打つのを感じた。"お疲れ。久しぶりに話したいなって思ってるんだけどご飯でもどうかな。"山下はメールの内容を見て複雑な感情になった。坂崎理沙と別れてから一年が経つ。ーーーー付き合ってから三年が過ぎた頃。僕たちはよく喧嘩を
2020年7月6日 09:11
それは突然の出来事だった。ものすごい突風が起こったと思うと突如目の前に2mはくだらない大男が現れたのだ。『人間、なぜここに来た。』見た目通りのまがまがしい声でその男は言った。まるで自分が人間ではないかのように。『私は天狗に会いに来ました。』猿山は正直に言った。『私は研究者です。この山で天狗を見たという目撃情報が入り、天狗の調査をしに参りました。』それを聞き男は大きな口を
2020年7月6日 08:45
昨日誕生日を向かえたワタルが目を覚ました場所は身に覚えのないベッドの上だった。時刻を確認しようと携帯を探すが見当たらない。昨日の事を思い出そうとしてみても頭がガンガン痛むだけで記憶は戻ってこなかった。とにかくここがどこかを理解するため部屋の中を探ることにしたワタルはベッドから降りた。ネチャ不快な音と感触が足に走る。下を見るとそこには真っ赤な血だまりができていた。『うわあ
2020年7月1日 21:16
笑子(えみこ)は毎晩のルーティーンであるゴミ出しの為にマンションの部屋を出た。朝が早い彼女はルール違反と理解しつつも前日の夜にゴミ出しを終えてしまう。しかし理由はそれだけではなかった。『こんばんは。』笑子が声のした方を振り返るとそこには三十代位の顔立ちの整った爽やかな男が立っていた。笑子と同じ様に口が縛られたゴミ袋を手に持っている。『こんばんは。』笑子は笑顔で挨拶を返した。
2020年6月29日 18:28
辺りは一面真っ白い雪で覆われ1メートル先も見えない程吹雪いていた。男は方位磁石が指す方角だけを頼りに歩き続ける。体力はもうすでに限界を迎えていた。それでも男は歩き続ける。『もう少し…もう少しのはずなんだ…』男の手と足は寒さですでに感覚を失っていた。そんな状態で今なお歩き続ける事ができているのは、すがるしかないほんの僅かな希望のおかげであった。眉毛も睫毛も髪の毛も髭も雪で真っ白に
2020年6月29日 08:00
健二は目を覚ました。絶望的な頭痛に襲われ、昨日の日本酒のせいだとすぐに思い出だす。しかしどうにも店を出てからの記憶が思い出せない。いい歳してなんて飲み方をしているんだと自分で自分に呆れてしまう。昨日一緒に飲んだ仲間に連絡をしようと携帯を探し始めた時健二は異変に気が付いた。指が...6本ある。1 2 3 4 5...6...やっぱり6本...。『ナ、ナンジャコリャ!!』健
2020年6月26日 12:37
いつも通り勉強に励むサトルは少し休憩を挟もうとベッドで横になった。高校3年生になり、受験が目前に迫ったサトルは毎日机に向かっていた。もともと成績は良い方ではあったが入りたい高校のレベルは高く毎日参考書や問題集と向き合う日々で疲弊していた。ベッドで横になっているサトルがふと窓に目をやるとそこに真っ白の子猫が佇んでいた。猫は小さく“ミャア”と鳴いた。サトルは窓を開け猫を招き入れる。
2020年6月28日 19:40
珈琲を飲み干した黒田は読みかけの本にしおりを挟み店を出た。日は沈み辺りはすでに薄暗くなっている。黒田は決めていた。"今日はあの日にしよう"自分でも気分が高揚しているのを感じた。歩くスピードも自然と早くなる。黒田がT字路を右に曲がると20メートルほど前を若い女性が歩いていた。計画通り。黒田はここ数日間で彼女の行動パターンを把握していた。この時間帯に人気の無い路地を1人で通