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猫
いつも通り勉強に励むサトルは少し休憩を挟もうとベッドで横になった。
高校3年生になり、受験が目前に迫ったサトルは毎日机に向かっていた。
もともと成績は良い方ではあったが入りたい高校のレベルは高く毎日参考書や問題集と向き合う日々で疲弊していた。
ベッドで横になっているサトルがふと窓に目をやるとそこに真っ白の子猫が佇んでいた。
猫は小さく“ミャア”と鳴いた。
サトルは窓を開け猫を招き入れる。
『どうしたんだお前。1人なのかい?』
猫は部屋に入ってきてサトルにすり寄った。
『人懐っこいんだな。』
サトルは昔飼っていた猫を思い出した。
物心ついた頃にはすでに一緒に生活していた同じ様に真っ白の猫。
母親の友人が飼っていた猫が子どもを産んでそのうちの一匹を譲り受けたのだった。
名前は真っ白だから"マシロ"と母親が名付けた。
『マシロにそっくりだな。』
サトルが猫に向かってそう言うとゴロゴロと喉を鳴らしながらサトルの手に自分の頭をスリスリこすりつけた。
『本当に懐っこいんだな。よしよし。』
それからその子猫は毎日のように現れるようになった。
決まってサトルの勉強が行き詰まっている時や、ベッドに寝転がったタイミングを狙って来ていた。
2年前にマシロが行方不明になった時、マシロはもう17歳になっていた。
サトルは一週間かけて町中を探したが、それでも見つからず、親からは「マシロはサトルに力尽きるところを見せたくなかったんだよ。悲しいけどマシロとはお別れなんだよ。」と言われ一日中部屋で泣いたのだった。
そんな悲しい別れ方をしたのもあってサトルは子猫をとても可愛がっていた。
その日もいつものように勉強の休憩中、サトルがベッドに横になったタイミングで猫は現れた。辺りはすっかり暗くなっている。
『お前は本当に可愛いな。うちで飼いたいけど親があれ以来ペット飼うのを嫌がるんだ。悲しい思いをしたくないからって…ごめんな。』
"ミャア"
『なんだかまたマシロに会えた気がして嬉しいよ。』
“サトル、ぼくはマシロだよ”
ーーーー
ぼくは産まれて間もなくこの家にやってきた。
ママは優しいしパパはあまりしゃべらないけどママに内緒でおやつをくれる。この家も二人もすぐに大好きになった。
この家で充実した日々を送ってたらある時、新しい仲間がウチに来た。
ママはそいつをサトルって呼んですごく可愛がってた。
仲良くするのよって言われたけどなんだか気にくわなくて無視してたんだ。
でもいつの間にかぼくらはすごく仲良しになってた。
サトルはよく泣きべそかいてたね。その度ぼくが近寄って頭をこすりつけると抱っこしていっぱい撫でてくれたよね。
サトルがおっきくなっていく姿もずっと近くで見てた。
でもある時からぼくは段々体調が悪くなって。
思うように体も動かなくなって。
サトルはずっと心配そうに優しく撫でてくれてたよね。
たまーに涙ぐんでたのも見逃してないよ。
ぼくが姿を消してからもサトルはずっと探してくれてたよね。ごめんね。本当はもっと一緒にいたかった。いっぱい愛をくれてありがとう。
ーーーー
“ぼくはマシロだよ。サトル”
『え…マシロ…?喋った?』
“そう、ぼくはマシロ。サトルに伝えたいことがあって、また君の前に現れたんだ。あの時は急にいなくなってごめんね”
『本当にマシロなんだね?』
“そうだよ”
『会いたかったよ…会いたかったよマシロ…!』
サトルはマシロを抱き抱える。
『また一緒にいられるんだね?』
マシロは少し悲しい顔をして首を横に振った。
“用事がすんだらまた戻らなくちゃ”
『そんな、また会えなくなるの?そんなの嫌だよ!』
サトルは目に涙を浮かべながらそう訴えた。
“ごめんね。でもぼくは君に伝えに来ただけなんだ。”
『伝えるって…何を?』
“サトル、君の前から急にいなくなってごめんね。
これ以上心配そうなサトルの顔を見てられなくて、心配かけたくなくて、家を出たんだけど余計心配させちゃったね。
ぼくはもうこの世にはいないけど、本当に幸せだった。
サトルと一緒に時間を過ごせてぼくは幸せな人生だったよ。
だからサトル、今まで本当にありがとう。大好きだよ。”
サトルにはその子猫がにっこり微笑んだように見えた。
『そんな、ありがとうって言うなら僕の方だよ…いつもいつも僕のそばにいてくれて…落ち込んだときもずっと…
マシロがいたから寂しい思いをしたことは一回だってなかった…マシロがいたから。』
“サトルは本当に泣き虫だなあ。”
その時マシロの体がボヤッと光に包まれ始めた。
“もう時間みたいだ。行かなくちゃ…。”
『そんな、マシロ…行かないでよ…!』
“大丈夫。ぼくはいつだってサトルの側にいるよ。ずっとずっと側にいる。”
そう言い残してマシロは光に完全に飲み込まれた。
ーーーー
『マシロ!』
サトルは自分のベッドで横になっていた。
時刻はすでに朝の7時を回っている。
自分の頬を流れる涙を拭ってサトルは呟いた。
『あれ…マシロ…夢……』
その時“ミャア”と鳴き声が聞こえた。
窓を見るといつもの子猫が座っている。
ニコっと笑ってサトルはいつも通り招き入れる。
『君をウチで飼えるように、母さんに掛け合ってみるよ。』
子猫の頭を撫でながらサトルはそう言った。
猫は喉をゴロゴロ鳴らしながら気持ち良さそうにしている。
“ミャア”
子猫は嬉しそうにそう鳴いた。
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