
雪国の奇跡
辺りは一面真っ白い雪で覆われ1メートル先も見えない程吹雪いていた。
男は方位磁石が指す方角だけを頼りに歩き続ける。
体力はもうすでに限界を迎えていた。それでも男は歩き続ける。
『もう少し…もう少しのはずなんだ…』
男の手と足は寒さですでに感覚を失っていた。
そんな状態で今なお歩き続ける事ができているのは、すがるしかないほんの僅かな希望のおかげであった。
眉毛も睫毛も髪の毛も髭も雪で真っ白になり、雪男のような風貌で男は歩き続ける。
その時、微かに"シャンシャンシャンシャン"という鈴の音の様な音が男の耳に入ってきた。
『これは…まさか…』
男は思わず歩みを早める。その足どりは先程より随分軽くなったように感じた。
『頼む…頼む…』
そう呟きながら男は歩みを進める。
すると前方にぼんやりと灯りが見えてきた。
そこに向かって男は歩く。
その灯りにたどり着いた時、男は息を飲んだ。
『これだ…!やっぱり…あったんだ!』
そこには大きな煙突屋根の屋敷が佇んでおり、窓からは暖かな灯りが溢れている。
庭では大きな角を生やしたトナカイが数頭楽しそうにじゃれあっていた。
『見つけた…ここだ…』
そう言って男はその場に倒れこんだ。
ーーーー
男が目を覚ますと目の前にくるくるとした白い髭をたくわえた肉付きの良い老人が座っていた。
『目が覚めたかね。これを飲むといい。』
老人はそう言って男にスープを渡した。
『そ、そんなことより…』
『いいから、まずはこれを飲むんじゃ。』
男の言葉を遮って老人はそう促した。
男は言われた通りにスープを一口啜る。身体が暖まっていくのを感じた。
『君は無理をしすぎた。もう少しで危ないところだったんだ。話は飲み終わってからゆっくりと聞こう。』
男は頷きスープをまた啜った。
『美味しい…。』
思わず声が漏れる。
男はここ数日まともな食事をしていなかった事を思い出した。
スープを飲み終えた男に老人は優しく微笑みかけた。
『それじゃあ、わしを探しに来た理由を聞かせてもらおうか。』
『はい。少し長くなってしまいますが、是非最後までお聞きください。
私は町の工場で働いているスティーブと申します。
妻と娘の三人で慎ましくも幸せに暮らしていました。
そんなある日、たまたま検診に行った病院で娘の病気が発覚したのです。とても重い病気でこのままでは命も危ないと言われました。
しかし、私には手術費を払う程の稼ぎがなかったのです。もちろん有り金は全部集め、親や友人から借りられるだけのお金は借りましたがそれでも遠く及ばず…そうこうしている間にも娘の容態はどんどん悪くなっていきました。
妻も私も途方に暮れている中、ある噂を耳にしたのです。
遠い雪国の方に何でも一つ願いを叶えてくれる人物がいると…。
ただの噂です…。でももうそれを信じて頼るしか道がなかった…!
それからあるだけの情報をかき集めて出発し、奇跡的にここまでたどり着いたというわけでございます。』
『なるほど…。話は分かった。
それで…君は、その噂を本当に信じているのかね。
わしがその何でも願いを叶えてくれる救世主とでも?』
老人が厳しい表情でそう言うとスティーブはうつむき黙りこんだ。
そして覚悟を決めた顔でもう一度老人の目を見た。
『はい。そう信じるしか道はないのです。お願いします、娘の病気を…治してください。』
その言葉を聞いた老人は再び優しい表情に戻った。
『良かった…。わしはわしを本当に信じた者にしか願いを叶えてやることができんのだ。君は正しい選択をした。すぐに娘さんの所へ連れていってもらおう。』
『あ、ありがとうございます!』
スティーブはその場で泣き崩れた。
『泣いてる暇はないぞ。さあこれを着て一緒に外へ。』
そう言って老人は赤と白の分厚いジャケットをスティーブに渡した。自分もそれを羽尾って外に出るとトナカイを2頭大きな真っ赤なソリに繋げた。
『さあ乗るんだ。』
二人を乗せたソリはトナカイに引っ張られどんどん加速していった。するとトナカイは地面を蹴り上げ宙に浮き始めた。そのまま宙を蹴り続けソリはどんどん高度を上げていく。
スティーブは驚きのあまり言葉が出なかった。
その様子を見た老人がスティーブに声をかける。
『そうだ、まだわしの名を言ってなかったな。
覚えておきなさい。わしの名は"サンタクロース"じゃ。』
ニッコリ笑ってサンタはそう言った。
いいなと思ったら応援しよう!
