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夜の狩人

珈琲を飲み干した黒田は読みかけの本にしおりを挟み店を出た。

日は沈み辺りはすでに薄暗くなっている。

黒田は決めていた。
"今日はあの日にしよう"
自分でも気分が高揚しているのを感じた。

歩くスピードも自然と早くなる。

黒田がT字路を右に曲がると20メートルほど前を若い女性が歩いていた。

計画通り。
黒田はここ数日間で彼女の行動パターンを把握していた。
この時間帯に人気の無い路地を1人で通る事も。

地面を蹴る。
黒田はものすごい勢いで彼女に迫っていった。

ぐんぐん二人の距離は縮まり黒田は彼女の腕を掴んでその場に押し倒した。

女が声をあげる前に口をふさぎ、首もとにかぶりつこうとしたその瞬間鈍い痛みが身体に走った。

『なんとか、作戦成功ね。』

彼女はニヤリと笑った。
黒田の腹にはナイフが刺さっていた。
その状況を理解した瞬間、先程と比べ物になら無い痛みが襲ってきた。

『ぎゃあああ!い、いでえ!』

黒田が痛みにのたうちまわっていると
彼が通ってきた方向から1人の若い男が小走りで近づいて来た。

『センパイ大丈夫っすか?』

『大丈夫っすかじゃないわよ!私が囮でアンタが後ろから仕留めるって作戦だったでしょ!ホント使えないわね。』

『サーセン。オレ今日現場初なんで勝手が分かってなくて。』

『これだからゆとりは…。』

『そんでこいつどうします?』

『こいつは最近ここらで頻発してた婦女吸血事件の犯人よ。処分していいって上から許可はでてるわ。私たちで処理するわよ。』

『げえ。オレ吸血鬼の処理とかしたことないっすよ。』

『だったら今日で経験しなさい。
ほら、このロープでさっさと手と足縛って。』

『はあ~。そうゆうの苦手なんだよなあ。』

彼女からロープを受け取った若い男は吸血鬼の手と足を縛り上げた。

『あんた十字架は?持ってきた?』

『センパイ、今時十字架は流石に古いっすよ。』

『生意気ね。』

彼女は後輩の頭を叩いた。

『いってえ。だって今はほらこれでいいんすよ。』

香水のような小さな入れ物を取り出した男は吸血鬼に向かってそれを噴霧した。

『ぎゃあああ!』

吸血鬼は霧がかかった部分から溶け出し煙を上げて消えていった。

『聖水っす。便利っすよ。』

男は彼女に向けてそう言って笑った。

『ホント生意気!』

"バシッ"
彼女が男の頭を叩く音が路地に響いた。

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フライング小僧
楽しい話を書くよ