ほのかにスパイシーさ
いちじくがおいしく感じるとか、
むかし通った道がせまく感じるとか、
5分でもいいから横になりたいとか、
良くも悪くもおとなになったのかな、と思う瞬間は何度かあった。
整体で「肩甲骨の周りどうしちゃったんですか?」「これは農作業してる人の腰ですね」と言われたのも、おとなだ。
おとなは、コリ育てもする。
あきらかにデスクワークが原因なので、横浜を散歩することにした。
地図にも載る、5mくらいはありそうな大きなアンパンマン。
その足下では、もはや豆粒のようなこどもたちが思い思いのファイティングポーズで記念撮影していた。
アンパンマンをみて「うまそうだ」と思ってしまうのは、おとな、なのだろうか。
なにが君のしあわせ
なにをしてよろこぶ
アンパンマンが脳内に問いかけてくるから、自分がよろこぶことをしようと思った。
なにが自分のしあわせか、よく分かっている。
というか、昼時で単純におなかがすいたのだ。
マーロウブラザーズコーヒーは、マーロウ初の喫茶専門店だけれど、平日ならラザニアやパスタなどの食事メニューもある。
マーロウ自体がご当地グルメなのだが、いまのところ、この業態は横浜そごうにしかない。
報道をみているとそごう西武自体の行く末が心配だが、横浜観光にはうってつけだと思う。
土日はカフェメニューだけだが、ビーカープリンのマーロウなので、プリンパフェだけで満腹になるはずだ。
壁と向かい合うカウンター席には、コンセントもある。
さすがにアンパンはないが、カレーならあった。
字面に好きなものが詰めこまれていたので、カマンベールチーズチキンカレーに即決した。
からいものは苦手なおとなだが、メニューの中辛という文字を見逃してオーダーしてしまい、ちょっとドキドキした。
中辛がいちばん油断ならない。
国産みかんジュースを頼んでおいてよかった。
サフランライスと、生野菜の彩りが食欲をそそる。
中辛というわりに、とてもマイルドでコクがある。カマンベールのコク以外にも、なにかありそうな奥行き。
でも、ほのかなスパイシーさもちゃんと残っていて、鼻から抜けていく。
この食べやすさは、千疋屋のマンゴーカレーに近い。
メニューの詳細をみたら、「カマンベールと生クリーム、マンゴーピューレをくわえたクリーミー&フルーティーなカレー」と書いてあった。
わたしの好きなカレーの影に、マンゴーあり。マンゴー、おまえだったのか。
千疋屋といい、甘味に重きをおくところのカレーは、喉へのあたりと、舌への染み込み方がやさしい。
甘党のことをわかってくれているな、と思う。
ところで、アンパンマンミュージアムのとなりに、Kアリーナ横浜ができた。
こけら、落としたて。できたて。
そしてそのさらにとなりには、わたしには一生縁がなさそうなヒルトン横浜。
こどもたちの夢の場所のとなりに、おとなたちの夢の場所がある。
世界最大級の音楽に特化したアリーナということで、その大きさは外観だけでも圧巻だった。全客席がステージに向いており、客席数は20,000ほどだという。
横浜駅のJR中央改札口からは、土地勘があっても正味徒歩15分。
横浜がはじめてだと、けっこう難易度が高そうな導線である。まさか、日産の本社ビルの中を突っ切るとは思わないだろうから。
この日は公演がなかったので、誰もいないアリーナの外周をぐるりと回ってきた。
ライブがある日は、ここが20000人で埋め尽くされるのだ。
クラッカーがはじけ飛んだような、華やかなパブリックアートがあったり、
透視図法を体感できる通路があったりする。
屋根があるということは、待機列や物販列をさばくのに使うのだろうか。
西日、かなり強い。
将来的に横浜駅とつながりそうな歩道橋は、建設中のため途中で途切れており、ダンジョン感があった。
横浜駅自体、わたしがこどものころからずーーーっと工事していたのだが、このあたりはまだ進化するらしい。
サクラダファミリア横浜、まだ完成していなかったのか。
散歩ついでの下見、ばっちり完了である。
好きな音を浴びるのもまた、わたしのしあわせであり、よろこび。
奇跡的に一般発売でKアリーナのライブチケットが取れてよろこんでいたら、窓の外から小学生男子の歌う声が聞こえてきた。
そうだ うれしいんだ
生きるよろこび
たとえ胸の傷がいたんでも
偶然にもほどがあるが、ほんとうに歌っていた。
そうだ、なによりも、生きるよろこび。
その哲学的で本質的な部分を口ずさむとは、彼のほうがよっぽどおとななんじゃないかと思ってしまった。
ほのかにスパイシーな気持ちになった。