志願兵常識という戦場へ
散々散歩 PTSD
前提と保証の罠
既に捕虜と
分かってますか?
降伏
許されるはずないのも
お分かりですよね?
言われるまま
生産性に日々を捧げ
消費するだけの命
あの大災害
現場を全く知らない上層部は
あなたに責任丸投げして
好き勝手机上の空論
敵は災害じゃない!
バカな上司!って
みんなで再確認した中
あなたは
黙って現場に向かった
濁流が飲み込んで
骨組みだけになった街
炎天下
汚泥の悪臭
怨嗟の声
5年が経った今でも
生々しい傷跡そこかしこ
英雄と讃えられたあなたが遂に病んでしまわれたとの報
早々に見切りをつけ
とっとと下野した私が
風の噂でそれを知ったのは
あなたが倒れてから既に
1年が過ぎてた頃
自宅を訪ねると
随分と待たされた挙げ句
あなたは変わり果てた姿で
現れましたね
真っ白になった髪は
伸び放題の蓬髪
目は窪んで
覇気の欠片もない上に
頬は弛み黒ずんでいた
とても同じ人とは思えず
私は平静を装うのがやっとでした
訪ねてきたのは
私が最初だなんて
悪い冗談かと思いましたよ
あんだけ世話になっておいて
この1年誰1人とか
あんまりじゃないですか
怒ったとこ
見たことないし
いい人過ぎたんですよ
そういうことに
しておきましょうよ
会社からは
いつ復帰出来るか
催促の電話が来るだけ
定期的に通院して服薬
おかげで元々糖尿な上に
EDにもなったと
自身を嘲笑うあなたに
私はどんな顔してたんでしょうね?
だってそうでしょ?
心の病に
完治なんてあるんですか?
気晴らしに
ドライブに行きましたね
ドライブスルーが遅いって
あのあなたが目を血走らせ
怒鳴った
横断中の歩行者にも悪態
さすがに引きましたよ
私からしたらどちらも普通
あの頃のあなたは
明らかにおかしかった
だから私は
散歩をススメたんです
太陽浴びながら
マイペースで歩くだけ
渋々了承したあなたは
いつもすぐに帰りたがった
駄々をこねコンビニに行き
やたらと油っこいのと
甘いのを買おうとする
年長者のあなたに
本当は言いたかった
勘弁して下さいよ
それじゃ治るもんも
治りませんぜ
でも言えなかった
我慢するストレスで
また妙なことになっても
イヤだし
そんなこんなで
あなたをなだめすかし
繰り返し誘ってるうちに
10km歩いても平気な身体に
なったじゃないですか
私も嬉しかった
絶対他の職
見つけた方がいいと
お互い言ってたのに
半年が過ぎた頃
やっぱ現場に戻ることしか
思い浮かばんと
あなたは口を強く結んだ
役職3階級も落ちて
尻拭いしてやった部下が
今度は上司になって
こき使ってくるの
目に見えてるのに復帰?
散々あなたを矢面に立たせ
何一つ報いることなく
更にはあなたが病んでる間も
出社催促するだけの
あの会社に復帰?
おかしいでしょ!
私は理由もなく泣けてきて
涙ながらに猛抗議重ねたが
あなたは戻るの一点張り
説得が徒労に終わること
最初から分かってたけど
言わずにいられなかったのは
私のエゴ
あなたも分かってましたよね?
先週思いがけず
元同僚に会いました
あなたの今の同僚です
偶然会ったんです
ウソじゃない
わざわざあなたの現状など
知ろうとは思いません
一緒に働いてた時は
全くそんな人とは
思わなかったのに
病んで引き籠ってる間に
あなたは疑心暗鬼に陥ってしまわれた
致し方ないとも思いますが
昔を知ってるだけに
至極残念でした
前は人一倍
率先して働かれてたのに
今は人並みさえ
出来なくなってるそうですね
あんなに出来てた人が
今では補助付きだとか
指導してた側のあなたが
上役に呼び出されて
みんなが聞こえる場所で
叱咤されてるって
旧態依然
相変わらずの会社ですね
悲し過ぎますよ
今回ばかりは
涙も出やしなかった
志願兵が
再び戦場に向かっただけ
いつ狙撃されるか
分からないスリル
飛び散る肉片
血と火薬の匂い
死に物狂いで突撃
敵を血祭りに上げ
生還しないと
自らの命を感じられない
いい加減おかしくなって
自宅待機で
暢気にしてりゃいいものを
飛び交う怒号
掠める弾丸
爆撃音
なんでこんなことになったのか?
叫びながら斃れる仲間たちの最期が
フラッシュバック
いくら寝ても
寝た気がしない
毎晩同じような夢で
目が覚める
決まって
身体中冷たい汗
布団に潜り込んで
2時間しか経ってやしない
寝ても覚めても
戦場が支配する
もう元には戻れない
普通ってなんだ?
これは普通じゃないのか?
朝から働いて
汗水流して稼ぐ
みんな
やってることだろ?
違うか?
普通なら
なんで安心出来ないんだ?
安定の為に
仕事してるのに
なんで1日たりとも
安心出来ない?
あなたはそう言って
見せたことない涙
流しましたね
だから
戻るしかないのですね
狂気の世界でしか
自分の尊厳を
認められない
目には目を
PTSDにはPTSDでしか
癒せない
あなたが
望んだことは
そういうことでしたか?
私は所詮
敵前逃亡脱走兵
無責任に逃げることしか
知りません
逃げた者には
逃げた者なりの痛みとか
甘ったれたこと
あなたは聞く耳
持たないでしょう
私は今こうやって
どうにかこうにか
露命をつないでます
自由律俳句に専念
全くの無収入で
齧りついています
私の戦場はここ
私だって狂っているのです
お互い年端もいかぬ娘が
2人いますね
あなたは
娘の為に、、と言って
正社員にしがみつき
満身創痍で再び戦場に戻った
繰り返します
あなたは
前提と保証の罠に嵌った
志願兵の捕虜
首輪を付けられ
しっぽ振りつつ
遠吠えの日々
完治しない痛みのまま
最前線に送り出され
前からも後ろからも
狙撃されるなんて
私は野良
逃げることしか知らない野良
常に在野にあるのです
頼みは我が身1つ
保証もへったくれも
ありません
私は常々娘に
勝手に生きろ!と
申してること
散歩しながら話しましたね
家庭に
お金入れることなく
好き放題やってる私を
お前とは合わん!と
あなたは
怒鳴り散らかしましたよね
私に怒ったの
最初で最後でしたね
いい人過ぎるんですよ
あなたが頑なに
現場に拘ったように
私も野良を生きるのです
だから互いに
肯定も否定もありませんね
鳥が飛び魚が泳ぐ
あなたは
生きる為に銃を持つ
志願兵
死にたくないから
引鉄を引き続ける
銃口
どこ向いてるのかも知らずに
最前線
私は脱走兵
敵前逃亡繰り返す
ゲリラの潜む密林か
亜寒帯の穀倉地帯か
野良は野良らしく
しっぽを巻いて
逃げるだけ
二度と会うことは
ないでしょう
たとえ
交差することがあろうとも
あなたは銃を構え
私は逃げるだけ
苦集滅道
〜元軍曹Y氏に捧ぐ〜
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