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ひとつ残らず、ぜんぶ愛

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#ショートショート

ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /1

ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /1

どこが好き?わたしのどこが好き?

なんて聞かなくても分かる

彼はわたしの眉をよく撫でる

眉の緩やかな曲線を優しくなぞったあとは

決まって優しくキスをする

彼はよくわたしの眉に見惚れていて

わたしはそんな彼の視線に熱くなる

この熱は、照れからじゃなく

きっと嫉妬に似たものから出来ている

わたしはわたしの眉にさえ嫉妬している

それがおかしいことは分かっている

わたしの眉はわたしの

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ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /2

ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /2

覗き込んで5秒くらい経ってからやっと彼が喋った

「寝れた?」

まだ半分しか開いていない目で

空のほうを向いていた彼が

こちらに視線を向ける 顔が近い

「うーん、割と寝れました」

と応えながら今度は私が空の方を向いてみる

「そう。良かった」

と言って彼もふたたび空を眺める

あーほんと、名前なんだっけ

「寝れましたか?」

「割とどこでも寝れるタイプだから寝れたよ」

「良かった」

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ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /3

ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /3

僕の彼女は僕のうちに来ると必ず
夜はベランダでビールを飲む。

つまみは目の前に浮かぶ月

僕より飲むけど、僕より弱い。
酔うと決まって、

「今日も月が綺麗だね。
 ここから見る月が1番綺麗」

と彼女が言う。

曇りの日や雨の日
月のない日はうちにはこない。

うちじゃない場所なら会ってくれるのかというと
そういうわけでもない。

会えない理由を聞いても、彼女は
「なんとなく。」
としか答えな

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ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /4

ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /4

家に帰ると玄関に2足
大きいスニーカーと小さいサンダルが並んでいた
わたしが履いている靴のサイズはその2足の中間

玄関に大中小と上手く段階を踏んでいる3足が揃うと嬉しくなる。

昨夜、凪ちゃんちの狭い玄関に
靴が散乱してたのを思い出す。
でも1足だけはきちんと揃えられていた。
眼鏡をしたまま眠っていた彼の靴だけは。

部屋に上がると大好物の香りがした。
香辛料が鼻をくすぐる。

「カレーだ、、、

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ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /5

ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /5

晴れた

ほぼ毎年のように雨が降るのに今年は晴れた
しかも昨日までは雨予報だったのに晴れた

嬉しい

たぶん主役よりもそのことが嬉しい

蒼くんも1日中嬉しそうにしていた。

おはようのあと、
「雨降らないじゃん。良かったね。晴れたね。」

モンブランのホールを買って家に帰る途中、
「いやー、ほんとに、晴れて良かった。」

夕方、スーパーまで歩いているとき、
「いつもより夕日綺麗だね。」

蒼く

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ひとつ残らず、ぜんぶ愛/6

ひとつ残らず、ぜんぶ愛/6

なにか声のようなものが現実を連れてきて
閉ざされた音の世界に入り込む。 

それが、だんだんと
同じ言葉を繰り返しているように聞こえて、
目を開けてヘッドホンを外す。

それはのんちゃんが私を呼ぶ声だった。 

なーにー?どこ?お風呂?
と返しながら
ベットから下りて風呂場に向かう。 

少し戸を開いたのんちゃんが、
濡れて、一層艶めく白い肌を覗かせた。

そして、わたしの目を見て

部屋から化粧

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ひとつ残らず、ぜんぶ愛/7

ひとつ残らず、ぜんぶ愛/7

上着を羽織って
スマホと財布だけをポッケに突っ込み家を出る

日曜日、しかも天気が良いのにも関わらず
近所の古本屋に行く途中にある公園には
人ひとりいなかった。

公園が寂しそうに思えて、
自販機で暖かいココアを買い
黄色いベンチに腰掛ける。

今日は何にしようかな

古本屋の外に置かれた棚の中で
文庫本が窮屈そうにしているところを
思い浮かべる

クリーム色の外壁には
1冊100円
と手書きで書

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