ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /5
晴れた
ほぼ毎年のように雨が降るのに今年は晴れた
しかも昨日までは雨予報だったのに晴れた
嬉しい
たぶん主役よりもそのことが嬉しい
蒼くんも1日中嬉しそうにしていた。
おはようのあと、
「雨降らないじゃん。良かったね。晴れたね。」
モンブランのホールを買って家に帰る途中、
「いやー、ほんとに、晴れて良かった。」
夕方、スーパーまで歩いているとき、
「いつもより夕日綺麗だね。」
蒼くんが嬉しい気持ちになっていたら、
笑っていたら、それだけで嬉しいのに、
蒼くんと同じことを同じくらいに
嬉しいと思えることが嬉しい。
こうして誰かと生きるってこんなにも満たされるんだと、蒼くんのおかげで気づいた。
のんちゃんは19時過ぎに帰ってきた。
おかえりの返事もなく、
ものすごい勢いでソファにダイブ。
誕生日なのに仕事でクタクタになったのんちゃんは今にもオレンジのソファに溶けてしみこんでしまいそう。
急いでビールを手渡したら突き返してきた。
え、なに、飲まないの?
あ、そうだった。開けられないんだ。
この深爪女め。
内心で毒づきながら、プルタブを引いて、
再び手渡す。
深爪女は仕事から帰って1杯目はビールを飲む。それを必ずわたしか蒼くんが開けてあげなくちゃならない。
わたしと蒼くん、どちらもいないときには、
深爪女は小銭を使ってプルタブを起こして
ビールを開けているらしい。
最近は蒼くんが開けていたから、
そのことを忘れていた。
2杯目以降は
ずっとハイボール。寝るまでハイボール。
4リットルのサントリーウィスキーに
ポンプをつけてキッチンに置いてある。
本人曰く節約らしいけど、
飲む量は増えてるから、どっちもどっち。
朝、のんちゃんが家を出る前に、
夕飯なに食べたい?
と聞いたら、
鍋かな、今のところは。
無邪気でいたずらっ子みたいな顔をしながら
そう言った。
お昼ごろ、スーパーに行く前にもう一度、
夕飯どうする?
と連絡したら、
鍋。
と、朝と同じ答えが返ってきた。
蒼くんにそのことを伝えると
夜まで気が変わらなきゃ良いけどね
ってなぜだか嬉しそうに笑っていた。
のんちゃんはビールを飲み干して、
鍋の前に座ってからやっと
ただいま
と口を開いた。
2度目のおかえりを言うと、
間髪入れずに
いただきます
と手を合わせた。
慌てて蒼くんが器によそって手渡すと
仕事用の服のまま食べ始めた。
わたしと蒼くんは、
そんなのんちゃんを見て笑い合った。
えくぼが見えて、また嬉しくなった。
ホールを3人で2日間かけて食べた。
のんちゃんが好きなモンブランを
初めて美味しいと思えた。