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最近読んだ本など

せっかく読んでも、感想書いておかないと忘れてしまうので、駆け足で最近読んだ本の感想など。

伊坂幸太郎『クジラアタマの王様』(NHK出版):夢の中で出会った3人の男が、現実社会の中でも不思議な連携をとることになる、ぼーっと読んでいると理解できない不思議な物語。タイトルはクジラが入っているが、ハシビロコウのことをラテン語でクジラ頭の王様、というらしい。ハシビロコウが裏主役の物語。いつにも増して複雑な物語構成。作中に挿入されるコミック(川口澄子)が作品の一部として素敵に機能している。作中で新型インフルエンザの大流行でパニックになる社会が描かれ、それが現在の社会を予言しているかのような恐ろしさ。2019年7月刊行の書き下ろし小説なので、新型コロナウィルスはまだ発生していなかった時代なんだけど、ウィルス感染への恐怖とか、感染者への誹謗中傷とか、人間の本質が見えている感じで読みながらぞーーーっとした。メーカーのお客様相談窓口の炎上とかのエピソードも丁寧に描かれていて、CS(カスタマーサティスファクション)についても学ぶところの多い小説だった。

梨木香歩『冬虫夏草』(新潮社):『家守奇譚』の続編。文筆家綿貫のささやかな日常の中で描かれる季節感から始まり、失踪した飼い犬ゴローの探索に、東近江の山間に分け入り鈴鹿を目指すみちゆきの中で、自然の中の怪異と自然に交わっていくさまが描かれる。動植物の名前を検索したり、実在の地名を検索してたどったり、調べながら読書を愉しむ。夢枕に立つ、亡き友高堂が示唆する道筋、そして将来的にダムの底に沈む集落について、水中の世界と陸の世界をつなぐ「河桁」の巨大化によって犠牲になったものと譬える。
美しさと切なさにあふれる読後感。

大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(文藝春秋):令和初の直木賞受賞作。作者初の時代小説。人形浄瑠璃の作者近松半二の生涯を描く。浄瑠璃好きの父が近松門左衛門から譲り受けた硯を貰い、それで脚本を書き続けるが、なかなかものにならない。芝居小屋が好きで好きで、入り浸って、実母に疎まれ、家を出た後、二度と母と相まみえることない相克、一緒に芝居を見ていた仲間の正三が先に歌舞伎の脚本で第一人者となっていく中、ひたすら浄瑠璃の本を書き続ける半二、道頓堀と京都の行き来、馴染みのない世界の物語であることもあり、イメージが湧きにくく、紆余曲折の過程が地味で、ある意味、これで直木賞受賞に至ったことが驚きでもあるが、自分自身も劇団に深く関与し、芝居興行をすることの苦難を知っている作者が、文学とか小説とかとは違った構造のものを創造し、それを小屋で具現する、その過程を丁寧に描いた作品で、読み進めると、だんだん半二への共感が深まり、応援したい気持ちになってくる。
大島真寿美の作品はこれまで『ピエタ』(ビバルディについての物語だ)とか『虹色天気雨』(ドラマになった「ビターシュガー」の原作)など、幾つか読んだが、同じ作者の作品とは思えない新境地。今後どういう世界が広がっていくのか、期待したい。

絲山秋子『御社のチャラ男』(講談社):新聞の書評欄で見て気になって読んだ。芥川賞受賞作「沖で待つ」を読んで以来の絲山秋子だったが、面白く読んだ。
地方都市で、ビネガーやオイルを扱っているジョルジュ食品という会社の物語。タイトルになっているチャラ男は、社長のつてで営業統括部長として中途入社した三芳道造44歳。色んなことに首を突っ込み、会議で意見を言いまくるが、実は仕事は全然してない、ちゃらちゃらしている、と言われる。そして、実は別に物語の中心にいる訳でもない。
章ごとに語り手が変わり、社長、中堅社員、チャラ男本人、新入社員、社員の家族など色んな人が、自分に見えているものや思っていることをひたすら語る。語り手によって、ジョルジュ食品という会社の姿が全然違って見える。ジョルジュ食品版「藪の中」って感じ。
わたしの大好きな伊井直行という小説家が「会社員小説」という概念を提唱して、『会社員とは何者か? 会社員小説をめぐって』 という本まで出しているが、その中で『沖で待つ』も取り上げられている。伊井直行本人の会社員小説とはちょっと様相が違うが、『御社のチャラ男』も新たな会社員小説の金字塔となるよな、と思った。

村山由佳『ダンス・ウィズ・ドラゴン』(幻冬舎):井の頭公園の奥にある、夜しか開かない図書館。たどり着ける人、そこで働く人は図書館が選んでいるかのようだ。しかし図書館に関する謎は物語の中では語られない。図書館に選ばれた何人かの男女の魂の再生の物語、なのだが、設定に気持ちが入り込めず(日本人が構築したファンタジー世界が割と苦手なので、抵抗感が強かった。それはわたしの問題なんだが)、目の前でくるくる展開される物語をざーっとなぞるような読書になってしまった。
作者本人の思い入れは結構あったのではないかと、読んでいて思ったが、多くの読者に受け入れられないと、続きが書けないのが商業出版の哀しさかも。謎の解明はこの物語の目的ではないと思うが、続編が書かれることで見えてくることもあるのかな、と思うので、もし続編が出れば、たぶん読むと思う。古今東西の龍についての言及があり、それも書き続けられることでもっと広い世界を見せてくれるのではないかな。紙数は大事である。


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