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【帰りの電車で展覧会寸評!】♯8 国立能楽堂「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」
今回は、東京は千駄ヶ谷にある国立能楽堂、その資料展示室で催されているこちらの展覧会のレビューです。無料で楽しめるものですが、満足度は高い者でした。
是真とは
柴田是真は、幕末から明治時代に活躍した漆工芸の職人です。絵描きとしても、よく知られています。町人に生まれた是真。10代にして蒔絵師に入門して研鑽を積みます。そして最後には、帝室技芸員に任命されるまでの高名な名工となります。そんな是真の作品を取りまぜながら、とくに能楽との関係に焦点を当てたのがこの展覧会です。
近代の萌芽、記録のまなざし
江戸時代も末期となると、まだ本格的な近代化は始まっていないものの、その萌芽は確実に芽吹き始めていました。絵画では、「スケッチ」によくあらわれます。
それまで、制作のもととなる下図を制作したり、その参考とするため古い絵画作品を模写することは盛んに行われていました。江戸時代になると、動植物を描くため、ホンモノをスケッチすることが行われはじめます。そう、スケッチ自体が、実は日本の歴史的にさほど古いものではないのです。そして、幕末ともなると、それまでの定型(人物はこの角度からこう描いて…。鳥はこのポーズで…など)を外れ、より新しい絵作りが意識されるようになります。
今回、是真による能楽のスケッチブックがたくさん出品されています。そこには、躍動的で立体的な人物の図、パースを意識した、空間性に富んだ舞台の図、さまざまな角度から見た面の図など、伝統的な日本画からは逸脱したスケッチがたくさん収録されています。
琳派とは異なるお江戸デザイン
当方、是真については特にくわしくありませんが、作品を見て、思ったことを二点。
まず、デザインの理念が琳派とは全く異なるということ。あくまで絵師の範疇にある琳派に対して、是真の本業は漆芸。デザインは、器形に大きく左右されます。例えば、酒盃であれば、円形の中にどうデザインを配置するのかが腕の見せ所でしょう。その点、まず絵画的なものをつくって、それを目的に応じてトリミングする琳派とは違うのではないか。例えば、円窓鍾馗図は、円形の中に本来の主役である鍾馗を置き、その外に逃げ出す鬼を描いて面白みを出します。この配置なんかは、そのまま酒盃の表裏に描いてもいいでしょうね。
そして、面塗りにおいて、陰影があまりなく、割とベタっとしていること。これもやはり、是真が本来絵師ではないという点から来ているのかもしれません。こうした面塗りにおいて、琳派はいわゆる「たらし込み」と呼ばれる暈しの技法を用います。是真が生み出した「漆画」もやはり、ベタ塗りでこそ表情に面白みが出ます。あるいは、ひとつの打開策だったのかも。
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