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【神護寺展】国宝 薬師如来立像 左のドレープを…ご住職 谷内弘照さん裏話
メインビジュアルの神護寺のご本尊。あまり仏像に詳しくないと、「国宝だ」「仏像かぁ〜 」「ご本尊 へ〜」でサラッと終わってしまいそう。←仏像知識の薄い自分のことでもある
神護寺展の準備真っ只中、2024年5月にご住職(貫主)谷内弘照さんから展覧会の裏話を伺い、そこで聞いた薬師如来立像が東京にお出ましなることの貴重さと見逃せないポイント、調べて知ったことをまとめたいと思います
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東京国立博物館
創建1200年記念
特別展神護寺―空海と真言密教のはじまり―
2024年7月17日(水)~2024年9月8日(日)
◎薬師如来立像は通期展示
絶対に見る角度は【真っ先に左サイド(向かって右)】
この仏さまの推しポイントはとにかく
ホンパシキエモンです ←口に出して言いたくなる
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ジュニアガイド 鑑賞ポイント凝縮
(国宝)薬師如来立像 見逃せない3大理由
①奇跡の虫食い発生 イレギュラー東京出張
1200年以上の歴史で寺外へ初移動
東京で見られるのは最初で最後かも?!
②東博展示限定!最も美しい角度が見られる
平安初期彫刻の傑作と言われる薬師如来さまの
最もおすすめの美しい角度は神護寺では見られない
③空海さんも1200年前に見ていたご本尊
(国宝)薬師如来立像は特異なお姿
仏像について詳しくないと、お姿をそのまま見て”こういうものなのだろうな”と違和感なく見てしまいそう。しかし、この薬師如来様は特異なお姿なのだそう
みうらじゃんさんと、いとうせいこうさんが
TV番組でこのお像を前に、
「不思議」「全てが違う」「変わってる」「特徴的」
と繰り返し表現されていたのが印象的
(国宝)薬師如来立像とは
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◼️日本彫刻史上の最高傑作と言われる
◼️国宝指定2号(1号は広隆寺の弥勒菩薩)
◼️彫刻技術の優秀さだけでなく精神性の表現も取り入れ、宗教彫刻に独自の境地を開いた類まれなる名作
◼️ポリュームに満ちた体躯、森厳な顔つき、呪術的な表情など、それ以前、天平時代の仏像とは大きな違いがある作風
【作者】不明
【制作】奈良時代後期から平安時代初期 8〜9世紀頃
【造り】一木造 4倍以上の大木から削り出したもの
よって、かなり重みがある
【素材】カヤ
檀像と呼ばれる白檀などの香木を使い木目の美しさをいかした仏像であるが、日本には白檀や沈香などの香りのする木が無いのでカヤを用いている。カヤは少し香りがする
【サイズ 】像高は170㎝ 台座を入れると2mほど
【彩色】口元と眉に後補で彩色
【状態】非常に良い
背中にヒビなど無く、螺髪が取れたりもせず
【お顔の表情】通常の薬師如来とは異なり厳しいお顔
※厳しいお顔の背景は後述
【手の位置】通常と比べ左手が高い位置にある
今回展示されるのは実は奇跡…その理由
本当は行かせたくなかったご本尊
東博にご本尊に行ってもらうということになった時、神護寺ご住職は周りから「えっ 住職行かせていいんですか?!いいんですか?!」と驚かれたという。本当は行かせたくないのだけれど、予期せぬ都合がピッタリ合ってしまい「では行ってもらいましょう」ということになったという
①虫食い発見
厨子に入っていて普段全く見えない台座の写真を撮ろうと出したら 、ひっくり返さないと見えないところに虫食いがあるのを発見
②修理期間の確認
虫食いを修理するということで美術院(国宝の修理・文化財修理を行なう団体)へ来てもらって
どれくらい修理がかかるか聞いたところ3か月かかると 。台座がないと仏さまは自立できない…
③「あれ 東博行けちゃう?」修理期間が展覧会期間にぴったりハマる(奇跡)
えーっと、展覧会2か月…修理が3か月…ぴったり!台座がないと仏さんは自立できない。台座を修理するために行って帰ってくる間、ご本尊は東博に飾っておける。東京行き決定
《虫の奇跡に思う東京出張の薬師如来さま》
ドンピシャの修理期間。薬師如来様自らが虫に指令を出して、あまり影響の無い台座部分を食われてまで「積極的に東京行き」に動かれたのではと思ってしまう 笑
「ちょっと東京にワタシのエネルギーを拡散しに行きますよ」と 誠にありがたいことです
台座を直してしまったら、
東京で見る機会は無いのかもしれない
波のような造形美「翻波式衣文」ドレープ必見
翻波式衣文 という仏像の衣皺(衣文)表現の一種を用いている。一度聞いたら口ずさみたくなる名称 笑 字面もなんだか好き
【翻波式衣文とは】
丸味のある太く高い波と鎬(しのぎ)をたてた低い小波を交互に平行にあらわしたもの。
平安時代初期,9~10世紀ころの木彫像に多く用いられ,その時代の彫刻の一特徴とされる。
とにかく真っ先に左サイド(向かって右)確認
波が打ち寄せるような美しい衣
ご住職「「翻波式衣文だから正面をよく見て」と言われるが、この薬師如来様の翻波式衣文の注目は左サイド」とのこと
そして、「今日だけですよ」「今日だけだすよ」と満を持して特別に左のドレープの画像を見せていただいた 笑
画像見ただけでも、惚れ惚れしてしまった。仏像でこういった衣の造形美見るのは初めて
通常、神護寺の金堂の厨子の中に安置され、
神護寺では「左サイドは見られない」という
ご住職「東京まで見に行く価値あり」
「東博では翻波式衣文を綺麗に見せるように考えてくれている」 →東博の展示に期待
左サイドの画像出てきます↓↓
【担当研究員による #ジンゴジ 1分解説🧑🏫】
— 創建1200年記念 特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」 (@jingoji2024) July 22, 2024
国宝「#薬師如来立像」についての第二弾です!
解説者はもちろん、彫刻担当の丸山研究員✨
衣のひだがすごいんです‼️
公式サイトでも一問一答解説しています👇https://t.co/p07Z2Qf9JI#空海の寺 #神護寺 #東博 pic.twitter.com/4lbDbfNYZj
ご本尊 薬師如来立像 1200年以上の歴史… 初の移動ドキドキ
展覧会で文化財を見ると、運送気を使うだろうなぁと思って見ている。道路で貴重なものを運んでいるトラックが往来しているのだ。こういった業者の方、凄いお仕事だ…
6月29日、運び出される薬師如来立像。この日どこかの高速?通過してると思うとドキドキ。高速を走る場合、自分が運転するなら追い越し車線は避けたいと思う(何の話?)
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跡がくっきりと 歴史を見ている
神護寺へは大きなトラックで上がれないので、小さなトラックに乗せてから大きなトラックに移して運んでいる
おそらく見守られているのはご住職
ご本尊 薬師如来立像 東博での展示の様子
東京国立博物館でのオープンニングセレモニー前の
本尊薬師如来様の開眼法要
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ご本尊 薬師如来立像 背面のお姿後期解放!
2024年8月14日追記
神護寺展開催前の神護寺ご住職の講演では東博での特別な公開では横からは見られるけれど、背面からはNGというお話を伺っていた。東京で見られるだけでもありがたいと思っていたら、なんと神護寺展の後期8/14から
薬師如来立像の背面からのお姿を見られることに!
↓その経緯が1089(トーハク)ブログに書かれている
2024年8月14日特別展「神護寺」後期展示が開幕!
展示担当の方の熱意と神護寺さんの思い……
元々東京で見られること自体が奇跡なうえに、背面もオープンにして下さる奇跡。なんという歴史的機会
【#神護寺展🍁 展示替え】
— 創建1200年記念 特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」 (@jingoji2024) August 13, 2024
明日(8/14)からの後期展示では、国宝「#薬師如来立像」の光背とステージ背後の白幕を取っています。
後期ではご本尊と日光・月光菩薩立像、背後の十二神将立像との一体感を感じる展示となっています!
装いも新たになった展示室をお楽しみください✨#東博 #空海の寺 pic.twitter.com/sYJD3iNxie
【1089ブログ】「仏像展示の光と影」特別展「#神護寺」の仏像を照らす照明について国宝「薬師如来立像」の威厳のある表情を表現するための工夫とは? ↓
展示の照明の奥深さ… 地震でもズレてしまう繊細な調整
ご本尊 薬師如来立像 風雨に晒され…困難を乗り越えて来た
神護寺は平安時代に2度火災に遭い、平安時代末期にはほぼ壊滅状態に。わずかにご本尊 薬師如来を風雨にさらしながら残すのみとなっていたという
【平家物語 神護寺荒廃の様子と文覚上人の復興】
彼の高雄に神護寺と云ふ山寺あり。昔 称徳天皇の御時、和気清麻呂が建てたりし伽藍なり。久しく修造なかりしかば、春は霞に立ち籠めて、秋は霧にまじはり、扉は風に倒れて、落葉の下に朽ち、甍は雨露に侵されて、仏壇更に露はなり。住持の僧も無ければ、稀に差し入る物とてはただ月日の光ばかりなり。
文覚是をいかにもして修造せんと云ふ大願を発し、勧進帳を捧げて、十方檀那を勧め歩きける程に、或時、院の御所法住寺殿へぞ参りける。 『平家物語』巻第五
文覚上人によって鎌倉時代に再興された後、室町時代にまた応仁の乱で火災に遭い、ほぼ建物は焼失。今回、神護寺展にお目見えになる国宝五大虚空菩薩像には火に煽られた跡が残るという。
そんな中、ご本尊 薬師如来立像はおそらく無傷。とにかく「ご本尊だけでも」と歴代の神護寺の人々が守ったきたのだろう。一木造りで重いのでとても移動が大変だったはず。荒廃の風雨に耐えられたのも頑丈だったからというのもあるのかもしれない
【新TV見仏記】薬師如来立像へのコメント「みうらじゅん」さん「いとうせいこう」さん
みうらさんと、いとうせいこうさんが、神護寺ご住職とともに神護寺の金堂で薬師如来立像を間近で拝観
(通常は遠い位置からの拝観となっている)
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「京都編」の神護寺のシーンで、たくさん仏像を見ている人はさすがだと思ったコメント
とにかく「不思議」「全てが違う」「変わってる」
「特徴的」とお二人が繰り返し表現
みうらさんと、いとうさんの感想
「腰を少し左に曲げて観音のよう、中心線が違う」
「太ももが太い 、神仏習合仏の特徴で顔の厳しさが出ている。少し腰が左に曲がっていて衣もその曲がりに沿っている 」
「(お顔の特徴を見て)山の修行場みたいなところがあったりするんですか? 」
神護寺ご住職
「昔は愛宕山の頂上に白雲寺というお寺があってそこからそこを中心に五つお寺を創ったのが高雄山寺。今は月輪寺と神護寺しか残っていない。昔から山岳道場、山岳修行の場であった場所にお寺を開いた」
いとうせいこうさん
「だから神仏習合(仏となるの)は当然のこと…
急に薬師がこういった厳しいお顔になることがある、
薬師は神仏集合しやすかったのかも」
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神護寺は京都の北西に位置し、愛宕山山系の高雄山にある
愛宕山とは
京都盆地の北西に位置する山。京都盆地の北東にある比叡山と並び、古くより信仰対象の山とされた。
神仏習合とは
日本古来の神道と仏教を結びつけた信仰のこと
みうらさん
「印(手の動き)が上めで不思議、アクティブ」
「活動家みたい」
「パワーが凄いと感じる 」
「特異な形、日本でしかありえない」
「太ももの飛び出しが半端ない」
「一木造り特有の重量感がある」
さすがの理解と表現力
山岳信仰…寺院の場所…仏像のお顔 神仏習合仏
お二人の会話から、神護寺の薬師如来立像が、通常の薬師如来の「優しいお顔」ではなく「厳しいお顔」をされている背景が理解できる
神護寺の名前自体が神仏習合的だなと
神護寺 神を護る寺
神願寺 神に願う寺
薬師如来立像 最初はどこにあったのか
神護寺は高雄山寺と神願寺が一つとなってできた寺院。薬師如来立像はどちらの寺院に最初にあったのか明確な記録が残っていない。神護寺のご住職は神願寺だと考えているという
理由としては、
神願寺は定額寺なので高雄山寺より格が上だからで、こんなに素晴らしい像を管理するのは、やはり格が上のお寺であると思われる。癒しの仏様というよりも、鋭い眼光と迫力あるお姿が特徴で鎮護国家のために和気清麻呂公が作られたお像であろうと
【定額寺とは】
平安時代、朝廷が特に数を限り官寺に準じて制定した寺。 私寺の乱造を防ぎ統制を強めるために制定したもので国が費用を出して管理するお寺
各写真家によって印象が異なる「薬師如来立像」の比較記事(これほど違うのかと驚く)
ご本尊 薬師如来立像のお留守中…「展覧会期間」神護寺をお護りする特別編成
神護寺 展覧会期間限定
2024年7月1日(月)~9月下旬
(本尊がお帰りになるまで)
【東博出張 薬師如来立像と十二神将像の留守お護り隊】
・秘仏 五大明王像
不動明王、降三世明王、軍荼利明王、
大威徳明王、金剛夜叉明王
・脇侍 吉祥天 善膩師童子
【特別ご開帳】
・秘仏「毘沙門天」(平安時代)重要文化財
昭和10年に毘沙門堂に安置されて以来の公開
・薬師如来坐像 (奈良時代)重要文化財
通常は京都国立博物館で管理
150年ぶりに神護寺へ一時返還
・普賢菩薩(平安時代)
秘仏 毘沙門天 ↓
薬師如来坐像 ↓ 150年ぶりの神護寺一時帰還
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(脱線)愛宕山につらなる神護寺と”いわば仲間”の月輪寺の「空也上人像 」がアレな件
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口から2つ出ている みうらさんの月輪寺の空也上人像の説明
「ストリートラッパーのはしり」 笑
【みうらじゅん*山田五郎】お地蔵さんや空也上人像をみうらじゅん的に分析!?漫画に欠かせないアレのルーツも?【みうら少年の恋バナに、歯がある菩薩や破損仏復完計画も!】
オトナの教養講座のみうらさんと山田五郎さんの仏像を語るシリーズが大好き。その中でも今までで一番インパクトのあった ”あの” 空也上人像 がある月輪寺が神護寺の仲間のお寺だったとは予想外。神護寺に行く時は月輪寺もセット確定
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神護寺とはこんなお寺 まとめ
神護寺に実際に行ってきました
神護寺の山登りの難易度の実態