シャイニング・プリンスの物語にふれる
2024年9月。NHKの番組「100分de名著」で、『ウェイリー版・源氏物語』が取り上げられました。
能楽師の安田登氏は、この『ウェイリー版・源氏物語』について、こう語っています。
紫式部が千年前に書いた『源氏物語』は、イギリスの東洋学者アーサー・ウェイリーによる英訳を通じて、世界に広まりました。このウェイリーの英訳は、近年日本語に再び翻訳され、注目を集めています。
どうして、読みやすくなっているのでしょうか。安田氏はウェイリーが敬語を省き、これまで曖昧だった主語をはっきりと書いたためだと説明します。
もともと『源氏物語』は敬語が多く使われていて、読者は省略された主語を推測しながら読み進める必要がありました。しかし、ウェイリーの翻訳は、誰でも楽しめる「おとぎ話」のような作品に変えたのです。
たとえば、主人公の光源氏は「シャイニング・プリンス」と訳されていて、作品全体の印象が大きく変わります。安田氏は「ヒカル・ゲンジ」について、出会った女性たちの本質的な輝きを引き出す神のような存在だと説明しています。だからこそ、「Genji the Shining One」という訳がぴったりくるのですね。
さて、お話は明治時代にさかのぼります。
1915年、与謝野晶子が初めて『源氏物語』を現代語に訳しました。そのわずか10年後の1925年に、アーサー・ウィリーが英訳を出版。この英訳は作家ヴァージニア・ウルフによって絶賛され、その結果、全世界で読まれるようになったのです。
現代語訳が完成してから、わずか10年で日本の古典文学が世界に広がるというこのスピード感は、偶然とは思えないほどの奇跡に感じます。
そもそも、私たちが今『源氏物語』を手に取り、紫式部の豊かな才能を感じながら読めるということ自体が、まさに不思議なめぐり合わせですね。
今年の秋は、私も『ウェイリー版・源氏物語』を手に取って「シャイニングプリンス」の物語を楽しみたいと思います。
番組での解説もとても面白く、多くの知識や教養が時を超えて頭の中で化学反応をおこすかのような感覚でした。しかもわかりやすかったです。来週も楽しみです。
※ タイトル画像は「gemini6rabbit」さんにお借りしました。ありがとうございました!
※ 追記:私が『源氏物語』に初めて触れたのは、大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』がきっかけでした。どんな形でも、興味を持つ入り口は自由でいいのですね。