【選書】「ミステリーって多すぎて自分に合うのを選べる気がしない」という友達に選書のコツを全力で話してみました〈第八夜〉 ―心震える「社会派」―
~「読んでよかった」のために自分の好みを知ろう
分け合いたい! 底知れぬミステリーの魅力~
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〈第七夜〉「誰も死なない〝日常の謎〟」はこちらから ↓↓↓
※以下、作家名は敬称略。本のデータは最後に記します
※あくまで私が読んだ本、好きなタイトルから話しています。ミステリーの選書に関してはすべて、ただの本好きの個人的な見解です
※おすすめの作品名も出しますが、あくまで選書のコツ・考え方がテーマです
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(1)「自分のことかも」「日常と地続き」と感じられるのが社会派の魅力
エイミ ではさっそく今日のテーマ「社会派ミステリー」の話だね。
ミキ なんか、久しぶりだね。
エイミ すみません。夏休みとかでちょっと忙しくて・・・。
ミキ はい、これまでのあらすじとして、私みたいにあまり読書慣れしてない人はまず「どんな謎ならワクワクするか」という自分の好みを知る、さらに「気になる作家を見つけたら作風や作品リストを少しでも調べてみる」、「現時点での読書スキルと好みに合った選書をする」という話だったね。
エイミ あとは、殺人事件や重い雰囲気が苦手な人は「日常の謎」ジャンルを試してほしいのと、「〝自分に合う作家やジャンル〟を意識することが読書世界への入口になる」ことを覚えておいてね。さて、話を戻すけどミキは「社会派ミステリー」についてどんな印象をもってる?
ミキ え~と、その前に今日はミキさんから素敵なお知らせがあります。
エイミ えっ、町内会のイベントで2000円分の図書カードが当たったとか?
ミキ いやそれも素敵だけれども・・・そうじゃなく実は今、第一夜でエイミにおすすめされた辻村深月の『傲慢と善良』を読んでるんだ。
エイミ ほんと? どう面白い? どのあたりまで読んだ? 感想聞かせて!
ミキ 近い近い・・・あのですね、ものすごく面白いよ。私にしては珍しくスイスイ読めちゃっていま半分あたりなんだけど、やっぱり彼女がなぜ失踪したのかを知りたいし、さがす男性側の心の動きとか、婚活でたくさんの人が悩んでる点とかがリアルで、私も婚活してた時期があるから共感できちゃう。謎解きというよりは「ミステリーよりの恋愛小説」って感じもするけど、謎があるからこそ読みやすいわけだし。
エイミ おお・・・。
ミキ 私からマトモな感想を聞けたことに感動してるんでしょ。
エイミ うん。手ごたえを感じたわ(笑)。
ミキ 人探しはミステリーの鉄板、興味の置きどころがはっきりしてるから読みやすいって前にエイミが言ってたけど、確かにその通りだと思った。もしかしたらこのあと、第三夜で教えてくれた宮部みゆき『火車』も読めるかも。私、文章を読むのが苦手なんじゃなく、文章だけでも入り込める話に出会ってなかっただけなのかもしれないなって。
エイミ よかった! じゃあミキ、今日の話題に戻るけど、『傲慢と善良』も社会派ミステリーの側面があるよって言ったらどう思う?
ミキ そうなの? 社会派って何となくドキュメンタリー番組で取り上げてるような社会問題とか犯罪がテーマだったり、刑事やジャーナリストがこつこつ調べて社会悪を暴いたり・・・っていうイメージが強いけど。
エイミ それもそうなんだけど、新聞の一面や社会面に載るようないわゆる社会問題だけじゃなく、社会で今まさに起こってる・・・つまり私達が生きてるこの社会でリアルに起こってる問題や出来事を扱った小説も、社会派って言えると思うんだ。
ミキ 私達の生活と地続きってことだね。確かにそう言われると婚活も私達が生きてる社会のリアルなテーマだよね。自由に生きられる時代だからこそ、結婚するかどうか、どんな出会いを求めるかで悩むんだろうし。少し前の時代ならマッチングアプリもなければ、みんなが「わかるわかる!」って婚活の痛みを共有すること自体が少なかったかもしれないね。
エイミ それに加えて『傲慢の善良』は、善良でありたいんだけど、自分を認められたいっていう傲慢さも人は捨てられないっていう、かなり現代的なテーマを書いてると思うよ。
ミキ だから社会派の側面があるって言ったんだ。
エイミ そう。なんだか今日はマジメな話をしているね、私達。
ミキ それも面白い小説のおかげだね!
(2)迷ったら気になる作家の「社会性の高い1冊」から
ミキ ただ・・・社会派ミステリーに関してもう少し正直な気持ちを言ってもいい?
エイミ うん、ぜひ聞かせて。
ミキ 『傲慢と善良』や『火車』はエイミが私の好みを知った上ですすめてくれたからいいけど、全体的に社会派は難しくて堅い小説っていうイメージがどうしてもある。刑事が語る事件のあらましとか裁判や法律の専門用語、社会的な背景とかをスイスイ理解してグイグイ読み進めるのは、かなり大変なんだよ・・・。正直言って何度か挫折したこともあるし。なんかゴメン。
エイミ いやいや、謝ることはないよ。確かに社会派は「誰が犯人で、どんな驚きのトリック?」みたいな謎解きや伏線回収よりは、「なぜこんな事件が起こったか」っていう背景や人間ドラマが中心になるから、ミキのイメージもわかる。わかるけど、そればかりでもないんだ。だからこそ自分ならではの「入口」を探すといいと思うよ。
ミキ 入口っていうと、やっぱり好きな作家から入るとか? ・・・そういえば第四夜で気になる作家の作風を調べるとか、第六夜では人気作家の作品群から自分好みを引き寄せるって話をしてたもんね。
エイミ うん。作風が好きと思える作家の作品から「より社会性の高いミステリー」を選んでみるのもいいし。たとえば私、いやミキも好きであろう宮部みゆきもたくさん社会派を書いてるけど、「宮部みゆきが社会の巨悪を暴くだけで終わりなわけないじゃん」って私なら思う。必ず、事件の渦中にいた人間の感動的なドラマを読ませてくれるはずだって。
ミキ それを聞いて思ったけど、やっぱり本好きな人って作家を信じてるんだね。って、これ基本?
エイミ 好きな作家がいる人はそうじゃないかな。この人の作品ならっていうのはあるし、ベースになる作家がいると読書習慣に安定感が生まれやすいんだよね。私にとっては第五夜と第六夜で話した東野圭吾もそうで、どんなに重いテーマを扱っていても、読み始めると止まらないエンタメ性があるから、「この先が知りたい! 800ページもあるけど読んでみせる!」みたいに気合が入る(笑)。
ミキ 800ページ・・・。
エイミ あとは、難しいことを書いてるのが社会派なんじゃなく、私達の日常と確かに繋がってるテーマを扱ってるのが社会派ってことだよね。宮部みゆきなら、名作『火車』や直木賞を受賞した『理由』だけじゃなく、ミキがそもそもドラマを観て興味を持った杉村三郎シリーズの『誰か』や『名もなき毒』も、前に話した東野圭吾の『手紙』も加賀恭一郎シリーズの大半も社会派の位置づけだよ。あ、第四夜で話した平野啓一郎の『ある男』もそうだよね。
ミキ あっそうか。じゃあ私達ずっと社会派の話をしてきたんだ・・・。
エイミ ミキの好みは聞けば聞くほど「感動的な人間ドラマが味わえる社会派」だと思うよ。あとはそうだな、社会派のなかでも「警察小説」は確立されたジャンルなんだけど、書いてる作家も作品数も多いから選択肢に入れておくといいと思う。ただ、警察内部の人間模様や犯罪捜査っていう骨太な内容がメインになるから、好みは分かれると思うけど・・・。ちなみに警察小説を書いてる作家で私が特に好きなのは横山秀夫で、短編集も多いからおすすめだよ。
ミキ 警察小説かぁ。興味なくはないんだけど、私はもう少し「あぁこれは自分の近くで起こってる」と実感できるような話を読んでみたいかな。
エイミ じゃあやっぱり「この人」って思える作家の作品から、ピンときた1冊を選ぶといいかもしれないね。
ミキ まずは『傲慢と善良』を読み切って、次は『火車』にいってみます!
エイミ 『火車』はカードローンとか自己破産の話だから、お金の使い方について考えるようになるかも。あとはもうひとつ、「もともと知りたかったテーマが書かれてる本」っていう入口がある。これ大事!
ミキ もともと知りたかったテーマ?
(3)「知りたかったテーマ」が深い読書の入口に
エイミ ちょっと重い話になるけど、私の場合は1984年に起こったグリコ・森永事件について知りたくて『罪の声』を読んで塩田武士という作家のファンになったし、1985年の日航機墜落事故について知りたくて『クライマーズ・ハイ』を読んで横山秀夫という作家のファンになった。どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションか、っていうのは理解して読んだほうがいいけどね。
ミキ 子どもだったけど、どっちもリアルな記憶がある世代です・・・。
エイミ 『クライマーズ・ハイ』はミステリーというより人間ドラマ、新聞記者のお仕事小説という感じが強いけど、私にとって横山秀夫という作家の入口になったんだ。
ミキ 確かに題材への興味が先にあれば、「〇〇をテーマにした社会派ミステリーは」みたいな選書もできるよね。私の場合、子育てとか女性の生きづらさをテーマにした社会派なら読める気がする。すぐに感情移入して辛くなりそうだけど。
エイミ 辛くなるかもしれないけど、そういう共感もまた癒しや励みになるんじゃないかな。もしかしたら登場人物の境遇や気持ちに共鳴して「これは私だ」って心を揺さぶられるかもしれない。「こんな人生が本当にあるのかも」と涙が出たり、ニュースでしか知らなかった社会問題の深層に触れて、少しだけものの見方が変わるかもしれない。社会派ミステリーってそういう力強さを秘めるんだよね。
ミキ エイミにとってそういう作品はあるの?
エイミ あるよ! 今日は、よりリアルなテーマを扱った社会派ミステリーをミキに紹介したくて何冊か持ってきたんだ。
(4)大事件の影で最も不幸になった人間を描く『罪の声』
※以下、ネタバレはしませんが『罪の声』の内容にある程度触れます。気になる方はご注意ください
エイミ 個人的な話だけど私、2010年頃からの10年間って子育てや家族のケアで小説というものをほとんど読めなかったの。でもこの3年間でようやくまた読書を再開して、それ以降でいちばん心が震えた社会派ミステリーが2016年刊行の『罪の声』なんだ。作中では「ギン萬事件」になっているけど、グリコ・森永事件をモデルにしてる。
ミキ 私も子どもの頃の記憶として、近所のお店で気軽にお菓子が買えなくなったり、親がニュース観てピリピリしてたのを覚えてるよ・・・。
エイミ 私たちはリアルな記憶がギリギリ残ってる世代かもしれないね。未解決のまま時効を迎えた事件だけど、『罪の声』では実際の発生日時や場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容や事件報道について極力史実通りに再現した、と著者の言葉にもあるんだ。
ミキ そう言われたら私、キツネ目の男の似顔絵が記憶に残ってるくらいで、結局犯人の目的がなんだったのかとかも、よく知らない。
エイミ 私もそうだったの。で、興味をひかれて『罪の声』を読んでみたんだけど、結果としては事件の概要より「社会を揺るがした大事件の影で、いちばん不幸になったのは誰か」っていうフィクションの部分に打ちのめされた。
ミキ いちばん不幸になった人? 脅迫されたりして被害に遭ったお菓子会社の人じゃなく?
エイミ もちろんその人達も被害者だけど、隠れた存在の弱き者がいたんじゃないかっていう話。創作とはいえ、大人が身勝手な行動をとる時はこうなるよねっていうのがリアルで、悲しくて、涙とまんなくて。実際の事件でも企業への脅迫に子どもの声が使われてたの覚えてる? これ、子どもを巻き込んだ事件なんだよね。
ミキ なんかザワザワしてきた・・・。私も、多少難しくても子どもをテーマにした話なら興味をもって読めるかもしれないな。
エイミ 小説では最後に一筋の光があって少し救われるけど、こんなことが社会の片隅で起こってるんだとしたら・・・って心をえぐられたよ。
ミキ やっぱり、私達がふだんニュースで見聞きするのって、表面的なものなんだろうね。あと個人的な話、私にとってはノンフィクションやドキュメンタリーって淡々としてて読むのも観るのも得意じゃないんだけど、物語なら感情移入して読みやすいかもしれない、と思ったよ。
エイミ それが社会派ミステリーの、小説としての大きな魅力だろうね。ほとんどの作家は丁寧に取材したり調べたりして書いてるから、フィクションとはいえ真に迫っているものが多いし、謎解き部分にグイグイ引き込まれながら、登場人物と一緒にこれまで知らなった社会の姿を体験できるのが醍醐味だと思うよ。
ミキ ただ、私の場合もう少し、難しい説明を書いた文章の塊にひるまず読めるようになる必要があるかも・・・。
(5)「知りたい」が読書力を超えていく
エイミ 実は私も『罪の声』を読んだとき、10数年ぶりで活字を読む力が落ちてたみたいで、事件の概要や記者の取材が書かれた前半でいちど挫折しかかったんだ。1日の読書時間も短いし、子どもは横でワチャワチャやってるし(笑)、集中できなくてしんどくなった。
ミキ えっそうなの? 本好きな人でもそういうことがあるんだ。
エイミ あるある!この場合、 好みは合ってるけど読書スキルや環境が伴っていない状態だね。でも、後半で物語が「人探し」になったとき、その人がどこにいるのか知りたい、この事件の本質を知りたいって気持ちが強くなって、最終的には「知りたい」が読書スキルを超えていった。読み終わったとき泣きながら思ったよ。なんて場所に私を連れて行くんだ、この本は・・・って。
ミキ 『罪の声』も最後は人探しなんだね。人探しは真実さがし・・・か。
エイミ あのさ、何年か前にミキが登山に連れて行ってくれたことあったでしょ? ここならエイミでも頑張れば登れるからって。
ミキ 急だね(笑)。うん、確かに登った。初心者コ-スだけど。
エイミ 読書は登山に似た体験だと思うんだよね。特に重厚感のある1冊を読み切ったときの達成感は似てる気がする。
ミキ 読書は登山? そのココロは?
エイミ 最初は自分のペースがなかなかつかめなくても、一歩ずつ登れば頂上で「おっ!」と思うような景色が広がるでしょ? 思い通りの景色じゃないこともあるだろうけど、何かを体で感じる。私は頑張って読んだ『罪の声』が最後に思いもよらない景色を見せてくれたとき、本当に心が震えた。それ以来、時間を見つけてまた読書しようって思えたんだ。
ミキ だから、少しでも読書に興味があるならいずれ長編を、ってよく言ってるのか・・・。
エイミ 達成感が大きいからね。登山も体験を重ねるにつれてスキルアップして、だんだん難易度の高い山を登れるようになると思うんだけど、読書も何冊か読むのを繰り返すうちに「ここを超えると後はスイスイいけそうだ」って勘が働いて、読了できるものが増えていくんだよね。
ミキ いまのところ私は、書き手の視点がコロコロ入れ替わったり、複雑な構成の話が苦手だったりするけど、いずれは読めるようになるってことか・・・。
エイミ 読書って慣れだから。
ミキ じゃあ私もいつか『罪の声』みたいなどっしり系の社会派を読んでみようかな。
エイミ うん、自分のペースで大丈夫だよ。それと、同じ作者で2024年の本屋大賞にノミネートされた『存在のすべてを』をこないだ読み終わったんだけど、これもまた素晴らしい景色を見せてくれた。もうすっかり塩田武士のファンになったよ。
(6)切り取りたい社会の姿は作家それぞれ
ミキ 『存在のすべてを』って不思議なタイトルだね。気になる感じがするけど、どんな話か想像できないな。
エイミ 詳しい話はまたの機会にするけど、新聞記者が主人公で、過去に何があったのかを調べるのが『罪の声』との共通点。これを読んで、「人間を書きたい」っていう作者の思いがいっそう強く伝わってきた。事件や出来事の表面的な事実だけじゃなく、そこにいた人間が何を考え、どう行動したのか、どんな事情で、何に心を痛めたのかっていうことを、書く人なんだこの作家は・・・って思えて。あぁ私この作風好きだなって。
ミキ ほんとごめん、今さらなんだけど「この作風が好き」って、私ははっきり言語化する自信がないんだ。そういう場合は、何をもって作家選びをすればいいんだろう。
エイミ 読んでみて「なんかいい、なんか好き」でいいと思う。
ミキ えっそうなの?
エイミ 「なんかいい、なんか好き」のなかに自分がいるんじゃないかな。第二夜の話で、ミキが宮部みゆき原作のドラマを観て「なんか好き」と思ったのは、事件の渦中にいる人間の心の動きに惹かれたからなんじゃない? それで「宮部みゆきを読んでみたい」と書店に行った。すごく素敵だと思う。読書を重ねることは、自分が心の奥底で求めているものを見つけやすくなることだと私は思うよ。
ミキ そう言われたら私、この社会のシステムとか不条理について知りたいっていう思いと、同時に人の優しさにも触れたいっていう思いがあるかも。
エイミ その気持ちが読書スキルを超えていく時がくるかもしれないよね! あと、社会派ミステリーを書いてる作家は多いけど、人によって「社会の何を切り取りたいか」は違うから、その柱とか骨格みたいなものが合う作家や作品が見つかれば、満足度の高い読書につながるんじゃないかな。
ミキ そうだね。私はまず、目の前の本を読破することにする。じゃあ、ほかのおすすめ作品もおしえて。
エイミ うん。リアルなテーマと面白い謎解きが共存した社会派ミステリー、次は相場英雄『ガラパゴス』を紹介するね。
(7)青年の死から始まる日本経済の闇・・・相場英雄『ガラパゴス』
※以下、ネタバレはしませんが『ガラパゴス』の内容にある程度触れます。気になる方はご注意ください
ミキ ガラパゴス・・・諸島で起こる殺人事件の話ですかね?
エイミ うん、当たらずと言えども遠からずな気がする(笑)。これは、日本という国の主要産業が実は国際競争から取り残されてて、ガラパゴス諸島のような独自の進化を遂げている、っていう意味のタイトルなんだけど。刊行は2016年。
ミキ なんか急に難しい話になったね。日本の主要産業っていうと、車や電化製品かな?
エイミ 大正解! 特にこの小説のテーマになっているのが自動車メーカーと非正規雇用の問題なんだけど、過酷な環境で働く人達が日々どんな辛さにさらされているか、大企業がどんな方法で人件費を削減してるか、みたいな話がこれを読むとよくわかる。
ミキ えっ、でも殺人事件が起こるんでしょ?
エイミ うん・・・あ、これジャンル的にはさっき言った警察小説ね。警察内で2年間も身元不明だった死亡者について、主人公の田川刑事が調べるんだけど、その死が大企業の派遣切り問題と深く関わっていくんだ。亡くなったのは1人の青年で、彼はとても心の美しい人なんだよね。なぜ命を落とすことになったのかわかったとき、本当に胸が苦しくなったよ・・・。
ミキ 軽くショックなんだけど、日本の経済とか、そういう派遣切りの問題って、本当のことが書かれてると思っていいの?
エイミ 小説だから体裁としてはあくまでフィクション。でも、さっきも言ったように作家はよく調べて書くものだし、作者の相場英雄はジャーナリストでもあるから、この社会で起こっている不条理を伝えたいっていう強い信念が伝わってきたよ。ここまで書いちゃっていいの、っていうくらい真に迫ってるし。ちなみにミステリーとしての面白さは、「彼はなぜ死ななければならなかったのか」「本当の悪はどこにあるのか」っていうところかな。
ミキ この年になって思うけど、知らないよりは知っておいたほうがいいことってあるよね・・・。『ガラパゴス』は私でも読めるかな?
エイミ かなり骨太な内容ではあるけど、田川刑事と一緒に事件を追いかけるつもりで読むのがおすすめ。絶対に真実を明らかにしてみせる! っていう田川刑事がカッコイイし。私はたまたまこの作品を手にしたんだけど、他のシリーズも読んでみようと思ってる。ちなみにテレビドラマ化もされてるよ。
ミキ ドラマも気になるね。まだほかにも持ってきた本、あるんでしょ?
エイミ あるけど、今日は長くなったのでここまでにするね。
ミキ 今日も、でしょ(笑)。
エイミ ちなみに次回は中山七里『護られなかった者たちへ』、葉真中顕『ロスト・ケア』、あとは社会派ミステリーの大作家・松本清張について話したいと思って。
ミキ なんかいろいろ気になってきた。何も聞かれてないけど今日の教訓言っていい?
ひとつ!
「この空の下で起こっていて、自分とまったく関係のないことはない」
ふたつ!
「読書していて心が震えるエピソードに出会ったら、そこに自分が心から求めるものがある、かもしれない」
エイミ 急にどうした(笑)。ほかにも、社会派ミステリーの具体的な例としては、家族が犯罪に巻き込まれるとか、少年犯罪を扱っているとか、本当に多彩なので興味があったらいろいろ調べてみてね。あと、いま読んでるのが丸山正樹の『デフ・ヴォイス』っていう手話通訳士が主人公のミステリーなんだけど、ろう者や手話について、自分が何も知らないことを痛感してる。これもテレビドラマを観て、「知りたい」から入った選書なんだ。
ミキ 私も、全然知らない世界のことだ・・・。読み終わったら感想聞かせて。
エイミ 社会派ミステリーの話、つづきます!
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【読書スキルと好みに合わない選書をしないための・・・今日のポイント】
・社会問題や巨悪を暴くだけでなく、いまの社会でリアルに起こっている問題や出来事を扱った小説も社会派と考えると、選書の幅が広がる
・気になる作家、好きな作家がいる場合はそのなかから「より社会性の高い作品」を選んでみよう
・もともと知りたかった出来事、テーマについて書かれている作品をさがすのもおすすめ
・重い背景や難しい解説の文章に挫折しかけても、「知りたい」がページをめくる力になることがある
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【第九夜予告】
心震える「社会派」・・・は謎解きもすごい
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すべての始まり・・・〈第一夜〉はこちらから↓↓↓
どんな謎ならワクワクしますか?〈第二夜〉はこちらから↓↓↓
〈第三夜〉では人気作家・宮部みゆきの選書についてで話しています↓↓↓
〈第四夜〉では「イヤミス」と「作風」について話しています↓↓↓
〈第五夜〉では東野圭吾のガリレオ&加賀恭一郎シリーズについて話しています↓↓↓
〈第六夜〉では人気作家は選書力upの強い味方…という話しをしています↓↓↓
推理小説の実写化と原作愛・・・映画『罪の声』についても書いています↓↓↓
自己紹介です↓↓↓