Triple Fit Canvas:顧客との相互理解、共通目的、価値共創による新しい顧客関係性
こんにちは、広瀬です。
今日の顧客はモノを購入する際、製品やサービスだけでなく、その製品やサービスを使用したあとに得られる期待感も購入しています。顧客は、企業がが真のパートナーとなり、共に問題解決や成長に取り組むことを求めています。
しかし、多くの企業は、この期待に応えられていません。最新の調査では、顧客との真のパートナーシップを築けている営業担当者や管理職は、わずか 15%程度に過ぎないという結果が出ています。
では、なぜこの期待に応えられていないのでしょうか?
成功している企業は、従来の製品中心の販売アプローチから脱却し、「トリプルフィット戦略」と呼ばれる、顧客との協調的な価値創造を重視したアプローチを採用しています。
トリプルフィット戦略とは、「私たち(企業と顧客)が1つの会社だったらどうなるか?」という問いを起点に、計画、実行、リソースの3つのレベルで、顧客との最適な連携を実現するためのフレームワークです。
この戦略は、Harvard Business Reviewに掲載された論文「Stop Selling. Start Collaborating.」で提唱された、「Triple Fit Canvas」を基に体系化されたものです。
この解説文では、Triple Fit Canvasに着目して、顧客との相互理解を深め、共通の目標に向かって協力し、共に成長していくトリプルフィット戦略を理解し、新しい顧客関係性を探っていきます。
1. Triple Fit Canvasとは?
Triple Fit Canvasは、企業が顧客との関係を強化し、顧客とのコラボレーションによる価値創造のフレームワークです。
従来の販売手法では、企業は自社の製品やサービスを顧客に売り込むことに注力していました。しかし、現代のビジネスにおいては、顧客は単に製品やサービスが欲しいのではなく、それらを通して自社の課題を解決し、ビジネスを成長させることを期待しています。
Triple Fit Canvasは、この顧客の期待に応えるための、新しい顧客関係を構築するためのツールです。企業が顧客の真のパートナーとして協力し、共に価値を創造する。 それが、Triple Fit Canvasの目指すところです。
なお、Triple Fit Canvasは業務提携と似ている面もありますが、その関係性の深さに大きな違いがあります。業務提携は、特定の分野における協力関係を築くものであり、関係性は限定的です。
一方、Triple Fit Canvasは、顧客と「一つの会社」であるかのように、深いレベルでの連携を目指します。互いの戦略、リソース、実行能力を共有し、運命共同体として共に成長していくことを重視します。
Triple Fit Canvasは、 3つのレベル と 9つの構成要素 から成り立っています。
1.1 Planning Fit
Planning Fitは、トリプルフィット戦略の基盤となるレベルです。顧客の戦略目標を深く理解し、自社の戦略と整合させることで、長期的なパートナーシップを築き、共に成長するための土台を築きます。
Strategies(戦略)
顧客の戦略目標を理解し、自社の戦略と整合させることは、トリプルフィット戦略の出発点です。顧客がどこに向かおうとしているのか、どのような課題を抱えているのかを把握し、自社の製品やサービス、そして戦略がどのように貢献できるのかを明確化します。
顧客の戦略目標の理解
顧客のビジョン、ミッション、バリューを理解する。
顧客の事業計画、市場分析、競合分析などを調査する。
顧客の経営層やキーパーソンにインタビューを行い、将来展望や課題をヒアリングする。
顧客の業界動向や規制などを把握する。
自社の戦略との整合
顧客の戦略目標に合致する自社の強みを明確にする。
顧客のニーズを満たすための製品・サービス開発、改善を行う。
顧客との連携を強化するための組織体制を構築する。
顧客との長期的な関係構築を視野に入れた戦略を策定する。
具体的な行動例
顧客の経営層との戦略会議を実施する。
顧客の事業計画に合わせた提案書を作成する。
顧客のニーズを反映した製品ロードマップを作成する。
顧客との共同プロジェクトを立ち上げる。
Relationships(関係)
顧客との強固な関係を構築し、維持することは、トリプルフィット戦略を成功させるための重要な要素です。信頼関係を築き、互いに協力し合える関係性を育むことで、長期的なパートナーシップへと発展させることができます。
強固な関係の構築
顧客との接点を増やし、相互理解を深める。
顧客のニーズや課題を共有し、共に解決策を探る。
顧客との信頼関係を築くためのコミュニケーションを心がける。
顧客との長期的な関係を構築するための投資を行う。
関係の維持
定期的な訪問や連絡を行い、顧客との良好な関係を維持する。
顧客の状況変化を把握し、ニーズに合わせた対応を行う。
顧客との意見交換や情報共有を積極的に行う。
顧客との信頼関係を損なうような行動は避ける。
具体的な行動例
顧客との定期的なミーティングやイベントを開催する。
顧客担当者との個人的な関係を構築する。
顧客に有益な情報を提供する。
顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、改善に活かす。
Communication(コミュニケーション)
顧客との効果的なコミュニケーションを確立することは、相互理解を深め、信頼関係を築く上で不可欠です。正確な情報伝達、積極的な意見交換、双方向のフィードバックを通じて、顧客との連携を強化することができます。
効果的なコミュニケーション
顧客のニーズや課題を正確に理解するためのコミュニケーションを行う。
顧客に分かりやすく情報を伝え、誤解を防ぐ。
顧客の意見を積極的に聞き、双方向のコミュニケーションを促進する。
顧客とのコミュニケーションを円滑に行うためのツールやシステムを導入する。
コミュニケーションの改善
顧客とのコミュニケーション頻度を増やす。
顧客の preferredなコミュニケーション方法を活用する。
顧客からのフィードバックを収集し、コミュニケーション方法を改善する。
社内における情報共有を徹底し、顧客対応の一貫性を保つ。
具体的な行動例
定期的な報告会や情報共有会を開催する。
顧客向けポータルサイトを構築する。
顧客満足度調査を実施する。
社内研修を通じて、コミュニケーションスキルを向上させる。
1.2 Execution Fit
Execution Fitは、Planning Fitで策定した戦略に基づき、顧客に価値を提供するための具体的な実行能力を指します。顧客のニーズを満たすソリューションを開発し、効率的なプロセスで提供し、適切なシステムでサポートすることで、顧客満足度を高め、持続的な成長を実現します。
Solutions(ソリューション)
顧客のニーズを満たす、独自のソリューションを開発することは、Execution Fitの核心です。顧客の課題を解決し、ビジネス目標の達成に貢献できる、差別化されたソリューションを提供することで、顧客との長期的な関係を構築することができます。
顧客ニーズに合わせたソリューション開発
顧客のニーズや課題を深く理解し、最適なソリューションを提案する。
顧客のビジネスプロセスや業務フローを分析し、改善提案を行う。
顧客の業界特性や競合状況を考慮したソリューションを開発する。
顧客との共同開発やカスタマイズを通じて、ニーズに合致したソリューションを提供する。
ソリューションの価値向上
最新技術やノウハウを導入し、ソリューションの価値を高める。
顧客の声を収集し、継続的な改善を行う。
ソリューションの効果を測定し、顧客への貢献度を可視化する。
競合との差別化を図り、顧客にとって最適なソリューションを提供する。
具体的な行動例
顧客の課題解決に特化したソリューションを開発する。
顧客の業務効率化を支援するツールやシステムを提供する。
顧客の競争力強化に貢献するコンサルティングサービスを提供する。
顧客との共同プロジェクトを通じて、新たなソリューションを創出する。
Processes(プロセス)
効率的なプロセスを設計し、実行することは、顧客に高品質なサービスを提供し、満足度を高めるために重要です。無駄を省き、スピーディーかつ正確なプロセスを構築することで、顧客の期待に応え、信頼を獲得することができます。
効率的なプロセスの設計
顧客の視点に立ち、分かりやすく使いやすいプロセスを設計する。
各プロセスにおける役割分担を明確化し、責任体制を構築する。
プロセス全体の可視化を行い、ボトルネックを解消する。
最新技術やツールを導入し、プロセスを自動化する。
プロセスの改善
定期的にプロセスを見直し、改善点を特定する。
顧客からのフィードバックを収集し、プロセス改善に活かす。
プロセスにおけるKPIを設定し、パフォーマンスを測定する。
従業員へのトレーニングを通じて、プロセス遵守を徹底する。
具体的な行動例
注文から納品までのプロセスを効率化する。
顧客からの問い合わせ対応プロセスを改善する。
プロジェクト管理プロセスを標準化する。
顧客データ管理プロセスを強化する。
Systems(システム)
適切なシステムを導入することは、Execution Fitを支える重要な要素です。ITシステム、財務システム、法務システムなど、業務を効率化し、顧客へのサービス提供を円滑に行うためのシステムを整備することで、顧客満足度を高めることができます。
システムの導入
顧客との情報共有を促進するためのシステムを導入する。
業務効率化や自動化を実現するシステムを導入する。
セキュリティ対策やコンプライアンス遵守のためのシステムを導入する。
顧客のシステムとの連携を強化するためのシステムを導入する。
システムの活用
システムを活用することで、顧客データの一元管理を行う。
システムを活用することで、業務プロセスを可視化し、分析する。
システムを活用することで、顧客へのサービス提供を迅速化する。
システムを活用することで、顧客とのコミュニケーションを効率化する。
具体的な行動例
CRMシステムを導入し、顧客情報を一元管理する。
ERPシステムを導入し、業務プロセスを効率化する。
サプライチェーンマネジメントシステムを導入し、在庫管理を最適化する。
オンラインコミュニケーションツールを導入し、顧客との情報共有を促進する。
Execution Fitの各要素を強化することで、顧客に最高の価値を提供し、長期的なパートナーシップを構築することができます。
1.3 Resources Fit
Resources Fitは、顧客との長期的な関係を構築し、共に成長していくために、必要なリソースを適切に配分し、活用することを指します。人材、組織構造、知識といった要素を強化することで、顧客へのサポート体制を充実させ、トリプルフィット戦略を効果的に推進することができます。
People(人材)
顧客中心の考え方を持つ人材を育成することは、Resources Fitの要です。顧客のニーズを理解し、共感し、その成功に貢献できる人材を育成することで、顧客との信頼関係を築き、長期的なパートナーシップを構築することができます。
顧客中心の考え方
顧客の成功を第一に考え、行動できる人材を育成する。
顧客の課題やニーズを理解し、共感できる能力を養う。
顧客とのコミュニケーション能力を高め、信頼関係を築ける人材を育成する。
顧客に寄り添い、長期的な視点でサポートできる人材を育成する。
人材育成
顧客対応に関する研修やトレーニングを実施する。
顧客とのコミュニケーションスキル向上のためのプログラムを提供する。
顧客の業界知識やビジネスに関する知識を習得するための機会を提供する。
優れた顧客対応を行った従業員を表彰するなど、モチベーションを高める制度を導入する。
具体的な行動例
顧客対応マニュアルを作成し、従業員に共有する。
顧客対応に関するロールプレイング研修を実施する。
顧客満足度向上のためのアイデアを募集する。
顧客対応の優れた従業員を表彰する制度を設ける。
Structures(組織構造)
顧客中心の組織構造を構築することは、Resources Fitを強化するために重要です。顧客対応をスムーズに行い、迅速な意思決定を可能にする組織体制を構築することで、顧客満足度を高め、効率的な業務遂行を実現することができます。
顧客中心の組織
顧客対応部門を強化し、権限を委譲する。
部門間の連携を強化し、顧客対応のスムーズ化を図る。
顧客の声を迅速に経営層に伝えるための仕組みを構築する。
顧客対応に関する情報共有を促進する。
組織構造の改善
顧客対応の効率化を阻害する要因を分析し、改善する。
顧客の変化に柔軟に対応できる組織体制を構築する。
組織文化として、顧客中心の価値観を浸透させる。
従業員が顧客対応に集中できる環境を整備する。
具体的な行動例
顧客対応専任チームを設立する。
顧客対応に関する社内会議を定期的に開催する。
顧客対応に関する情報共有システムを導入する。
顧客対応の成果を評価に反映させる。
Knowledge(知識)
新規ビジネス創出のための知識を共有し、学習することは、Resources Fitを強化し、競争力を高めるために重要です。市場動向、顧客ニーズの変化、最新技術などを常に学習し、組織全体で共有することで、顧客に新たな価値を提供することができます。
知識の共有と学習
顧客に関する情報を収集し、データベース化する。
顧客の業界動向や競合情報を分析し、共有する。
最新技術やノウハウに関する研修を実施する。
社内外の専門家による講演会や勉強会を開催する。
知識の活用
顧客のニーズを先読みし、新たなソリューションを開発する。
顧客に有益な情報を提供し、コンサルティングを行う。
顧客との共同研究開発を通じて、新たな知識を創造する。
知識を体系化し、社内マニュアルやデータベースとして整備する。
具体的な行動例
顧客に関する情報共有システムを構築する。
顧客の業界動向に関するレポートを作成する。
最新技術に関する勉強会を定期的に開催する。
顧客との共同研究開発プロジェクトを立ち上げる。
Resources Fitの各要素を強化することで、顧客との長期的な関係を構築し、持続的な成長を実現するための土台を築くことができます。
1.4 従来の販売手法との違い
従来の販売手法は、製品中心でした。企業は、自社の製品やサービスをいかに売り込むかに重点を置いていました。
しかし、Triple Fit Canvasは、顧客中心の考え方です。顧客のニーズや課題を理解し、共に解決策を見出すことに重点を置きます。
従来の販売手法では、短期的な利益を追求しがちでしたが、Triple Fit Canvasは、長期的な関係構築と相互の成長を重視します。
Triple Fit Canvasは、顧客との信頼関係を築き、持続的なビジネスを展開するための、新しい時代の販売戦略と言えるでしょう。
2. Triple Fit Canvasの実践
第1章でTriple Fit Canvasの概要を理解したところで、本章では、それをどのように活用すれば、顧客との関係強化と相互成長を実現できるのか、論文で紹介されている5つのステップを参考に、Triple Fit Canvasを実践するための道筋を示していきます。
それぞれのステップにおける具体的な行動やポイントを把握することで、Triple Fit Canvasをより効果的に活用できるようになるでしょう。
2.1 関係成熟度チェック
まずは、現状における顧客との関係性を把握することが重要です。Triple Fit Canvasを用いた関係成熟度チェックは、顧客との関係の現状を客観的に評価し、改善すべきポイントを明らかにするための第一歩です。
評価シートの準備
上記のTriple Fit Canvasの9つの構成要素それぞれについて、「全く当てはまらない(1)」から「完全に当てはまる(5)」までの5段階評価で回答するシートを作成します。自己評価
自社の視点から、顧客との関係性を評価シートに記入します。顧客への評価依頼
可能な限り(長期的な取引を念頭に置いている場合)、顧客にも同じ評価シートへの記入を依頼します。結果の比較分析
自社の評価と顧客の評価を比較し、認識のずれや課題を発見します。改善ポイントの特定
低い評価を得た項目や、自社と顧客の評価に差がある項目を重点的に改善していきます。
2.2 改善領域の特定
関係成熟度チェックの結果を分析し、改善が必要な領域を特定します。
低い評価の項目
「なぜ低いのか?」を深掘りし、根本原因を突き止めます。評価のずれ
自社と顧客の評価に差がある場合は、その原因を探ります。5Why分析
「なぜ?」を5回繰り返すことで、真の原因にたどり着くことができます。
2.3 実行可能なソリューションの開発
改善領域を特定したら、具体的なソリューションを開発します。
アイデア発想
ブレインストーミングなどを通して、多様なアイデアを出し合います。実現可能性の検討
各アイデアの実現可能性を評価し、実行可能なものを選定します。顧客との合意
顧客とソリューションを共有し、合意形成を図ります。
2.4 短期・長期アクションの分類
ソリューションを実行に移すためのアクションプランを作成します。短期・長期アクションのスパンは、顧客との関係性や業界の特性、市場の動向などを考慮して、柔軟に設定することが重要です。(以下は、論文の記述をそのまま載せています。)
短期アクション
90日以内に実行可能な、短期間で効果が出るアクションを特定します。長期アクション
3年程度のスパンで取り組む、長期的な視点が必要なアクションを特定します。優先順位付け
重要度と緊急度を考慮し、アクションの優先順位を決定します。
2.5 ステークホルダーの説得
最後に、社内外のステークホルダーを説得し、協力を得る必要があります。
経営層への説明
Triple Fit Canvasの分析結果やアクションプランを経営層に説明し、承認を得ます。関係部署への協力依頼
関係部署に協力を依頼し、プロジェクトチームを結成します。顧客への提案
顧客にTriple Fit Canvasに基づいた提案を行い、合意形成を図ります。
これらのステップを着実に実行することで、Triple Fit Canvasを活用し、顧客との関係を強化し、共に成長していくことができるでしょう。
3. まとめ
Triple Fit Strategyは、製品中心の視点から顧客中心の視点への転換を促し、顧客の優先順位を360度理解することで、協調的な価値創造を可能にします。
Triple Fit Canvasを通じて得た知識と経験は、顧客との永続的な関係を構築し、これまでにない成長を促進するための羅針盤となるでしょう。
変化の激しい時代だからこそ、Triple Fit Canvasを進化させ、活用し続けることで、企業は顧客との真のパートナーシップを築き、持続的な成長の道を切り拓くことができると思います。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考情報
最近、論文の著者が執筆した本を紹介します。残念ながら、翻訳版は発売されていません。