読書記録:高嶺の花には逆らえない (3) (ガガガ文庫)著冬条一
【初恋の花は儚く散ったが、新しき蕾が芽吹く瞬間を逃すな】
夏祭りに一世一代の告白をした物の敢え無く玉砕した葉は、あいりとの関係が疎遠になるが、桃花の協力で、彼女の家に訪問する物語。
恋って何だろう?
好きって何だろう?
考えれば考えるほど、袋小路に行き詰まって答えが出ない。
自分の事を想ってくれる人が複数いた場合、自分にとっての最愛を選ばなければならない。
何かを選ぶという事は、何かを切り捨てるという事。
優しい人間ほど、選ばれなかった者の気持ちを想像してしまい、決断力が鈍くなってしまう。
しかし、答えを先延ばしにするほどに、初恋の花は儚く散っていく。
熟した気持ちも冷めてしまう。
大切に想ってくれる人の気持ちを大事に抱き締める事も一つの答えではあるが。
答えはもっとシンプルで良いのである。
最終的には、自分の素直な気持ちを優先的にする方が、深く長く人を愛せるはず。
そうやって、選び抜いた愛の中に、人は意味を宿すのだから。
人は時として、愛の中に意味を探し求める。
真剣にあいりが好きになったはずなのに、千鶴への気持ちも捨て切れない。
葉は在りし日の夏休みの初恋に想いを馳せる。
時計の針を戻す事で、気付いた真実。
さかのぼるは、ある二人の子供が歩いて来た軌跡。
川で溺れかけた気弱な少女が、お調子者の少年によって救われて。
別れたくないと願いながらも、別離を選ばざるを得なかった少年が、再びまみえる事を約束して、残された少女はある決意をする。
あいりが高嶺の花となった理由。
それを知り得た葉は、彼女の事を深く思いやるが故に、ある決断を下す。
初恋の人である「カッキー」と立花あいりの過去が全てが繋がった。
理想の美しくなりたかった少女の想いにようやく気付く。
それは、今まで淀んでいた心が晴れ渡って、新たな恋の花が芽吹くように。
葉は様々に抱えていた問題を、一つずつ向き合って解決していく。
あいりに尊厳を破壊し尽くされて、ボロボロに荒んでしまった新の心情を汲み取って。
彼の心が本当に求めていたものを差し出す。
分かたれていた友情を再び、繋ぎ直す事が出来た。
前向きになった新は、あいりにフラれた事をきっかけにダイエットする事を自分との約束にする。
葉の自宅のトレーニングジムを再び訪れて、またあの輝いていた頃の自分を取り戻すように、筋トレにのめり込んでいく。
初恋の花は儚く散ったが、新しい恋の花が芽吹く日常が始まる中で。
文化祭を一緒に回る約束をした千鶴が、風邪で体調を崩してしまう。
思いがけない災難に悩んでいる葉に新は、それでも思いっきり文化祭を楽しめばいいとアドバイスをする。
結果的に、あいりと一緒に回る事となる中で、些細なきっかけで想い出の中の少女とあいりの面影がリンクしていく。
彼女は自分の事を「立花あいり」であると語る。
葉の初恋の相手であった「カッキー」ではないと否定する。
だが、葉には確信があった。
おぼろげな記憶の欠片を拾い集めて、泣き虫だった「カッキー」と高嶺の花である「立花あいり」が同一人物であると理解した。
それは、葉の理想を叶える為に、不器用だった少女が努力の末に掴みとった高嶺の花に生まれ変わった足跡であった。
自分の為に健気に生まれ変わったあいりの気持ちに報いてあげたいが、等身大の姿で変わろうとしている千鶴への気持ちも捨て切れない。
彼にとっての理想と現実、その二つの恋。
その狭間で葛藤する中で、美紀も含めて四人で出かけた遊園地。
あいりが準備した最後の勝負。
どちらかを、ちゃんと選んで欲しいと、そう希われた葉は、自分にとっての最愛を選ぶ事になる。
自分を好いてくれるあいりと千鶴のどちらかを、しっかりと選び抜く結論。
過去に不遇な家庭環境から一人孤立してしまったあいりと、現在進行形で、彼に選ばれる為に努力し続けた千鶴。
想い人に誇れる自分になる為に、努力してきた二人だったが、目指していた場所の差が結果の明暗となった。
理想と現実にあるがままに向き合って、その一つの恋を選んだ。
それこそが、葉にとって一番深くまで愛せる恋。
身の丈に合わない高嶺の花はもう、彼には必要ない。
葉は自分にとっての本当の意味での特別を。
新はありのままの自分でいられる相手を。
そしてあいりは、本当の自分をさらけ出せる新たな夢を掴みとった。
自分にとっての、本当に大切なものに気付けたから。
もう、絶対にそれを見逃さない。
それらを伴って、彼らは可能性に満ち溢れた、それぞれの道を歩き出して行く。
自分にとっての最愛を選んだ彼らの道を、芽吹き始めた恋の花が彩るのだ。
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