読書記録:VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた5 (ファンタジア文庫) 著七斗 七
【皆の期待を背負い、自分も大切にして、祭りを始めよう】
三期生も一周年を迎え、記念配信の準備の中、無理が祟った光が身体を壊してしまう物語。
オールスター。
誰しもがその単語を聞くと胸が踊るのではないか?
己の好きな物がコラボするだけでも嬉しいのに、それが勢揃いするとなると夢心地だろう。
ただし、それを形づくるのにはかなりの労力が必要となる。
スケジュール管理、企画内容、円滑な進行、平等な扱い、個性の調和。
これらをまとめあげる相応な器が求められる。
混迷極まるライブオンにて、果たしてその器を持つ者がいるのか?
〇周年と言う言葉は数あれど、それを無事に迎えられるか、というのは確かではない。
日々を着実に積み重ねていけばいつかは届くとしても、その日々を当たり前に積み重ねられるかは分かった物ではないからだ。
人間万事塞翁が馬と言うように、人生は何が起こるか分かった物ではない。
人生の転機とは、いつも思わぬ形で訪れる。
そして、いつも視聴者を明るく笑わせてくれるVTuber達にも、それぞれの人生があり。
我々が想像もつかないような問題やストレスに日々を苛まれ、無事に日々を積み重ねていく事は、簡単なようで難しい事なのだ。
だからこそ彼ら、彼女達は日々、ファンに笑顔を届ける努力を試行錯誤しながら考えている。
だがそれが、その期待に応えるという重荷になっているのかもしれない。
本当の自分を曝け出せないもどかしさを隠しながら、それでも笑顔でファンの前に立つ事が苦しくなる時もあるのかもしれない。
念願の三期生の一周年を前に、そんな事実が淡雪達の前に立ち塞がる。
聖様とシオンがカップル成立した事で、無事にまともなVTuberがいなくなってしまったライブオン。 だが、相対的にまだまともな者がツッコミをこなす事で何とか安定を保つ中で。
近づいてくるのは三期生の一周年。
大規模イベント開催に向けて、淡雪やましろ達がそれぞれ準備に励む中で。
今日もまたネット上もリアルも、思いもよらない大騒動が世間を賑わしていく。
オールスターコラボの、監禁人狼と言う名の二つの人気ゲームを組み合わせたようなゲームで、ちゃみを吊ったらエーライが大暴走したり。
光とリアルでデートしてみたら、自由奔放でエネルギッシュな彼女に、これでもかと振り回されてみたり。
ちゃみとエーライがコラボしてみたら、なぜかちゃみが懐いてしまい、エーライが困惑したり。
新たな関係性も育まれ、刻一刻とXデーに向けて時間が進む中で。
お祭りの時間が迫る中で、光が躓いてしまう。
期待に応えようと頑張り過ぎた結果、自分の限界を越えた故に自らの身体を壊してしまう。
どうして、彼女はそこまで頑張るのか、その本質に迫る中で、淡雪にも共感出来る理由。
それは尊敬すべき大切な物で。
しかし、祭りは皆が揃っていなければ始まらない。同期で話し合って、躊躇いなく延期を選ぶ。
誰か欠けた状態で祭りを執り行っても、心の底から楽しめないし、真の意味で成功ではない。
改めて、今の自分達に出来る準備を進め始め、ライブの準備は整っていく。
だが、無論そんな感動的な展開ばかりではない。
何故なら、一癖も二癖もある個性が寄り集まったライブオンだから。
期せずして淡雪が開いてしまった、光の新たな可能性の扉。
それが新たなる笑いを生み出してくるのである。
シオンと聖のカップル成立に末永く爆発しろと周囲に白い眼で見られつつ。
迫る『三期生1周年記念』に向けて準備を進めていた淡雪が直面する、活動を頑張りすぎて喉を壊した光の問題。
それをどうにかしようと覚醒したちゃみや、飽和したボケを拾おうと、ましろも壊れていく。
そんな思い詰めていた光の心をほぐすリスナーたちの想いがしみじみと慈しむように温かく、壊れた身体に染み込んでいく。
ずっと全力でリスナーの期待に応え続けなければいけないプレッシャーを抱え続けるのは、人気商売を仕事にするなら当たり前で。
全力で突っ走れる人にもいつか、限界はやって来る。
そんな光の弱った身体と心に寄り添い、無理を受け止める。
V界隈を知る人間なら何処かでその危機感に身覚えがある。
しかし、頑張りすぎて自分に無理を強いる生き方をしてもファンは喜ばない。
推しが楽しそうに配信している姿を間近で見る事こそが、ファンにとっての至福の幸せだから。
休める時に、頑張っている自分をちゃんと労って欲しいと思う。
同期の尊い絆がここぞとばかりに光り輝く。
その決着となるコメント欄の演出には不覚にも涙を誘われる。
その事実を懇々と淡雪に諭されて、光は自分の考え方を改めるようになる。
リスナーの為に頑張る自分の抱える思いと向き合って、自分の心を元気にする方法も探していく。
光にとって、それは自分の元気な姿を見て喜んでくれる周囲に励まされる事。
大切にすべきは期待と己、どちらも両立してこそ始まる、抱腹絶倒の祭りがある。
祭りは皆一緒に、誰一人欠ける事はなく、個性が皆違う彼女達だからこそ生み出せる物がある。
そんな祭りの後で、風前の灯である伝説が淡雪に目を付ける。
時代の波に乗った淡雪を呼びこもうとする伝説の影。
果たして、天才と天災の出会いは、どんな化学反応を起こすのか?
その意外なコラボレーションの行先とは?