読書記録:最強にウザい彼女の、明日から使えるマウント教室 (2) (ガガガ文庫) 著 吉野憂
【欲しかったのは特別な自分、平凡な現実を覆せ】
優劣比較決闘戦に勝利し、見事にSクラス代表の座を勝ち取った零は、度重なる危機から現実逃避して、環奈と温泉旅行に出かける物語。
マウンティング。
それは、他人と己を比較して、自尊心を高める闇の闘い。
であるからこそ、容赦ない競い合いによって精神は常にストレスに晒され、自分という物を見失う。
悪戦苦闘の末、ようやく掴み取った他人を見下ろせる景色。
しかし、数々の裏切りと決別で心は疲弊する。
個性豊かな仲間達に振り回されて、四苦八苦する現実が立ち塞がる。
「優劣比較決闘戦」なんていう馬鹿げたマウント合戦が根底にある学園。
ではこんな、ある意味で狂っているとも言えるこの学園、及び世界での「普通」とは一体何なのであろうか?
それが今回の大きなテーマ。
零がSクラス代表となる形で、彼らの学園生活は始まったものの、始まって早々、千里が一つ下のAクラスにマウントを取った事で反感を買ってしまう。
更には零にとって未知の言語と言っても過言ではない学問が当たり前のように散りばめられていて。
戸惑うばかりの零を、個性的なクラスメイト達が簡単に認める訳もない。
そんな中で、流行りを武器にしたマウントを得意とする、「全肯定主義者」、Aクラス代表の明による宣戦布告を受けてしまう。
無論、Sクラス代表である零は負けてしまったら、即退学となる。
しかし、唯我独尊の彼には人望がまったくなく、クラスも主体性に欠ける。
洗脳が解けたとでも言わんばかりに、何もかもを投げ出した果てで、偶然に遭遇した環奈と何故か草津へと旅行に行く事になる。
千里や環奈の付き人である白兎も同伴して、賑やかな旅となる中、夢うつつの中で環奈の告白を受け入れてしまう。
だが、それはどうしよもない現実から眼を逸らすだけの逃げの姿勢。
それが、更なる波乱を招いてしまう。
誤解に誤解を重ねて、思わぬ方向へ行ってしまう展開によって。
力強い環奈とも仲たがいを起こしてしまう。
そして、迎えた決闘当日。
零の力となるのは千里を始め、僅かな同志達。
対するAクラスは、圧倒的に団結した数の軍勢。
烏合の衆である自分達に、果たして勝ち目なんてあるのか?
そんな不吉な想像が脳裏によぎるが、蓋を開けてみれば炸裂したのは、追い込まれて腹をくくった零の何も持たない弱者だからこその作戦。
窮鼠、猫を噛むように。
環奈と口裏を合わせ、味方さえも欺く。
裸の王様だからこそ、裏をかいた戦略で劣勢をひっくり返す。
敵を欺くには、まずは味方から。
非協力的なクラスメイトの隠し持った欲求に応える事で信頼を勝ち取っていく。
その為には自分の「普通」をむやみやたらに他人に押し付けない事。
誰もが自分にとっての「普通」に囚われているからこそ、他人の意見にも耳を傾ける余裕が必要で。
他者にイキって、虚勢を張るそのマウントに隠された深層心理を読み解く。
自分を他人に大きく見せようとするのは、根底には自分に自信がないからだ。
他人の物差しで、優劣を測り、自らの価値を決めてしまうのは虚しい事だ。
だからこそ、零はクラスメイト達に自信をつけさせる為に働きかける。
一番は自分の好きな事や得意な事を毎日、コツコツと継続させる事。
そして、自分にとっての普通は他人にとっての普通なのかを常に考える事。
それを一緒に考える中で、狭い見識で固定観念に縛られていた零が自分の殻を破り、非協力的なクラスメイト達と友好を結んで、環奈にも協力してもらって、一致団結してAクラス代表と戦っていく。
普段、意識していないで使っている「普通」や「常識」という言葉。
しかし、それは相手の立場や状況、さらには場所や日時などによって移り変わる物である。
それでも、集団心理によって少数を異物としてみる風潮は社会に蔓延っている。
たしかに多様性が叫ばれる世界だとしても、今まで育んできた「普通」から外れる忌避感は誰しもどうしてもある。
だからこそ、普通を覆してみせる事に意味がある。
自分の中での感覚を大切にしながらも、手を取り合って一つの物事を成し遂げていく事に価値がある。
一つの物事に対して、色んな意見をディベートする事で、思ってもみない新しい解決策を生み出していく。
それは、固定観念を越えたその先にしかない。
その勝負を分ける原因となったのは何だったのか?
それは「普通」という物への捉え方。
環奈との語らいの中で学んだ零の経験から生まれた物。
囚われていた思考回路のあらゆる脱却を目指す。
普通という観念について学び、劣勢を崩していく中で、前途多難な零は、環奈とのラブコメで著しく成長した。
だが、一癖も二癖もある個性的なクラスメイトから支持を得て、一つにまとめあげる仕事が残されている。