読書記録:不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚 (電撃文庫) 著 古宮九時
【禁忌と怪異が蠢く街で、踏み出したならもう戻れない】
妹の為に怪異を退治する青年の物語。
都市伝説とは、より身近である物ほど畏怖感が増して、他人事では終われない、共存を強いられる伝承となる。
得てして、禁忌を破る事が引き金となり、怪異に遭遇し、世界の裏側を知る。
偶然の遅刻で血汐事件から難を逃れたが、唯一の肉親である妹が、あられも無い姿となり。
その隠された謎を追う蒼汰。
市内のオカルトを追う中で、謎の少女、一妃の力を借りる事で。
月を蝕むような怪異狩りの闘争へと身をやつす。
禁忌とは、どこか知的好奇心を刺激して、人知の及ばない霊障に対して惹かれてしまう物である。
怪異と禁忌が隣り合わせの日常のような街、床辻市。
かの市に住み続けていると早死にすると噂される不吉な街で。
蒼汰の通う高校が惨劇の舞台となる。
全校生徒が血だまりのみを残して消え去り、花乃を生首にした「血汐事件」。
事件の直後、彼に電話をかけてきた謎の声。
この市に巣食う百体の怪奇を百体滅ぼせば、妹の身体を取り戻す機会が訪れるというメッセージ。
蒼汰はその文言を、「花乃の身体を取り戻す為には、この街に蔓延る百の怪奇を滅ぼさなければならない」として解釈した。
事件から一年後、彼は隣の市の高校に通いながら、「記憶屋」に属する二人、グレーティアと怜央の手を借りながら、目的である怪異の討伐に励んでいた。
そんな中、とある怪奇現象に囚われた彼と花乃を救い出した謎の少女、一妃。
怪異の本質を暴き、核を引きずり出す力を持つ、怪奇に対するシェルターのような物である「迷い家」である彼女。
蒼汰の事を幼馴染だったと行って、縁故のある友人のように接する。
「これからの怪異は一人では厳しいから、一緒に協力して討伐しよう」と申し出る。
蒼汰の記憶には存在しない彼女。
彼女は一体、何者なのか?
「記憶屋」を通じて、忘却した記憶に触れて。
更には「監徒」と呼ばれる治安維持組織とも関わりながら。
彼は怪奇を追い詰めて、花乃を取り戻す為に戦っていく。
当たり前のありふれた日常が、ふとしたきっかけで残酷なまでに無に帰す。
人間の常識的な善悪の判断が、一切通用しない存在によって。
怪奇現象に巻き込まれて、身体を失って生首状態となっても、なお生き延びている妹を元に戻す為に、蒼汰は敢えて、恐ろしい怪異へと近付いていく。
大切な妹の身体を取り戻す為には、迫り来る怪異にいちいち慄いていてはいけない。
平常心を保てず、驚いて逃げ出せば、怪異を喜ばせて、相手の思う壺だから。
恐怖心をフリーズさせて、軸をブラす事なく、フラット且つニュートラルに対応していく。
超常的存在を鋼のメンタルで物理で殴って、退治していく。
「○○の時、✕✕してはいけない」という【禁忌】で縛られた土着の街で。
犯してはならないタブーがあらゆる場所で身を潜める。
知らなかったでは許されない禁忌事項。
情報弱者はそれだけで死に至る。
日常の何気ない行動が、禁忌に触れるトリガーとなる。
それでも、禁忌を敢えて破る事に対しての罪悪感さえも、自分の目的の為を叶える為ならば、畏れを打ち砕く冒険心で挑んでいく。
そんな彼らの前に立ち塞がるは、おどろおどろしい不可解な現象の数々。
乗車すると、どこかへ連れ去られるバス。
片側が障子で、そこから連れ去ろうとする手が伸びてくる路地。
再生すると怪物になった女子高生に襲われる動画。
その数々の怪奇現象を乗り越える中で、明らかになっていく「血汐事件」。
蒼汰が思い出した断片的な記憶の欠片。
そして、現場に残されていた謎の「白線」の真実。
何故、この街にはこんなにも怪異が多いのか、その根源に眠る物。
一妃の隠された秘密と迷い家の正体。
そして、花乃の身体の在り処。
それらの点と点が繋がって、明かされた歪な真実。
明らかとなる真実は、蒼汰を人ならざる領域へと、引きずり込もうと手招きする。
だが、蒼汰はその誘いに敢えて乗る事で。
より深部へと潜り込み、肝心の黒幕を引っ張り出してやろうと決意する。
虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神を宿して。
そして、一妃との価値観のズレと違和感は氷解していき、互いの利害を守る為に協力体制を敷く。
たとえ、歪な関係だとしても、全ては分かりあえなくとも、家族として共に歩む事を覚悟する。
大切な妹を守れなかった後悔を胸に抱いて、彼女の幸せだけを願って、無茶と無謀を貫き通す。
花乃の身体を理不尽に奪った怪異には恨みもあるが、憎しみだけでは戦い続けられない。
根底には愛する者を純粋に守り抜きたいという想いがある。
怪異に打ち勝つ為には、その本質を見極める事。
そんな強い想いを伴って、複雑に入り乱れる怪奇ある世界をサバイブしていく。
数少ない痕跡を手がかりに、借り受けた呪刀を頼りにして、新たに踏み出した真の意味での怪異との戦い。
目まぐるしい死闘と凄惨の中で、人を超越した力を手にした蒼汰はどのようにして、怪異と向き合っていくのか?