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読書記録:「一緒に寝たいんですよね、せんぱい?」と甘くささやかれて今夜も眠れない (ファンタジア文庫) 著 ヰ森奇恋

【眠れぬ夜ほど孤独な物はない、でも君と過ごせるならば】


【あらすじ】

不眠症に悩む高校二年生、半崎獏也はある日、深夜の公園でカップ焼きそばをおいしそうに食べる後輩少女、小比類巻君鳥と遭遇する。
獏也がぐっすり眠れるよう手伝いをすると言う彼女は、自分の家に来てほしいといきなり誘ってくる。

「女子の部屋に入って、いきなりクンクンと匂いを嗅ぐなんて流石先輩ですね」
「……せーんぱい。おっぱい見過ぎです」

隙あらば獏也をおちょくる、小悪魔的な君鳥から耳元でエッチな言葉を囁かれたり、添い寝したりと、共に眠れない長い夜を過ごしていく。

あらすじ要約


登場人物紹介

ある理由で眠れない少年が、深夜の公園で後輩の少女と二人きりの夜更かしを始める物語。


睡眠とは、人間の基本的な三大欲求の一つである。
それは疲れた身体と心を一度、リセットする為にも必要不可欠な儀式であり。
人は眠らなければ、本来の力を発揮出来ない。
ただ、現代人は何かと考え込んでしまうと、悩み事の種が増えがちだ。
ましてや、現代に普及したスマホやインターネットという娯楽は現実逃避にはちょうど良いが。
画面から発せられるブルーライトによって、体内時計が狂ってしまい、ますます眠れなくなる悪循環を秘めている。

現代病の一種である不眠症。
安らぎである眠りを怖くなってしまう病。
巷では様々な手法で、入眠へ誘う方法が試されるが、自分に合わない方法だとかえって入眠の妨げになる。
かといって、睡眠不足を放置すると、日中に様々な失敗を引き起こす。

舞台はちっぽけな田舎町、比辻野市。
元々は都会染みていた町が、辺鄙な場所ゆえに流行らず、寂れてしまって何もない町。

獏也は、眠気はあるものの寝れず、色々と安眠のために試行錯誤したが、ことごとく失敗した。
入学式に寝不足で足がもつれて、倒れた拍子に校長を巻き込んでしまい、後輩からは「ラリアット先輩」という不名誉なあだ名をつけられてしまった。
慢性的な睡眠不足で、授業中にうっかり寝落ちしてしまう事もあり、成績もかなり落ちてしまっている。
気分転換のつもりで夜の街を彷徨う中で出会った、後輩少女の君鳥に、唐突に不眠症を治す手伝いを申し出される。

獏也は、自らが不眠症になった原因を君鳥と共に向き合う事で克服しようとする。
恐らく、必要だったのは安心感。
眠れない自分を否定しないで認めてあげる事が大切だった。

それを気付かせるきっかけとなるのは、相手がいなければ成り立たない共依存の関係であったが。
眠れない夜を独りで悶々と過ごすよりも、くだらない事で笑い合える誰かと過ごす方が、多少は気が紛れる。
可愛い後輩は、小悪魔のように獏也の性癖に刺さる言葉を的確に投げかけてくる。
共に般若心経を諳んじたり、深夜の町を散歩してみたり、巷で流行っているASMRを実演してみて、耳かきや吐息といったリラックスする方法を試してみる。

そうやって獏也が入眠出来るように働きかけてくれる君鳥も心に問題があったが。
獏也は彼女の苦悩を何とか解消してあげようと、自分に出来る事を模索する。
獏也に添い寝してもらって、その心音を聞きながら横になる事で、自然に眠れるようになる。
獏也は告白の失敗によるトラウマで寝れなかった。
君鳥は過去にあった火事への恐怖心で、不眠症になった。

不眠症になった原因を見つめ直した獏也は、その原因である一匹狼な同級生である美久にもう一度告白してみると決意を固める。
君鳥に助けてもらって、緻密な作戦を立てながら。振られたとしても、もう一度告白してみる。
予定調和のように玉砕するが、心のモヤモヤにけじめをつけれた獏也は不眠症を克服してみせる。

君鳥の不眠症は原因はかなり重たいものであったが、理想論や感情論で向き合うのではなく。
眠れなくても悪い事じゃない、眠れるまで一緒に夜を過ごそうと。
不安な彼女の隣にいてあげたいと、自らの気持ちを打ち明ける事で。
周りに味方がいなかった君鳥の、現実という吹きすさぶ風から、心を守る敷居になってあげる。

二人の関係は恋でも愛でもない。
敢えて言葉にするなら、いくつもの長い夜を、枕投げをするように越えていく、肩の力が抜けるような気楽な関係だ。
眠れない夜だからこそ、秘められた睦事を分かち合って。

同じ苦しみを抱え持つからこそ、手を繋ぎながら、心の問題に腹をくくって向き合っていく。
互いがいれば、安心して眠る事が出来る。
自然な眠りへと誘われた二人が手に入れた心の安定。
その安らぎの先で、二人は心が安定したらやりたい事を叶えられるのか。

安心感という心の癒しを手にした彼らは、これからどのような夜を過ごしていくのだろうか?



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