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歌舞伎との相性の良さに驚愕: 新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」
我が一族は個にして全、全にして個。
通し狂言の形を取った、ナウシカブキ、観劇して参りました。
実はチケットのご案内が来たときに、迷ったのです。昼の部と夜の部を別の日に見た方がいいのではないか、と。
なんせ昼の部は11時から14時半。夜の部は16時半から20時40分。昼と夜の間が開くとはいいえ、約10時間、丸っと1日のフルタイムコミットになるわけです。
でもでもでもでも、あの世界観にどっぷりしたい!行ったり来たり繰り返し、なんて、あなたと私の恋じゃあるまいし、そんな御無体なことありゃしまへん。てなわけで、煩悩は理性をいとも簡単に突き崩し、通しでポチっと相成りました。
結論:大正解!
よく考えたら、漫画喫茶で全巻一気読みとか、ドラマの一気見とかを思えば、これくらい普通だったわ。舞台版の「ハリポタ」然り。
幕間も細かくあるので気分転換も出来るし、お食事もおやつタイムもございます。(劇場で2食食べたのは流石に初めて!)
そして中身。
思った以上にしっかり歌舞伎でがっつりナウシカでした!
1幕1場でみなが期待する「ほら、怖くない」等々のアニメの名シーンをさっさと片付け、その後は漫画の方の物語が続きます。漫画でしか描かれなかったコアな部分になればなるほど、演者の凄みと気迫が指数関数的に増幅されていきました。
読み慣れた台詞もきちんと歌舞伎化されつつ、元の言葉も踏襲している。日本語のリズムって、575になりやすい。現代劇でやり過ぎるとむしろ不自然な節回しになったりするけれど、歌舞伎(というか狂言)はそもそもそういう節回しだから、動きと連動していて心地よい。
クシャナ様の「わらわ」だの、「我が夫(つま)」だの、歌舞伎の言葉尻だけで泣けてきます。
土鬼の民やら、トルメキアのヴ王やらも歌舞伎メイクがよく似合うし、お着物も上手くアレンジされていました。確かに原作でも、お顔のメイクとか歌舞いて見えるものね。
久石嬢さんの有名すぎるナウシカのテーマが、お琴やら筝やらの古典楽器で何度も流れ、記憶も心もフルフルします。なんて親和性の高い世界観なんだろう。
旧正月の祝賀パレードに登場するドラゴンパペット仕様の虫たちが、大きな王蟲の周りで飛翔する姿も圧巻でした。
特注品の緞帳。これだけでも萌え萌えです。
1000年後に、人間がもう少し賢くなっていたら、その時こそここに戻ってきます。
腐海の森の秘密が明らかになるにつれ、駿さんの自然観や戦争観が一際色濃く現れます。
とうの昔から、俺たちはこの星に要らなくなった生物なのさ
この辺り、藤子F不二夫さんとの共通項でもありますね。
苦しみや悲劇やおろかさは清浄の地でも消えはしない。清浄の地で人間は生きられない。
夜の部が深まり、6、7巻あたりの名言これでもか!を散々浴びた後の幕間で、一抹の寂しさが襲います。あれ?もうすぐ私、腐海の森から追い出されちゃう…?
これ、お代わりした方がいいヤツじゃない?
そんな悪魔の囁きを忘れるほど、最後の、腐海の秘密や森の人との会話、庭の人やシュワの墓の場面は引き込まれっぱなしでありました。
まさかの連獅子には笑いましたが、それもまたご愛嬌。ってかすごいよね、連獅子。首の筋トレとか、どうやってるんだろう。重いのかな、あの獅子のカツラ。これを毎日って、脊椎本当にやられたりしないんだろうか。
どんなにみじめな生命でも、生命はそれ自体の力で生きています。さあみんな、出発しましょう。どんなに苦しくても。
生きてるだけでいい。ただそこに在るだけでいい。
自分の手を汚さずに綺麗事を言っているだけ、とクシャナに言われ、自らの手も汚すナウシカが尊い。
血によって清められたクシャナもまた、尊い。
っていうか、七之助さんが神々しすぎてどうすればいいかが分からない。どこにいても、何をしていても、ひときわ輝いていました。こんなクシャナを見せられたら、他のクシャナはアリエナクなくなってしまうではないか。
歌舞伎は3回くらいしか観たことがないニワカが言うのもなんですが、この演目、七之助さんの代表作になってまうのではあるまいか。
そして菊之助さん。復帰初日だった為、ど頭の口上で、お怪我により演出が一部変更になると述べられた後の言葉が印象的でした。
舞台は、みな、命がけで作っています。
途中で左腕の骨折だな、と分かりましたが、明らかにかばうでもなく、所作も全く違和感はなく、走りに至っては空を飛ぶよう。幕間に痛み止めとか一杯打っておられるのだろうな、と懸念するも、いざ芝居が始まるとそんなことも忘れてしまうほどでした。
これ、海外ツアーしないかな。そしたらお手伝いしたいなあ。
「感じる」エネルギーを総動員した10時間となりました。
それにしても、あの(読みにくい)原作を、よくまあこんなに分かりやすくもきっちりとした歌舞伎にしたもんだ…
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