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「あの頃に戻ることはできないけれど再現動画は撮れる話」#シロクマ文芸部

 変わる時は突然訪れるわけではなく、日々少しずつ変化している。息子の小学校用体操服などを買いに行った際、各学年の平均身長を記した紙が貼ってあった。入学前の息子は既に二年生の平均身長に達していた。永遠に幼稚園児であるような気がしていたのに、もう彼が園児に戻ることはないのだ。これを書いている現在は既に入学式を終えている。

 二つの公園でのエピソード。

 幼稚園卒園後に、新年度から認定こども園に変わる園の、給食試食会というイベントに出席した。8人の元園児たち全員が出席し、旧交をあたため合った。その帰りに公園に寄ろうということになり、大きなマンションの前にある公園で遊び始めた。

 なんとなく男女で別れて遊ぶ感じになり、男子組は木の枝で地面に何か書いたり、茂みの奥に入って秘密基地ごっこ的なことをしている。女子組はアスレチックとごっこ遊びがメインのようで、「犬と飼い主」といった、危険な香りのする遊びに興じている子もいた。

 息子はそのどちらにも属し切ることがなく、どちらにもちょいちょい顔を出すが、遊び切れていない感じがあった。特に嫌われているとかはみ出しているというわけではない。ただ「自分の本当にやりたい遊びがここにはない」という風だった。ある男の子の振った木の枝が女の子の一人に当たったようで、女子組にその子が一斉に詰め寄られていた。息子は一人でかめはめ波を撃っていた。

 別の日。
 今度は家のすぐ前にある大きな公園で息子と遊んでいた。近隣の幼稚園と小学校からの遠足の定番となっているこの公園は、巨大な滑り台もあれば豊かな自然もある。子ども好きの犬を連れている飼い主さんが通りかかれば、許可を得て撫でさせてもらうこともある。そういえば前述の公園にはトイレがなく、短時間しか遊べないことに息子は不満だったようだ。

 病後の私の活動限界時間を測るためにも、最近この公園でよく遊ぶようになった。これまでも何度か「遊びに行きまくる時期」を経験している。最近では巨大滑り台の内部にあるトンネルで、木の枝を使ってドラムごっこで遊んだりもしている。

 昼前に出かけたが、前日に雨が降っていたので、まだ乾ききっていない遊具もあり、人影もまばらだった。そこで一人の女の子と息子は遊び始めた。上の子といる時は別だが、基本知らない子とはあまり遊ばない子である。すぐに他の子と遊んでいた上の子と違い、相手が積極的に絡んでくると逃げ出すような子であった。中くらいの大きさの滑り台を一緒に滑っているなあとは思っていた。その女の子が平均台のような遊具で遊んでいる時、近くで待っていた。その子が遊び終わるのを待って自分も乗りたいのかと思ったら、次にその子が遊ぶ場所まで付いていった。私は自転車を移動させるために取りに行った。巨大な滑り台のある場所に向かうトンネルを抜けると、そこにはCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 のダンスを踊る二人の姿があった。

※家のすぐ前なのに自転車で行くのは、移動荷物置きとして便利なのと、帰りに疲れた息子を乗せるため。

 現在大ヒット中のこの曲とダンスは、幼稚園でも他の子と踊っているのを見た。その影響を受けて我が家でもアニメ「マッシュル」を見た。息子とのドラゴンボールごっこの最中にも、主人公「マッシュ」がシュークリームを食べながら乱入してくる。別の子も突然歌いだしたりもしていた。当然のようにその歌に合わせて二人は踊っていた。

 先日、同じ幼稚園の園児たちと遊んだ公園では遊び切れなかったのに、自分のホームと呼べる公園においては、初対面の女の子と遊び、踊っている。その後も二人は帰る時間まで長く遊び続けた。隙あらば猿の物まねをする面白い子だった。ハトの群れを見て「ハトー!」と叫んだかと思うと、ママさんを指さして「見てー、大きいハトー!」とボケたりしていた。「ちゃうわ!」とママさんに突っ込まれていた。

 同じ歳か一つ下くらいに見えたので、偶然同じ小学校、同じクラスになったりしたら、運命の出会いになるんじゃないか、なんて思っていたら、一つ年上の新二年生であることが帰り際に判明した。

 初対面の相手にはすぐには心を開かないと思っていた息子だが、入学式の前日にあった、支援学級担任との顔合わせの際にも、すんなり打ち解けていた。姉がいるせいか、女性相手だとすんなりいくのかもしれない。私も全く男性的とは呼べないので、息子は男の子の相手よりも女の子相手の方が自然に振る舞えるということか。入学式を終えた後、同じ幼稚園出身の女の子と一緒に写真を撮った。その子は背伸びをして息子と同じ高さで並ぼうとした。顔と顔がぶつかるような距離でじゃれ合っている。
「女子とそんな距離感味わったことがねえよ!」と私は思いながらその様子を見つめていた。

 余談。
 いや、全部余談みたいなものだけど。

 同じ公園で遊んでいる昔の動画を漁っていると、二歳くらいの息子が小さな滑り台を滑る動画が出てきた。一人で滑れるようになって喜んでいる息子に、降り際に私がハイタッチをしようとしている。スルーされる。繰り返しもう一度息子は滑る。私は「いぇーい」と言いながら手を出す。またスルーされる。動画を見た妻が爆笑する。
 娘の提案で、現在の大きくなった息子と同じ場所で再現動画を撮ってみた。何度も何度もスルーされ続けた。

(了)

シロクマ文芸部「変わる時」に参加しました。
人と人とが打ち解ける瞬間を目の当たりにした話。
息子が小学校の黄色い学帽を被ると「本当に小学生になってしまったんだ……」という感慨に襲われてしまいます。



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泥辺五郎
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