動物から考える社会運動⑥動物たちの現状を知る
わたしたちはなぜハラスメント運動/野宿者支援をしながら動物の運動をするのか?——動物問題連続座談会の一回目第6弾。野宿者支援・労働運動など複数の問題に携わってこられた活動家の生田武志さん・栗田隆子さんをゲストにお呼びし、交差的な運動についての議論を深めていきます。
*記事化にあたり、動画の内容を加筆・修正しています。
現実の畜産とイメージの乖離——工場畜産と伝統畜産
——(司会:関)では次に、看過しない会が作った、家畜の問題についてのビデオを流します。
深沢 わたしも以前はそうだったのですが、「家畜を殺すのは仕方がないこと」と思う人の多くは、牛乳パックの絵に描かれているような、牧場でのんびりと草を食べる牛さんとか鶏さんとか豚さんのイメージを信じてしまっている人だと思うのですが、すでに何回か言葉がでてきたとおり、現実はこういう工場畜産であって、牧歌的なイメージとかけ離れている。というのは、工場畜産の現実は、多くの人の目に、あえて触れないようにされているんだということを、まず知ってもらいたくてこの動画をつくりました。
肉を食べる・卵を食べる・牛乳を飲む、という選択をとるならそれでもいいと思うし、わたしは全員がヴィーガンになれとも思わないんですが、本当にここに映っていることは、「仕方のないこと」なのか?ということを考えてみてほしい。せめて自分たちの消費する動物の苦しみについては、それを摂る人が考えてみてほしいと思います。
栗田 わたしは前にこの動画は一回みたんですけど、まず作りとして、レナさんのかわいいほわほわっとした絵と現実の落差がすごくて、それは初めて見る人にとってのインパクトとして残るだろうなと思った。絵や字のかわいらしさと、現実にヒヨコがわーっと殺されていく、という落差。でもそれはあたかも、みんなが牧歌的にイメージしているものと、現実が違うということを表してもいると思う。
このあいだ高野山に行ったとき、精進料理を食べながらアニマルライツやアニマルウェルフェアの話をして、そのときにフォアグラの話になったんですよ。「フォアグラって、『あーん』とかやって(ガチョウやアヒルに)餌をあげるの?」といわれて、「いやいや、フォアグラはそんな優雅に(餌をもらって)太っていくわけじゃないよ。チューブか何かを口に入れられて、過酷なことをされているはずだよ、という話になって。
栗田 やっぱり、現実の畜産があんまり知られていない理由の一つに「牧歌的なイメージ」というのが大きく植え付けられているからなんじゃないかな。あと、生田さんに最初に教えてもらった『いのちの食べかた』という映画だと、工場畜産の様子をえがいているんだけど、白を基調としていて画面がスタイリッシュすぎちゃって、「え、これは何?」とピンと来なかった。でも、『Dominion』とか、今日の動画は、まずすごく暗いところで動物たちが育っていて、暗いところで作業が進んでいるという隠蔽感もあるし、全然知られないところでやってるんだな、という感覚や事実が掴めるのが大事なことかな、と。
* 『いのちの食べかた』(原題 "Our Daily Bread")
生田 やっぱりこの動画を見たときはショックでね。「わぁ、こんな現実なんだ」ということですよね。「牧歌的」という言葉があったけど、やっぱりみんな伝統畜産のイメージがずっとあって、それを前提にモノを言うので意見がまったくずれてしまうことが多いと思うんですよ。でも現実はこうなんだ、というところから始めないといけないと思います。僕もパワーポイントでなかのまきこさんと一緒に動物問題について扱ったんでわかるんですが、よくここまで資料を集めたな、と驚きました。動画は生々しいので大変だったと思います。
日本の卵はこんなに安くていいのか?——鶏インフルエンザによる大量殺処分
——では次に生田さんから鶏インフルエンザについての解説をお願いします。
生田 僕が集めたのは主に鶏卵の問題です。日本人は卵を爆食いしてて、消費量は世界第2位です。
さきほどあったように、日本ではバタリーケージの使用率が94%なんですが、海外では放牧卵が増えていて、イギリスではもう2010年の段階で販売されている卵の半分が放牧卵。でも日本では全然事態が変わっていない。むしろ賄賂事件が起こっているんですね。
2021年に鶏卵生産会社のアキタフーズの代表が、当時の農林水産大臣にホテルや大臣室で計500万円を渡して、収賄罪で起訴されました(その後、贈賄罪などで有罪判決)。会社の代表はアニマルウェルフェアの基準案を農林水産省が受け入れることに反対していて、代表は都内のホテルで大臣就任お祝いの会を開いて、大臣がトイレに行くと追いかけて「お祝いです」と言って、200万円入りの封筒を上着のポケットに突っ込んでいた。アニマルウェルフェアを導入すると、鶏の飼育にお金がかかるからやめてくれ、ということなんですね。つまり、卵は「物価の優等生」と言われているけど、日本の安い卵はこうやって作られていたわけです。
でも、今年に入ってから卵は値上がりしています。スーパーの卵の値段をみてびっくりした人もいたと思うんだけど、これは全国で、鶏インフルエンザが流行して、卵を産む鶏が大量に殺されたからなんです。
2022年から2023年春までの半年間くらいで、殺処分になった卵を産む鶏の数は、1385万羽で、全国で飼われている卵を産む鶏の1割を超えています。普通、人がインフルエンザに感染したら隔離して治療するんだけど、養鶏場で鶏インフルエンザが発生すると、その農場で飼われている鶏はすべて殺処分すると家畜伝染予防法で決められています。
作業員は手づかみで鶏をケージから一羽ずつ出して、プラスチックの大型バケツに入れていきます。それに炭酸ガスを注入して窒息死させます。窒息だから、鶏はバタバタ大暴れするんですね。もちろん殺処分される多くは感染していない鶏です。
こうした殺処分は毎年のように続いていて、殺処分に関わった従業員はこう言っています。「今でも鶏の鳴き声や暴れる姿が脳裏に焼き付いている。鶏は悪いわけではない。本当に可哀想で嫌な作業だった。でも早期の収束のために、手を止めている時間はなかった。」
これは朝日新聞の報道だったんですけど、最終的にこうやって埋めちゃうんですね。
さっきの動画でもバタリーケージの写真がありましたが、あんな密な生活環境では、当然、インフルエンザなどが起こると、たちまち感染爆発します。なので、残念ながらこういった殺処分はこれからも続いていくんでしょうね。
今、卵がだんだん安くなってきていますけど、殺処分が進んで、また鶏が増えてきて、さきほどのバタリーケージで年間300個くらい卵を産んでいる状態が復活しているということだと思います。こういった現状が続いていくなかで、日本人が安い卵を食べ続けることは、本当にまともなことなのか、ということが問われていると思うんですね。
栗田 アキタフーズの事件でも、それがどこまでアニマルウェルフェアの問題が関係していたかということを把握している人がどれくらいいるのかな、とは思うんですよね。賄賂の問題になったというのはよくニュースで聞くけれど、その背景にアニマルウェルフェアが大きく関わっているのに。
生田 アニマルウェルフェアの問題が、日本でほとんど報道されないし、テレビでほとんど見たことないもんね。ごく最近NHKがやってたけど。犬とか猫とかペットの問題はしょっちゅうやってるし、あと保護犬・保護猫や、特に野生動物なんか毎週のようにテレビでやっているけど、畜産の問題はほとんど報道されない。日本人はほとんど毎日食べているのに、その問題がほとんど報道されないというのは、いびつな話だなと思いますね。
深沢 やっぱりテレビだとスポンサーの問題が大きいんですかね?
生田 それもあるかもしれないけど、ジャニーズ問題と同じで、何らかの忖度がずっと働いている気もする。視聴率が取れないということもあるのかもしれないけど。
栗田 NHKだったら別にスポンサーって本来だったらないはずなのに、忖度というのがよく働くから。
深沢 あと最近、母親から「ヴィーガンのお店の紹介はテレビで増えてる」ということを聞いて、報道されるたびに報告してくれるんですけど、ヴィーガンの報道は増えてるけど、アニマルウェルフェアは全然焦点が当たらないんですよね。そこは日本の問題だと思う。
消費者運動——生協のアニマルウェルフェアはいかに?
栗田 アニマルウェルフェアにしてもアニマルライツにしても、他の国は消費者運動がその状況を変えてきた、ということを前にレナさんが話してくれて、じゃあ日本はどうなんだろうな、というのをちょっと調べてみたんですよ。
まず、わたしは「コープみらい」という生協を使っているんですけど、そこは何かやっているのかなとみてみました。
これがコープみらいのアニマルウェルフェアに関する説明なんですよ。「アニマルウェルフェアの取り組みを進めます」と言っているんだけど、たぶんこれを見ても、普段工場畜産があんなに行われているとかそういうことって伝わらないと思うんですよね。こういう環境——ちゃんと(牛や鳥や豚が)地面にいるのかなと思っちゃいそうじゃないですか。
でも実はコープによってもいろいろあるみたいなんです。たとえば、「コープ自然派」という違うコープのサイトを見ると、「アニマルウェルフェアって何?」ということがかなり細かく書いてある。「日本の現状」とかも載っていて、「コープみらい」よりはまだ丁寧かなというところもありました。
※ なお、コープ自然派は比較的AW意識の高い生協だが、2016年まではフォアグラが販売されていた。その後、組合員からの意見によって、翌年には販売が見送られた。販売廃止になったかは不明。
栗田 だから、アニマルウェルフェアをやっているところはやっているんだけど、そもそもコープを使っている人というのが日本ではどれくらいの多さなのかとか、消費者運動に意識のある層というのはどういった層なのか、とかを調べないといけないのかなと感じます。
さらにびっくりするのは、今、「アニマルウェルフェアに関する意見交換会」というのを農林水産省がやっていて、第三回というのが今年の6月28日に行われているんですよね。それにどういう人が参加しているかというと、ここにコープみらいがいるんですよ。だから結構権限があるところにいるんだけど、それが消費者とかにはあまり伝わっていない。
★ ミニワークショップ 〜自分の使っている生協やスーパー、飲食店のアニマルウェルフェアを調べてみよう〜 ★
諸外国ではアニマルウェルフェアの認証システムが流通しており、消費者がアニマルウェルフェアに配慮された商品を選んで買いやすくなっていますが、日本では近年認証システムが少しずつできてはいるものの、認証基準もあまり高くなく、消費者が(国際的な)アニマルウェルフェア基準を満たした商品を一目で選択することは容易なことではありません。
しかし、消費者には、その商品が安全なものか・倫理的なものかどうかなどを知り、選ぶ権利があります。また、日本の企業は消費者からの問い合わせには(一応)答えてくれるところが多いので、企業に問い合わせてみることが可能です。
まずは、自分が普段つかっているスーパーや生協、好きな飲食店・お菓子屋さんなどで、アニマルウェルフェアに配慮した商品が使われているか、手の届く範囲から調べてみましょう。
たとえば、卵が使われている商品だったら「ケージ飼育の卵を使用していますか?」、牛乳が使われている商品だったら「繋ぎ飼いの乳牛を使用したものですか?」、豚肉が使われている商品だったら「妊娠ストールを使ったものですか?」など、自分の食べているものが動物への虐待的な扱いによって生産されたものかを、ある程度知ることができます。
そして、もし上記のような質問に対する答えがイエスで、国際基準のアニマルウェルフェアに達していないようであれば、「ケージフリー/ストールフリー/繋ぎ飼いフリーにのものを扱ってください」などと、自分の意見も考えて、ぜひ届けてみましょう。上記のコープ自然派もフォアグラの販売を停止したのは、消費者の声のおかげです。少しずつ変えていきましょう。
* 問い合わせをやってみた感想などがありましたら、コメント欄にご記入ください。体験談お待ちしてます。
→⑦日本特有の問題〜生き物から食べ物へ
(構成:深沢レナ)