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貴方を目の前にすると、私は盲目になってしまいます。想いを伝えるなど滅相もない。私は、貴方…
死んだ彼の部屋には、弾けない楽器が雑多に置いてあった。 彼は、奇妙なほど弾けない楽器を愛…
「何がワクチンだ。これじゃあ普通に罹っちまう方が楽じゃあないかい」 ベットに倒れて、電話…
君がいない。あの歌でも、映画でも求められていた君がいない。君はどこにいるのだろう。僕の中…
まさか、隣の部屋に彼がいるだなんて。レモンサワーで誤魔化そうとしたけれど、私の耳はそこま…
酒を飲んでも厭な気持ちになるだけだ。酒は、俺を癒すものだと思っていた。信用していた。しか…
槍の先端は鋭い。僕を矢庭に切り裂かんとする。時の槍に不可逆性はない。僕が逃げても、隠れても、必ず貫かんとする。針の筵の様だと嘆いても、これは自分の問題である。時の槍。それは、ある意味では平等なのかもしれない。 如何せん、僕は現実から目を背けすぎた。時の槍の鋭さは、日を追うごとに増していく。一本、二本、三本…。同時に、本数も増えていく。僕の明き盲にも確認出来る時の槍が、襲い迫る。 筵になっても、僕は逃げようとした。致命傷は逃れられぬ。それでも逃げんとする、穴ばかりの僕。蜂の
ひどい日焼けで、随分皮が剥けてしまった。ほこりのような縮れを摘むと、皮がめくれる。動物園…
蓑虫が潰されていた。青い汁がアスファルトに滲んでいた。虫がたかっていた。誰もが見て見ぬふ…
大人になってその奇妙さを痛感したのだが、友達のいとこと随分親しかった時期がある。歳は彼女…
子泣き爺に取り憑かれてしまった。寝付けない夜に、いつも奴はやってくる。ズシン、ズシン。ベ…
海の見えるテラスでソフトクリームを頬張っている女性がいた。彼女を系統立てることは難しい。…
行く先には壁がある。立ちはだかる壁。よじ登ることも、突き抜けることもできない壁。壊すこと…
嗚呼、蝉が五月蝿い。俺は死んぢまいたかったのに。油蝉の抜け殻を見て、嫌な予感がしていた。何故、お前は鳴き喚く。永遠に、土の中で過ごしていればよかったのに。命を削って、現へ現れる。嗚呼、蝉が五月蝿い。 俺は空蝉に生きてきた。しかし、もう鳴くのに疲れて了った。それなのに、嗚呼蝉が五月蝿い。俺の方が先に斃っちまうも、なんだか嫌な気持ちだ。早く夏が終わればいいのに。 縁側で煙草を吸う。油蝉も、蜩も、蛁蟟も、みんなないている。縁側で煙草を吸う。縁には、抜け殻が二つ。潰さないように摘