奇妙な思い出。

大人になってその奇妙さを痛感したのだが、友達のいとこと随分親しかった時期がある。歳は彼女の方が5つも上で、僕は14歳だった。僕は彼女に会いに行くために、初めて独りの電車旅を経験したものだ。誰しもの人生には奇妙な経験があるものだが、僕にとってのそれは14歳のひと夏の経験に他ならない。

海の見えるアパートの一室。やけにピカピカしていた赤い原付バイク。全ては映画のように、僕の脳内に思い起こされる。その夏は記録的な酷暑だった。彼女の汗ばんだシャツの背中にびったりとくっつき、海沿いの真っ直ぐな道を原付で走る。砂浜でもらったアカマルの味は、なぜかひどく酸っぱかった。

彼女の名前を連絡先も忘れてしまった。残っているのは思い出だけだ。時々、冷やりとすることがある。この思い出は全て作り話ではないかと。夢と錯綜した、虚構なのではないかと冷やりとする。しかし、残っているのは思い出だけだから確かめようがない。奇妙な経験は、時に残酷だ。

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