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【読書感想文】残酷すぎる成功法則(エリック・バーカー)

平成に入り、昭和バブルがはじけたことに対する恒常的な不安から自己啓発本が売れるようになったっていう記事が過去に出ていました。

その内容の多くって、著者の経歴を振り返りながら思考体験をなぞり、そのロードマップを追体験することに主眼が置かれるもので、ぼくも読書体験の初期はそういう本に目が行き、読書体験を積んできました。

しかし、読めば読むほどに気づいていくことがあって...

その物語はあくまで著者その人にとっての手段と方法を記した物だったのであって、その対象が自分ではないことに気付くんです。

そして、その成功体験がそもそも自分のものではないことを何度も認識し、失望していく。

成功に夢を見て、希望を持つことは決して無駄なことではありませんが、それ以上に大切なのは事実を知ることです。
多くの自己啓発本に欠けているのは、客観的・数値的な事実を語ることであり、現在の流通している自己啓発本は自己中心的で無責任。

また、気にしなければならないのは、自己啓発は全能の民を生み出す魔法の仕掛けではないのに、まるで全ての人が努力によってなんでもできるようになってしまうかのような風潮です。

全ての人がすべからく、何でもできるようになるとは思いませんし、なるわけがありません。しかし、成功法則を知り、ルールを知り、対策を練ることはできます。

つまり、この世は、ぼくのような気づかない人にとって厳しく、そして残酷な世界なのです。多くの自己啓発本は読者にその壁を乗り越えることを許しません。

壁を超えることを教えるのではなく、著者が超えた体験という、客観的・数値的な根拠ではなく体験的事実を語り、共感することでエクスタシーを与えることで読者の目を曇らせ、快楽的な読書体験を与える。

つまり、それは再現性が乏しく、他の人間に対しての適応する可能性を等しく制限することを意味していて、多くの自己啓発本はその域を脱していません。

本書は、そんな「自己啓発本界隈の限界」を優雅に飛び越えていくことを目指していて、巷間いわれるジンクスやまやかしのような成功法則を全てエビデンスベースで語ることを前提にしていることから、他の自己啓発本とは少し趣が異なります。

 

エビデンスベースという言葉は、巷間使われるようになって久しいですが、難しいことではなく「根拠を示す」という意味であり「裏付け」ということ。

これは1990年代にアメリカで提唱され、医療分野で発展を遂げてきた。EBM(Evidenced-Base Medicine)というもので、それまでの“医師の個人的な経験や慣習などに依存した治療法を排除し、科学的に検証された最新の研究結果に基づいて医療を実践すること”を指します。

つまり、効果測定から術式選定や投薬内容を統計学的に判断し、失敗を減らし、成功を増やしていこうとする取り組みであり、繰り返すこと(症例数を増やすこと)によって精度を高めることができ、多くの命や怪我・病気を改善することに寄与してきたということです。

 

ここで一つ考えたいのは、僕たちは科学的に死ぬことと、非科学的に死ぬことのどちらを受け入れるべきなのだろうか、ということです。

 

自然というものが生物の営みを含めた諸行無常のなりゆく形であるのならば、人間が科学的な力を身につけることができるのは自然であり、大局的な見方をした際に道徳や倫理という言葉もまた、自然の一部である人間の一つの事象となりますよね。

つまり、望む望まないに関わらず、僕たちは科学的見地という考え方を否定できないんですよ。

むしろそれがどんなに人間という生物の営みを外れるような結果だったとしても、結果、どちらを選択しようが人間の存在が自然なのであれば、その人間がなす行為は自然ということになります。

エビデンスベース という言葉を意識して使おうが使わまいが、根底にあるのは自然という大局的なものの中にある一つの事象であり現象ということです

それであるならば、最終的には生物である、また、意識の主体である人間が、人格そのものが自由に選ぶことができるし、選んでいいということになるのではないか。

 

医療の世界においてエビデンスベース というのは、後ろ盾であり根幹的な判断基準です。

選択における判断基準を持っているのかいないのかで何が変わるのといえば、成功と失敗の可能性を知ることで、臨床であり、実験であり、検証。

それが示すものは成功と失敗の可能性を見出すことで、科学において重要なのは失敗の数の上に成り立つ成功だからだ。

成功を得るために先人たちのして来た失敗を知ることこそ、成功への法則を生み出すことにつながる。そして可能性を知ることが重要なのは、できるだけ効率的に生きて生きたいと考える場合、可能性を知っていた方がより良い道に進む指標を持つことができる。

著者であるエリック・バーカーは「調整すること(アライメント)だ」としています。


成功者となるために、覚えておくべき最も重要なことは何だろう?
ひと言でいえば、それは「調整すること(アライメント)」だ。
成功とは、一つだけの特性の成果ではない。それは、「自分はどんな人間か」と「どんな人間を目指したいか」の二つを加味しつつ、そのバランスを調整することだ。

成功をのぞむ僕たちにとって必要なのは、人の成功話の根拠を知ることであり、そこに法則性があるのであれば、そこにまずは乗ってみる”勇気”を持つことではないのかなぁ、なんて思います。

 

成功という言葉がなんとも虚しく聞こえる人というのは、きっと勇気を持つことを諦めた人、そして、夢という言葉と職業という言葉が混同してしまった結果、それができなかったことに絶望している人なのではないか。

しかし、成功や夢というのは一つであるはずがなくて、ましてや一つの事象から成立しているわけがありません。なぜなら、それらは動的なものであり、常に変化し続けるから。そもそも「夢=職業」となってしまっていることは危惧しなければならないのではないでしょうか。

職業というのは一つの手段でしかないはず。

それが夢、つまり目的ということは、壁に釘を打つという目的に対して必要な手段、トンカチを使用することが夢ということと一緒だ。なんとも訳のわからない話だが、残念ながらこれを勘違いしている人は少なくないんじゃないかなぁ。

成功というのは複雑なものであり、複合的なものです。
捉えようがないともいえるかもしれません。

しかし、僕たちはそれを目指すんです。
成功したいという気持ちの裏には幸福になりたいと願う気持ちが内在しているはずで、幸福を目指すことは誰にも与えられている権利であり、目指すべきだとも思います。

何よりも人生は「時間」という有限制約があります。

その有限制約は科学の発展により、徐々に延長されているが、それでも現代における平均寿命は100年まで届いていないですが、今後100年に届いたとしても、有限であることに変わりはありません

有限である人生の中で、必死に成功を目指すこと、ひいては幸福になりたいともがくことは人間であるからこその悩みであり、本質的な欲求だと僕は思います。

そして、本書はその手助けをしてくれることは間違いないと僕は思います。

なぜなら、個人の経験則を科学的なエビデンスに落し込むことに成功している本だから。

残酷すぎる成功法則 9割間違える「その常識」を科学する(エリック・バーカー著、橘玲 監訳)

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