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第4章『「幻影からの脱出」の書評』へのコメント

安冨歩『幻影からの脱出―原発危機と東大話法を越えて―』(明石書店)に対する吉成学人さんの書評へのコメントです。

大学教員の選挙への出馬

 原発を巡る状況も含む日本社会そのものを正しく理解するために、日本で原発が成立したプロセスに位置づけられる日本の戦後政治体制について安冨先生が研究されたのが、今回の『幻影からの脱出』であり、さらに、さきに対談いたしました『満洲暴走』では、満洲が成立したころの歴史にまでさかのぼって考察されているのは、ご承知の通りです。

 政治に対し、批判的言論を発表することだけならば、大学教員としてはそれほど珍しくはありませんが、東大教授のままで女性装の出で立ちをして選挙に2回も出馬された方は、安冨先生のほかには見当たりません。国立大学が2007年に独立行政法人化される前は、国立大の教員は国家公務員であり、在職したままでは選挙へ出馬できませんでしたので、立候補したい国立大の先生は、大学教員を退職してから出馬していました。独立行政法人化後は、在職中の立候補が可能な国立大学がほとんどです。

 「非公務員型」の国立大学法人化により、以上のような広範な政治活動の禁止に関する規定は適用されないことになる。教職員の政治活動は、公職選挙法による教育者による教育上の地位を利用した選挙運動の禁止(137条。239条に罰則がある)という制約は残るものの37)、これまでとは全く逆に、原則として自由となるのである。
盛 誠吾(2004):国立大学法人化と教職員の地位 : 「非公務員型」の意義と課題(下).一橋法学,1(3),p. 565-640.

 もっとも、在職のままの出馬を制限している国立大学も、依然としてごく少数、ありはしますが・・・。

(退職) 第19条 職員は,次の各号の一に該当するときは,退職とし,職員としての身分を失う。
(1) 辞職を願い出て,学長から承認されたとき。
(2) 定年に達したとき。
(3) 期間を定めて雇用された場合において,その期間が満了したとき。
(4) 休職期間が満了し,休職事由がなお消滅しないとき。
(5) 死亡したとき。
(6) 公職選挙法(昭和25年法律第100号)第3条に規定する公職の候補者となったとき。                 (長崎大学職員就業規則)

 公務員の非正規化は、2000年代から進行しており、この後も加速することでしょうし、民間でも副業を推進するなどして、非正規化が留まることはないことでしょう・・・。

東大話法とインターネット 

 「東大話法」の隆盛について思うことなのですが、インターネットの開発で情報が氾濫するようになったために、わざわざ自分なりにいろいろと苦労して思索を深め行動しなくとも、流行の言説に乗っかって時流に染まれば立場を強化できるという素地が社会システムとして整っておりますから、その結果として、自分の考えを持たない空虚な著名人を増やしたことにつながっている気がします。システムの自己増殖ですね。
 もっとも、最近は、「東大話法」でうまくごまかす必要のある相手のレベルが落ち、この話法で切り抜ける必要すらなくなってしまっていることを、安冨先生は嘆いておられるようです。従来の新聞やテレビが、インターネットの普及で次第に斜陽化し、ネットにアクセスできない読者や視聴者の多くが、世の実相にアクセスするのが以前にもまして困難になっていること(デジタル・デバイド)が、理由としてあると思います。

 なお、安冨先生の著書と出会われたnoteクリエイターのKAIさんの書評でも、安冨先生の本でお感じになられたことを率直にご紹介されておられます。興味深く思われますので、ぜひ、ご一読いただければ、と思います。

大学受験について

 大学受験に際して、名門進学校の高校教員は、受験生が入学後に専攻する学問に対し、自分なりの興味・関心を持たせることはほとんどなく、とにかく入試で点数を取れるように模試対策でひたすらトレーニングするのに終始し、それができるのが優秀な教師とされているようです。これは、無論、表立ってそうされているわけではなく、例えば、秦由美子氏の著作『パブリック・スクールと日本の名門校 なぜ彼らはトップであり続けるのか』

などで紹介されているように、受験以外の面である、チャリティーやファッションショーの支援など、学校のごく一部で言い訳程度にしかなされていない活動に人々の注目を向けることで、受験対策に血道をあげている多くの名門進学校の「実情」からは、人々の目がそらされているのだと思います。
 したがいまして、現在の名門進学校が優秀な人間を輩出できると期待することは、私には不可能です。

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