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「プラーナがブラーフマンであるのはそのように理解されているからだ」/シャンカラ註解『ブラフマ・スートラ』(1.1.28)


はじめに

今回引用されている『カウシータキ・ウパニシャッド』は、リグ・ヴェーダに付属されていて、古ウパニシャッドの中では初期の古散文ウパニシャッドに分類されているようです。

その内容は、主に、聖仙ウッダーラカ・アールニ親子にチトラ王が自らの思想を説く様が描かれるのですが、引用されている第三編はインドラ神がプラタルダナ王にプラーナについて教えを伝える節となっています。

シャンカラ註解『ブラフマ・スートラ』第一篇第一章二十八節

表題11 プラタルダナ

28節 プラーナはブラーフマンである。なぜなら、それはこのように理解されるからである。

疑問:『カウシータキ・ウパニシャッド』には、インドラとプラタルダナの物語があり、「ディヴォダーサの息子で有名なプラタルダナは、戦争と武勇によってインドラの愛する宮殿に行った」という一節で始まります。そこには「私(すなわちインドラ)はプラーナであり、意識と同一である。あなたは、生命と不死のような偉大な私を瞑想しなさい」(III.2)とあります。同様に、後の段階で、「今、肉体を保持し、起き上がらせる(すなわち生命化する)のは、意識と同一化されたプラーナそのものである」(III.3)、また、「人は話しについて問うべきでなく、話し手を知るべきである」(III.8)などがある。最後にまた、「その者こそ、至福であり、不老不死であり、意識と同一化されたこのプラーナに違いない」(III.8)などとも言われている。これに関して、疑問が生じる。ここでプラーナという言葉が意味するのは単なる生命力なのか?それとも神の魂なのか?個々の存在なのか?あるいは至高のブラーフマンなのか?

反論:「プラーナはまさにそれゆえにブラーフマンである」(I.i.23)という格言の下で、プラーナという言葉がブラーフマンの意味で使われていることが示されているではないですか?ここにも、「至福、不老、不死」などのブラーフマンの特徴が証されている。ここに疑いの余地がどうしてあり得ますか?

疑い深い人:私たちは、疑いは多くの特徴に気づくことから生じると言っています。ブラーフマンだけを示す印がここにあるのではなく、他のものを示す印もあるのです。「私だけを知りなさい」というインドラの言葉は、神聖な魂を示している。「この肉体を保持し、それを起き上げさせる」という言葉は、プラーナ(すなわち生命力)を示している。「人は話しについて問うべきではない、話し手を知るべきだ」などは、個々の存在を示している。それゆえ、疑いを持つことは正当である。

反論相手:その一節では、よく知られている生命力をプラーナと呼ばれています。

ヴェーダンティン:そのような場合、プラーナという言葉は、ブラーフマンの意味で理解されるべきである、と言われます。

なぜですか?

なぜなら、このように理解されるからだ。説明しよう。このテキストを、その前後の文脈で論じると、その言葉はブラーフマンの理解につながることがわかる。冒頭に目を向けると、インドラから「恩恵を求めよ」と言われたプラタルダナは、人が目指す最高の目的(objective)について「あなた自身が、人にとって最も有益だと思う恩恵を、私のために選んでください」(III.1)と語っている。プラーナが最も有益なものであると教えられたとき、それが至高の自己以外のものであり得るでしょうか?なぜなら、人は至高の自己の智識以外から最も有益なものを得ることはできないからである。これはヴェーダのテキストに宣言されているように「彼だけを知ることで、人は死を超えることができ、他に行くべき道はない」(Sv.III.8)などがある。さらに、「私を知る者が達成する世界(解脱)は、どんな行為によっても、つまり盗みによっても、胎児を殺すことによっても、確かに傷つけられることはない」(Kau.III.1)というテキストが正当化されるのは、ブラーフマンが受け入れられる場合だけである。というのも、次のようなヴェーダのテキストから、ブラーフマンの智識の夜明けには、すべての行いの結果が根絶されることがよく知られているからである。優れたブラーフマンと劣ったブラーフマンとして存在するお方を知るとき、自分の行いの結果はすべて根絶される」(Mu.II.ii.8)そして、プラーナが意識と一体であるという事実は、ブラーフマンがその意味である場合にのみ適切となる。なぜなら、感覚のない生命力が意識と一体化することはありえないからである。同様に、最後に出てくる「至福、不老、不死」(III.8)のような言葉も、ブラーフマン以外には完全に当てはまらない。また、次のようなテキストもある。「このお方こそ、徳の高い行い(善行)によって大きくなることはなく、悪い行い(悪行)によって小さくなることもないお方であり、このお方は諸世界の支配者であり、諸世界の守護者であり、諸世界の主である」(Kau.III.8)、これらはすべて、主要な生命力ではなく、至高のブラーフマンに頼った場合にのみ理解できます。したがって、プラーナはブラーフマンである。

最後に

今回の二十八節にて引用されているウパニシャッドを以下にてご参考ください。

2.我(インドラ)はプラーナ(気息)である。そのような我を智慧からなるアートマン(prajna-atman)として,寿命として,不死として念想すべし。……智慧(prajha)によって真実なる思慮に達することができる。

3. プラーナ(気息)というのは智慧からなるアートマンであり,この肉体を保持し,起たせるものなのである。したがってこれこそを「讃禰」(uktha)として念想すべきである。プラーナは智慧であり,智慧こそがプラーナである。この両者はともにこの肉体にとどまり,またともに去る。

5-7. 語,気息(プラーナ),眼,耳,舌,両手,身体,陰部,両足,意〔の十の存在要素〕は「智慧」の一部として抽出されたものである。これら外部に移された存在要素が,それぞれ名前,香,色,声,味,動作,苦楽,性的喜びと快楽と生殖,歩行,静思と願望〔の十の智慧の要素〕である。「智慧」は語などの+の智慧の要素に乗っ取り,名前などの〔+の〕存在要素を取得する。実に「智慧」なくしてどのようなものも成立閲しない。どのような対象も覚知されない。

8.存在要素は智慧の要素によって支えられ,智慧の要素はプラーナ(気息)によって支えられている。そしてこのプラーナは智慧からなるアートマンであって歓喜,不老,不死である。……彼は世界の護持者であり,世界の主宰者であり,一切のものの主である。彼はわがアートマンであると知っておくべきであろう(vidyat)

『カウシータキ・ウパニシャッド』第三篇 渡辺章悟訳

今回の二十八節は、プラーナがブラーフマンだとするのは、ウパニシャッドにもそのように記されているし、昔からヨーギ(ヨーガ行者)がそのように悟っているからそうなんだというエビデンスとなっています。

つまり、そのように推論できるということになります。

『マヌ法典』によれば、「(1)直接知覚と(2)推論と(3)種々なる傳承による聖典との三者を、法に關して清浮であろうと熱望する人は、よく知らねばならぬ」とあるとして、以下に中村元先生のお考えをご参照ください。

『ブラフマ・スートラ』の中にはしばしば立論の根櫨として直接知覚(pratyaksa)及び推論(anumana)を學げているが、シャンカラによると、それらはそれぞれ天啓聖典(sruti)及び古傳書(smrti)を指していうのであるという。何故このように呼んだかということについて、『ブラフマ・スートラ』のうちには明白な根櫨がなく、われわれが推測するよりしかたがないが、シャンカラはその理由を説明して、天啓聖典は、それが知識の根櫨となり得ることに關しては他の何ものにも依存しないから「直接知覚」という語を以て呼び、また古傳書は、それが知識の根接となり得ることに關しては他のものに依存しているから、「推論」という語を以て呼んだのである、と説明している。すなわち、天啓聖典が絶封の典檬となり得ることは、ちようど認識の場合において直接知覚が自明であって疑いを容れない性質のものである貼と類似しているから、その貼で天啓聖典を直接知覚と呼び、また古傳書が天啓聖典と合致する限りにおいて典糠となり得ることは、やはり同様にちようど推論が直接知覚にもとついてのみ成立し得るのと同様であるから、「推論」と呼んだのであろう。(天啓聖典とか古傳書とかいう語を用いないで、直接知覚とか推論とかいう語を以て暗に示しているところに、『ブラフマ・スートラ』の、謎のような表現を愛好する性格が認められる。)ともかく古傳書は天啓聖典よりも灌威の劣ったものであるから、爾者の問に矛盾の存する場合には、天啓聖典の教えを採用すべきであると説いている。

『伝統と合理主義の抗争』*中村元

シャンカラ師は、西洋的な合理酒の主張を限界として、伝統的な聖典群を権威づけて引用し論理的な解説を試みているのですが、中村元先生はここでは都合の良い理論を引き出したにすぎないと否定的です。

*上記にリンクを張っておりますのでお読みください。

学者さんなので直接知覚を試みていない(頭の中だけの)ことからのお考えであることは仕方がないかなと思います。

ということは、この『ブラフマ・スートラ』を解説するシャンカラ師の文章を読むだけだと西洋的な合理主義に押し寄られてしまうことをお伝えさせていただきます。

インドではよく言われていることですが、マンゴーは食べてみないとその味はわからないということです!

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