戦略の教科書 vol1. -ストーリーとしての競争戦略[ブックレビュー込み
”戦略とは何か?”
このような問いがあったときあなたはどう答えますか?
全体の方針であるのが戦略で個々の施策が戦術だ、
ポジショニングや市場での攻め方だなど答えがあるでしょう。
しかし、様々なところで昨今戦略の重要性が叫ばれ、
その必要性を誰もが感じる中で自身の経験上これが戦略だと
しっくりくるものに出会う経験は意外と少なく感じます。
それは自分自身も戦略が何かをちゃんと理解していないことも含め、
案外多くの人が”戦略とは何か”を理解しきれぬままいるのではないか
そう思うことがあります。
この連載は私が”戦略とは何か”を探求する中で得た学びをアウトプットしていく記事です。
そして、その一連の学びのゴール1つとして戦略を学びたい人々にとって役に立つ形式知を完成させることを目指していこうと思います。
戦略がストーリーになっているか
今回まとめるのは楠木建氏著”ストーリーとしての競争戦略”です。
この書籍では”戦略がストーリーになっているか”という視点を中心に著者が長年の研究で見えてきた戦略の特徴をまとめています。
500ページ近くの書籍ではありますが、多くの事例と戦略がストーリーとなっているかとはどういうことなのかをまとめてくれており、読むのが楽しかった書籍なのでこの記事を読んで気になった方はぜひ読んでみてください。
それでは本題に入ります。
書籍では戦略がストーリーになっているかという視点から戦略が持つ要素を説明してくれます。
その戦略がストーリーであることを説明するための表現の1つとして
アクションリストやビジネスモデルとの違いにも触れています。
(これ以外にも書籍では戦略ではないものを色々と紹介してくれています)
ストーリーとしての戦略とアクションリストやビジネスモデルが違うのは
以下のポイントがあります。
・要素同士のつながりがあるか
・時系列に沿って次にどうなっていくかの動きがあるか
といったところです。
企業の戦略の中にはアクションリストのようなものもあります。
例えば、新規事業をやる、営業で顧客により向き合う、マーケティングで強化する、従業員のエンゲージメントを上げるなど色々やることは決まっているものです。
しかし、実経験上でもそれぞれがなぜ必要なのかやどうつながっているのかの説明や論理がなくただやることだけが並べられていることは多く、書籍においてもこれは戦略でないとしています。
また、ビジネスモデルとも違うとしてます。
それはビジネスモデルは静止画であり、動画のように時間に沿って次にどうなっていくかがそれだけでは見えてこないからです。
あくまでも戦略は要素同士につながりがある。
そして、そのつながりが時系列に沿って動画のように次にどうなっていくのかがわかるそのようなものを戦略は特徴として持っているとしています。
戦略の本質とは”違いをつくって、つなげること”
この書籍では戦略の本質とは”違いをつくって、つなげること”と定義しています。
2つのテーマは
違いをつくる:ポジショニングにより競合優位を作ること
つなげること:戦略のストーリーを考えること
を意味しておりそれぞれに関して深ぼられているのが特徴です。(特に後半のストーリーが多くの事例を交えて書かれています)
ポジショニングにより競合優位を作ること
1つ目の”違いをつくる”においてはポジショニングによって競合優位を作ることで差別化できるとしています。
(戦略史はポジショニング派やケイパビリティ派の潮流があるのですがその2つをうまく統合しているんじゃないかなと勝手に感じてます。)
そしてその競合優位は”ポジショニング”と”組織能力”から生まれてくるとしています。
この二つの違いの表現でわかりやすいのがレストランの例えで、
ポジショニングはレストランでいうジャンル(和食、イタリアンなど)
和食の提供を決めるということはイタリアンを提供しないという
”何をやり何をやらないかを決める”ことにあたります。
ここに関しては多くの企業でもポジショニングマップなどでも可視化しながらうまく競争しなくていい市場を探したり、他社との違いを考えている方も多いと思います。
上の図で行けばSP(Strategic Positioning)と書いているとことで、
左下の図でいくと青色の矢印が示す、市場のどこにポジションを置くかで差別化を諮る部分になります。
そしてもう1つの組織能力はレストランでいう厨房設備や働く人などの経営リソースのことを指しています。
そして、ここが面白い部分なのがこの組織能力は”模倣しにくい”とです。
この組織能力の中には組織に蓄積したノウハウや組織文化、技術など暗黙知になりがちなものや、その企業がこれまで歩んできた歴史といった特有の文脈というものが含まれます。
これらは市場には存在はしませんし、明確でもないので真似しづらい。
そして、戦略がうまく回っている企業がどうしてその手段をとったのかの文脈を知らないまま表面上のやり方だけを真似たとしても、真似た企業はうまく施策が噛み合わなくなるといったことが生じてくるそうです。
確かに自信の経験を振り返っても、フレームワークや他社の事例をもとに作られた戦略は機能せず終わるパターンが多く、まさにこの部分を考慮から落としてしまったが故に失敗しているような気がしてなりませんでした。
上記の左下の図でいけばOC(Organizational Capability)としてオレンジ矢印で表現している部分が該当します。
このOCのさらに興味深いのは時間経過によってこの組織能力は蓄積していくのでさらに差別化が生まれてくるというところです(ですのでイメージ図において時間経過に応じてSPの円弧が右上にずれていくような感じです。)
最近は人的資本に注目も集まっていますが、人材に投資していくことで良い文化、人が定着し業務に励んでくれる環境を整えればこのOCが強化されていくので組織としての差別化が聞いてくるといったことにも繋がりそうです。
戦略のストーリーを考えること
そしてここからは後半のストーリーを考えるの部分についてまとめていきます。
書籍においては上記のイラストの”5つのC”がストーリーを持つ戦略にはあると書いています。
とはいえこれだけだとわかりづらい部分も多いので書籍にもあったスタバの例で簡単にだけまとめます。
多くの方がどこかでは聞いたことがあるのではないかと思いますが、
スターバックスは仕事場や家庭以外で第三のリラックスできる場所を提供すると言うコンセプト”third place”を掲げています。
(最近は環境への配慮も押し出してますね)
これはスタバはただコーヒーを売るのではなく、ゆったりとした雰囲気の店舗でリラックスしてもらうという経験を顧客に価値をして提供するのだという意思のもと生まれているコンセプトであり、このような誰にどんな価値を提供しているのかの本質的な顧客体験の定義をストーリーの中の”コンセプト”としています。
また、このコンセプトはスタバの店舗のゆったりとした内装やあえてスピーディーにコーヒーを提供せず作る過程を楽しんでもらうスタイル、職場のオフィスや自宅が少ない郊外への立地、スタッフの対応、高品質のコーヒーなど様々な施策もとい”構成要素”に現れています。
書籍の中では持続的な利益を生み出していくことが企業活動のゴールとしており、スタバでは先ほどのコンセプトをもとに価値を提供することで顧客が払いたくなるようにデザインされています。これは多くのコーヒーチェーン店が効率化を進めた中で差別化を生んでおり、利益につながっていく”競争優位”になっているのです。
そして”クリティカルコア”ですが、
クリティカルコアとはストーリーが一貫性を保つための中核的な構成要素であり、他の構成要素につながる要素です。
スタバだとこれは直営方式が該当するそうで、店舗デザインやスタッフの対応メニューに至るまで一貫性を出すために、オーナーに任せるフランチャイズ方式ではなく本部のコントロールを効かせられる直営方式をとっているそうです(コントロールを効かせられるからこそコンセプトに沿って施策を統一できる)。
最後のストーリーの要素である”一貫性”はストーリーの評価基準であり、以下の3つの要素を見ていきます。
それぞれの要素ですが、まず”ストーリーの強さ”は戦略を構成する要素のつながりがどれだけ確実に起こりやすいのかの因果関係をみます。
例えば商品を大量生産すれば1個当たりの生産コストは下がることが知られていてこの間の因果関係は強いです。
このように戦略ストーリーを構成する要素同士のつながりが確実性が高ければそのストーリーは強いといえます。
次に”ストーリーの太さ”ですが、これは要素同士のつながりの多さです。
つながりが多いものほど相互作用が起こりより強固なストーリーになります。
スタバで行けば広い郊外への立地はゆったりとした店内レイアウトに作用しますし、ゆったりとした空間とスタッフの丁寧な対応がそれぞれリラックスできる居場所をつくていそうです。
このように各要素が繋がることで相互作用し合ってその戦略を強固なものにしています。
最後は”ストーリーの長さ”でこれは時系列に沿ってのストーリーの発展性が高いかを見ていきます。
例えば商品の企画を標準化することで大量生産が可能になり、それによりコストダウンが起こる。
費用が安くなれば購入してもらえる機会が増え、利益が上がり、製品の開発に投資できる。
そして開発投資でさらに改善すればより買ってもらえるようになるなど、次々と時間が経過するにつれストーリーがつながっていきます。
(もちろんこんなにスムーズにいくかはわかりませんが)
このように時間軸に沿ったストーリーの発展性がストーリーの長さです。
これらの要素をうまく兼ね備えているかがそのストーリーがいいものかどうかを判断する評価軸になると書籍では書いてくれています。
こうして戦略と構成する要素とその要素同士のつながり、またつながりのあり方を見ていくといい戦略が何を備えているのか。
逆にいい戦略を作るために何を意識しなければいけないのかが考えやすくなりますね。
個人的な感想・まとめ
書籍を通して個人的に感じたのは戦略はゴールまでの道筋(書籍でいうストーリー)としての要素があり、それらが論理的につながっているかというところがポイントになるのかもしれません。
であるなら、目標やビジョンだけを語り、方針もなく途中の道筋が
ブラックボックスであるような戦略は避けた方が良さそうですね。
この点を踏まえて次の戦略とは何かの探究に進みたいと思います。
書籍ではマブチモーターやサウスウエスト航空、Amazonなど、より具体的に各要素についての事例と説明がありますし、
ここに書ききれていないポイントも大量にあるので今回の記事を読んで興味を持った方は是非読んで見てください!
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