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【文化財紹介】大大阪のモダン建築 ~大阪セルロイド会館~

【2023年6月1日/大阪歴史倶楽部】
今月は大阪市東成ひがしなり区にあります、昭和初期のモダンなビル「大阪セルロイド会館」をご紹介いたします。


大阪セルロイド会館
大阪セルロイド会館は、1931(昭和6)年に建てられ、その6年後の1937(昭和12)年に増築されて、ほぼ現在と同様の姿となりました。

この建物は当時隆盛を極めていたセルロイド製品のうち、主流だったセルロイド製のくし製造業の同業社組合の活動拠点として建てられ「櫛会館くしかいかん」と呼ばれていました。現在はテナントビルとして活用されています。

最初に建てられたのは建物の北側で、角がアール(曲面)になっている北館です。このようにビルの角にアールを持たせるデザインは大正時代の終わり頃から昭和初期にかけて大変流行した当時のモダンなスタイルです。

後に増築されたのは南側の部分で、こちらの南端は和風(町家風)の窓や庇を持つデザインで、北館とはまったく違った印象となっています。現在はこの南側を正面玄関としています。


外観の写真

以下は大阪セルロイド会館の外観の写真です(2023年5月 大阪歴史倶楽部 撮影)。

大阪セルロイド会館 全体(北東から)
大阪セルロイド会館 北館の角のアール部分(北東から)
大阪セルロイド会館 北館(北から)
大阪セルロイド会館(北西から)
大阪セルロイド会館 南館正面(南東から)
大阪セルロイド会館 南館階段室の外観(南から)
大阪セルロイド会館(南西から)


建物の特徴

大阪セルロイド会館は鉄筋コンクリート造3階建のビルで、その平面形はL字形となっています。国の登録有形文化財に指定されています。

最初1931(昭和6)年に北側の北館が建てられ、その北端は角部分をアール(曲面)に仕上げたデザインとなっています。このアールの部分は外側を列柱風とし、建物内は階段室となっています。

大阪セルロイド会館 北側の角部分拡大(北東から)

また1937(昭和12)年に増築された南館の南東端部分(現在の正面玄関部分)は、和風(町家風)の縦長の窓と庇、その上部に当時大流行していた丸窓を並べたデザインとなっています。

この北館と南館のデザインの差は時代差によるものですが、建物側面のデザインや屋根にスペイン風瓦(スパニッシュ瓦)を用いているところなどは全体的な統一感を持たせてあります。

【豆知識】
セルロイド
セルロイドはアメリカで発明された世界初の合成樹脂で、それまでの天然素材に代わる新素材として世界的に注目されました。日本に入ってきたのは1877(明治10)年で、ドイツから神戸に輸入されのがはじまりだと言われています。

セルロイドの原料となる樟脳しょうのうは楠の木から採取できることから戦前の日本ではセルロイドの生産が盛んになり、大阪市内ではとくにこの東成区周辺がセルロイドの一大生産拠点となりました。

セルロイドは成型のしやすさ、色・柄の豊富さなどから、櫛や人形、万年筆の軸など当時の様々な日用品に用いられました。

しかしこのように一世を風靡したセルロイドにも欠点があり、とくに燃えやすいことや品質の劣化が早いことなどによって、戦後に石油から生産されるプラスチックが世界的に普及するとセルロイド製品はプラスチック製品へと置き換わりました。

◎セルロイドの長所
加工しやすい
光沢があり美しい
◎セルロイドの短所
耐久性が低く品質劣化しやすい
自然光(太陽光)でも品質劣化する
燃えやすい(摂氏170度ほどで自然発火する)


大阪セルロイド会館への行き方
大阪セルロイド会館へは、大阪メトロ千日前せんにちまえ線「今里いまざと」駅1号出口から西へ約300m(徒歩約5分)です。

行き方の目安は「今里」駅1号出口を出ると「今里」という大きな交差点の西の角にあたります。その「今里」交差点を千日前通せんにちまえどおり沿いに一旦南西へ進み「東成ひがしなり区民センター前」の信号を過ぎてさらに70m程進んで1つめの角(スーパー「ライフ」の手前の角)を北へ(右へ)入ります。そこから約150m程北へ進むと西側(左側)に大阪セルロイド会館があります。

【文化財データ】
大阪セルロイド会館
大阪市東成区大今里西2丁目5-12
1931(昭和6)年竣工/1937(昭和12)年増築
鉄筋コンクリート造、地上3階建
設計:西田勇(大阪府営繕課)
国の登録有形文化財
写真:2023年5月 大阪歴史倶楽部 撮影


おわりに

今回は大阪市東成ひがしなり区の大阪セルロイド会館をご紹介致しました。

セルロイドというと、その響きにどこか懐かしさを感じます。大正時代の終わり頃から昭和のはじめにかけて、大阪市が最も繁栄していた時代「大大阪時代だいおおさかじだい」は、あらゆる産業が発展した時代で、セルロイド産業もそのうちのひとつでした。

大阪セルロイド会館は、北館と南館でまったく異なった表情を見せていますが、そのようなユニークな特徴もこの建物の魅力だと思います。

現在は建物の外壁は黄色く塗られていますが、竣工当初は白い建物だったと伝わっています。外壁は何回か塗り替えられているようです。20年ほど前の写真をみると白い建物として写っています(著作権のある写真ですのでこの記事には掲載できませんでした。ご了承ください)。

なお、ここで紹介いたしました大阪セルロイド会館の建物を見学したり写真や動画などを撮影されるときには、所有者さんや管理者さん、周辺の方々に不快感を与えたりご迷惑にならないよう充分なご配慮をお願い致します。

また許可なく他の人の敷地内に入ったりしないようお願いいたします。とくに大阪セルロイド会館の建物内部は通常「非公開」となっています。内部を撮影される際には事前に必ず所有者さんや管理者さんなどの許可を得てくださいますようお願いいたします。

今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。


【参考にした資料】
◎高岡伸一 他『大大阪モダン建築』青幻社 2007年
◎『国指定文化財等データベース』文化庁 2023年版
◎「大阪セルロイド会館」『文化遺産オンライン』文化庁 2023年版(WEB版)
など。

(『大阪歴史倶楽部』第2巻 第6号 通巻14号 2023年6月1日)

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※次号は2023年7月1日に投稿する予定です。

《次号予告》
【文化財紹介】
(内容未定)
いつものように近代の文化財をご紹介させていただきたいと考えています。

※予告内容は変更する場合があります。ご了承ください。