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ー詩と形而上学ー

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創作している詩をまとめました。お気軽に御覧下さい。
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#詩

ー詩と形而上学ーNo.41

GOOD MORNING      抑揚のない声を ミキサーにかけて ジュースにする 今日の、搾りたての かすれた声帯は おはようございますが うまく言えない 背景だと思ったら 風景画だった時のような 掴み損ねている 本日の、自分の居場所 頁を開いたら 繰り返される 契りのような、或る永遠性 ありのままの背中を現実として 只、生き延びていくだけでは 干乾びてしまうようなので 植物園の入場券の半券を 柔らかく握りしめながら じっと、待っていようと思う 花が咲く、その瞬間

ー詩と形而上学ーNo.39

花束     百万通りの感傷が 癖になり ワイシャツの皺 裸になった襞 唇を通り越して 半音階の♯となった そのまなざしは 魂の真ん中の 脆弱性を攻撃した ウォーターハウスの 絵画の濃紺 裸体  飾ろうとして 極めて透明に 無邪気な無色になった なにもいらない 革の手帖も 氷点下の陽炎も たてがみをゆらした 燃える馬を見た 俄に透き通った 凡庸なわたしの血 たっぷりと、お飲み 一際、燃え盛った彼は 暫し、嘶き 蹄の跡を残して 薔薇のように散った 暁光の光束が いろあ

ー詩と形而上学ーNo.38

SUMMER SWEARTER     半年前は サマーセーターで それに 理由を 探していた 通り抜ける うつろうことを 恐れない Ethicsで 田園を飛び立ち 都市に至る 一本の 糸のような 必然性で 一貫性が あるようだ どうやら あなたとの間に 枯れなかった 向日葵 朝六時の 初冬の気配 誰もいない それが似合う ひろがる 青い塵 首都圏から 遠く離れた 美しい街の 踏切に たたずんだ カーブミラーが 仄かに映す 触れられないもの 無邪気で 無色な 置

ー詩と形而上学ーNo.37

或る、雨について   或る、雨について 語ろうとしている この白雨が 概念ではないことを知った わたしの傘は どこへいったのだろう バスに乗り 列車に乗り 飛行機に乗り 南半球の最果てまで 旅をしておくれ ボリビア辺りの 紺碧の その空を 観てくればよい 雨は、要りますか 宿命のような雨は ベランダで 金魚鉢が 鳴いている かつての 青い季節のままで 冷えて 蒸発して 乱反射して 交差点を照らす 誰も弾かない ピアノが 濡れたまま 水溜まりが 反響している

ー詩と形而上学ーNo.35

脱意味のためのエチュード 躁 不完全 声を掬う 淫靡たる血気 が 陽転 エチュード 喉を伝う 清浄な性交 破裂 暗転した アラベスク 完全な 俄雨 排水溝が Xだった 未熟な こめかみ 結論は 湿り気のある 南アフリカ  まだだ 戦闘が始まる 水泳着 顎鬚とカブール まただ ニュースキャスター 無条件 沈黙の憤怒 破水 破壊 笑っちゃうような グレネード 笑っちゃうよねと 冷笑して ハブられた メランコリー 冷凍されて 凍り付く 砂漠 消しゴムで消そう 完全になるらしい

ー詩と形而上学ーNo.34

完璧な青       帰り道に見つけた 完璧な青が 高い空の天辺に 一滴のインクで 孤独な絵を描く 雲は遥か眼下にあり 飛行機の主翼の 揚力も必要なく 酸素の限界を超えて 魂が昇っていく 無重力 飛んでいる気分 万有引力に逆らって ひとひらの羽根 羽ばたくまでもなく 無と銀色の宇宙の 中間地点にいる 二つ目の瞳に映った 白い鯨がよく見える それは空を泳いでいる 詩性は音階になり 名前のない祈りになり 包まれるように 心音のあわいに 青く揺れている 再び魂が昇ると

ー詩と形而上学ーNo.33

この夏のこと 駅前から堤防に向かって歩いたその先にある カーブミラーに映った黄昏 その、ブルーモーメント 被写体として最適化された 青の導きに身を任せながら 嫋やかな名画を透かしたような 嘗ての時代の肖像画を眺めている 黄色のスケッチブックを一枚破いては 機械的に折り畳んでいる 飛行機として秋空に放したその紙は 螺旋としても楕円としても不十分なまま 何かを語りかけるようにして 東部戦線の戦場で散った兵士の 最後の優しさのような柔らかな着地をした それは花の冠を探すような手

ー詩と形而上学ーNo.32

クロール    陽炎は声高な口調を失い 教室の後ろから二列目の 窓際の女の子のように 摂氏二十九度 乾いた校庭を眺めている ひと月前まで水泳されていた 透明が青みを帯びていく 夏の終わりとの和解 グラスのサイダー 冷えていく、炎 崩壊していく定型詩 形未満の、可塑的な 音のない背中 失われた秋桜の予感に 袖を通していく 固く閉ざされた瓶詰のピクルスの蓋のような      抽象的な、ざらざらとした結論に                   傍線を引いた序文の一頁のような

ー詩と形而上学ーNo.31

堤防          分かっているよ そんなこと 読んで、学んで、探して、沈んで、泳いで、 走って、笑って、疲れて、働いて、休んで、 告げて、頷いて、散って、咲いて、契って、去って、燃えても、尚 堤防に吹く風の体積を測っている 黄昏が付箋のように剥がれそうになっている 真ん中に穴の開いたビルは嘗ての未来だった この街は、可笑しくなるほど、首都ではない 高く、昇って、乾いている 九月は金魚鉢と一緒に無邪気に屈折している 半袖と、パフスリーブと、オルゴール 南アフリカ

ー詩と形而上学ーNo.30

Air‐Conditioning         水曜日 マリンバの響きのような 午後六時二十三分 見飽きた残照 形而下の雑踏  概念として咲く、思弁的な花弁 稲妻が走れば、雷鳴が轟くぐらい 確実に まるで、柔らかい   俄雨  雨  雫 アスファルトの香り、八月三十二日の午前中 秋桜の輪郭は正午過ぎには消え去るのだろう それは、存在する前に 主題がない小説の風景描写のような 水色のビルディングの片隅に ショートヘアの美しい人 佇んで、沈黙している 空調されている

ー詩と形而上学ー29.0

白藍色            眠れないほどに 燃え上がる 冷えていく 炎 欲している 欠乏している 霧が晴れたような 夜明け 文未満 意味以上 通り過ぎたもの 大切だった 確か、大切なはずだった 本当は、もっと 屈託のない心であるはずで 喪失的な 背中のかたち ベランダに残る 陽炎の名残 ビルの光が反射した 夜の雲を 黒とブルーの中間の 濁りのない藍色で染める 震えている 孤独を知り過ぎた 魂が 切望している 待ち続けている 前未来が 大地が割れて 無着色の

ー詩と形而上学ーNo.28

無矛盾 違う 間違う すれ違う この時代の 酸素が馴染まない 君はとても器用だね 効き過ぎた空調機のよう 八月の高い空の天辺 鹿の骨が、割れたような青 金曜日が遠く望ましい憂鬱ならば 快く蝉の足跡の六角形の名残になろう ザッハトルテの、表面のチョコレートの艶で         甘美な祈りの外れた音階で            二度と戻らぬように                                                                 

ー詩と形而上学ー27.0

七月の唄 ひとひらの心音が、鳴かなかった夜。新種の紫陽花の名前のない色の名前を思い出す。六角形の響きを残した月。くぐる雲の名残が、矛盾のない冷たさの、頬の横を流れていく。半袖とピアノが、反射している。南アフリカの、水色の鉄道が震えている。斜め下から、きみを証明する、手品の仕組みを眺めてみる。 柔らかくなった縞馬の骨を白いテーブルに並べて、黒砂糖の溶けた名残のような泪の跡と重ねている。 灰になったそれは二回目の遺骨となって、グラスのミルクの中で甘味を纏い、泳いでいる。息を沈

即興詩/24.0

白いノイズ どことなく メロウ 地上から 3㎝浮く ぼくたちには それで十分で 泪が こぼれそうにはなるぐらい 揺れて 揺れている 表面張力が 限界を迎え 頬を伝う 流れている その質感と 触感に驚いて  気付けば 既に 空調機の風で  乾きはじめている 長い映画のような 夢を見て 祈りのような 終わりを見た 始まりはきっと 終わらない 無条件な 魂から生まれ 虚無の中に 消えていく 可能性も 実在もなく 回路を 流れていく マイナスの電荷の 何かだろう 頬が痺れる