ー詩と形而上学ーNo.32
クロール
陽炎は声高な口調を失い
教室の後ろから二列目の
窓際の女の子のように
摂氏二十九度
乾いた校庭を眺めている
ひと月前まで水泳されていた
透明が青みを帯びていく
夏の終わりとの和解
グラスのサイダー
冷えていく、炎
崩壊していく定型詩
形未満の、可塑的な
音のない背中
失われた秋桜の予感に
袖を通していく
固く閉ざされた瓶詰のピクルスの蓋のような
抽象的な、ざらざらとした結論に
傍線を引いた序文の一頁のような
微かに残ったイメージを
確かに手繰り寄せている
眩暈がする、追憶
グラスゴーの教会の
美しい讃美歌を聴く
古い長椅子の温度
飛び込んでいる
そのプールの水温
羽になり損ねた
背びれを羽ばたかせ
飛んでいる
水中を
溢れ出そうなものを
塩素で希釈しながら
虹色になった唇
鼓動する心音の必然性を感じている
身体の芯が零度まで冷え切っている
魚のような、鳥になる
小学校で覚えたものは
今でも、あまり変わらずに
両手を揃えて、線になる
一度、水深1mまで
浮上をしたら
泳ぎ始める
それは、きっと
クロールのかたちで