記憶について考える
記憶力が減った、落ちた、これは覚えられるのにこういうことは覚えられない、とか、誰もが一度は記憶に関することを話したことはあるだろう。
記憶や記憶力といっても、実は何種類にも分かれている。その中で自分の得手不得手を正しく理解することで、頭が悪い/記憶力が悪いと無駄に思うことなく自分の得意な記憶方法を有効利用できるのではないか。
記憶の種類
このサイトがよく記載されているが、一部を抜粋する。
(1)保持時間に基づく記憶の分類
心理学
感覚記憶:最も短い。瞬間的に保持されるのみで意識されない
短期記憶(ワーキングメモリー):保持期間が数十秒程度の記憶
長期記憶:短期記憶に含まれる情報の多くは忘却され、その一部が長期記憶として保持される(数分から一生)
臨床神経学
即時記憶:情報の記銘後、想起させるもの(数字系列の復唱)
近時記憶:保持時間(数分~数日、定義なし)。保持情報が一旦意識から消えることを特徴とする(前夜の食事内容)。
遠隔記憶:保持時間が長い(~数十年)(個人の生活史(冠婚葬祭や旅行))
(2)内容に基づく記憶の分類
陳述記憶
エピソード記憶:個人が経験した出来事に関する記憶。例:昨日の夕食をどこで誰と何を食べたか。その出来事を経験そのものと、それを経験した時の様々な付随情報(時間・空間的文脈、そのときの自己の身体的・心理的状態など)の両方が記憶されていることを特徴とする。
意味記憶:知識に相当。言語とその意味(概念)、知覚対象の意味や対象間の関係、社会的約束など、世の中に関する組織化された記憶である。例:「ミカン」が意味するもの(大きさ、色、形、味や、果物の一種であるという知識など)に関する記憶が相当。
非陳述記憶
手続き記憶:同じ経験を反復することにより形成(運動技能、知覚技能、認知技能など・習慣)。例: 自転車に乗る方法やパズルの解き方
プライミング:以前の経験により、後に経験する対象の同定を促進(あるいは抑制)される現象。例:混雑している街の中で、不意に知らない人物の顔が目に飛び込んで来た場合、実はその人物は毎日の通勤電車の中で知らず知らずのうちに見かけていた。
古典的条件付け:経験の繰り返しや訓練により本来は結びついていなかった刺激に対して、新しい反応(行動)が形成される現象。例:梅干しを見ると唾液が出る
非連合学習:非連合学習とは、一種類の刺激に関する学習であり、同じ刺激の反復によって反応が減弱したり(慣れ)、増強したり(感作)する現象である。例:大きな音がすると最初は驚くが、短い間にその音を繰り返し鳴れば、その音が聞こえても次第に馴れてしまう。
記憶の得手不得手
一般的に、座学が得意というのは意味記憶を示す。座学が得意な人は「勉強が出来る」と表現する。それは「賢い」と同義ではない。
「賢い・頭がいい」というのは別の記憶が秀でていても説明される。
ある人気飲食店の店員さん。繁忙時期に複数の卓から複雑な注文を複数受けても、メモもなく全て聞いたまま覚えて確実にオーダーを通すことができた。
耳からの短期記憶に秀でているのだろう。飲食店の店員さんとして本当に優秀すぎる能力だった。
昔知り合った看護助手さん。彼女は専門学校卒で座学はどれたけ得意だったかは知らない。しかし驚くべき暗記力があった。担当している数百人の患者さんの、病名/状態/治療内容(検査・内服の内容・変更時期)を全て覚えていた。別に何かにメモして覚えている様子もなく、ただ全てを覚えていた。
尋常でないエピソード記憶力の持ち主である。
世界トップクラスの大学に通っているあるエリート学生がいる。彼にある時複雑な手順を4つ連続で教えた。とりあえずやってみさせたら、初見にも関わらず、4種類を連続で完コピした。今までそれを完コピできた人はいなかったし、できるような簡単なものではない。
少なくとも視覚からの短期記憶が非常に優れているのだろう。最高峰の大学に入れているのもあり、恐らく意味記憶(知識)も人間の平均よりは遥かに高いはずだ。
しかし彼は「自分は記憶力が悪いから」と自虐ではなく本心でよく言っている。仲良くなるにつれ、確かにそうだった。
過去に関しての記憶がかなり薄いのだ。仲良い筆者の車種ですら忘れる。過去に筆者が彼に話したことを、彼は筆者から聞いた話ということを忘れて説明してきたりする。
アメリカでエリートな友達がいる。彼はエリートになれるだけあって、意味記憶 (知識) は秀でている。それでも本人は「そこまで暗記は得意ではない」と言っている。
恐らく本人の中の比較対象レベルがかなり高いのだろう。
しかし過去の”時系列”に関しては本当に記憶が薄い。例えばあるお店に行ったのが1ヶ月前だったか、3ヶ月前だったかも全然記憶にないらしい。だがそこで食べたメニューに関しては、1年後に聞いてもスラスラ全て即答できるのだ。
筆者のケース。意味記憶はかなり苦手であり、大学を卒業するまで常に成績の下位だった。しかしエピソード記憶は優れている。顧客の情報は覚えるつもりはないが、交わした会話や細かい流れもセロテープで貼り付けたようにほぼ全て覚えている。
意味記憶に関しては長年努力したが、やはり人並みになるのが精一杯で得意になることは一生ないと思う。しかし最低限の意味記憶は仕事をするにも必要で、それを補強するために、全てをエピソード記憶に持ち込んで長期記憶にするようにしている。
またエピソード記憶を活かして、人の記憶力や嘘やごまかしのレベルがよくわかる。同じ場所に居合わせた人がその時の話をしているのを聞いたりする。それは一言一句正確に記憶しているか、かなり正確か、6割くらいしか覚えてないけど適当に誤魔化して話してるか、そういうのがよくわかる。一言一句タイプは対応する時に慎重になるし、6割の人からの説明は6割前後で聞いている。
まとめ
巷では記憶力トレーニングとか色々あるが、まずは自分がどの記憶が得手不得手かを理解して、それを活かして自分を有効に使う。