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登山家がやって来る - 吉田和夏 Who Comes, Who Knows -

 Cyg art galleryではただいま岩手県出身のアーティスト・吉田和夏の個展「Who Comes, Who Knows」を開催しています。

 吉田は恐竜や図鑑、地図、天体、鉱物、宇宙などを題材にした絵画の発表を中心に、ZINEやグッズの制作を積極的に手掛けるなど、多彩な活動を行ってきました。

 今回の展示では、今までの題材に加えて「木彫りの登山家」をモチーフに取り入れた作品を主に発表しています。登山家との出会いが、吉田の作品にどのような展開をもたらしたのかが見どころとなっています。

「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子
「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子
グッズも豊富にご用意しています!

 この記事では今回の展示の作品を順に見ながら、吉田が展示に込めた想いやそれぞれの作品の狙いについて考えていきます。
 

木彫りの登山家との出会い

 会場入り口に置かれているのは「木彫りの登山家」の置物です。素材は白樺で、いわゆる農民美術運動の中で作られた「登山人形」と呼ばれるものです。展示で見て以来、欲しいと思っていた吉田は骨董市で人形と出会い手に入れました。以前から人を描きたいと考えていた吉田がこの人形に惹かれたのは、ステレオタイプな人物像ではなく、老若男女の誰もが自身を投影できて、しかも他人のようでもある、そんな独特の存在感を持っていたからだそうです。また、今回展示されている絵のあちこちに登山家が描きこまれることで、展示全体のテーマの役割を果たしてもいます。
 ちなみに展示のタイトル「Who Comes, Who Knows」は韓国のアイドルグループ「oh my girl」の曲名からつけたもの。吉田の木彫りの登山家と偶然出会った経験も思わせる、読んだ時にちょっとワクワクできるネーミングになっています。


木彫りの登山家。吉田和夏 所蔵。


展示への《招待状》


 木彫りの登山家の隣の壁には《招待状》という作品が展示されており、さらに手紙がモチーフの作品が並んでいます。ここでは、ふいに自分(=鑑賞者)の方にやってくるものの象徴として「招待状」や「手紙」がモチーフになっています。
 いくつかの作品ではだまし絵風の表現が用いられています。例えば《水辺のツーリスト》ではテープが本物を貼ってあるように見えますが、実は絵の具(メディウム)をテープのように描いているのです。

吉田和夏《招待状》2023
「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子
吉田和夏《水辺のツーリスト》2023

ポップな宇宙へ・・・

 手紙がモチーフの作品群の向かいの壁には、ポップな色使いで宇宙のような景色が描かれた作品が主に展示されています。吉田の作品でよく登場する惑星のような球体がここでも見られます。
 吉田はツルッとしていたりフワフワしていたりといった色々な質感を絵で表現したいという気持ちを持って制作しているそうです。よく見ると、一枚の絵の中でも絵の具の盛り上がりやタッチの違いで多様な表現が試みられていることがわかります。吉田による画風のミックスや絵の具の表情からは、鑑賞者を飽きさせず楽しませたいという気持ちや、あそび心が感じられます。

「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子


吉田和夏《漂う宇宙塵》2023(部分)
吉田和夏《恐竜の遊び場》2023(部分)
吉田和夏《柔らかな目撃者》2023(部分)

《きらめきをつかまえる》

 奥のメインの展示室へ入ると、正面には一際目立つ作品が。《きらめきをつかまえる1》という題で、手のひらに乗せられた飴玉のような球体が描かれています。このほかに会場内には同じ題の作品が2点展示されていますが、どれも掴もうとしても掴めないきらめきがテーマ。絵や写真に留めたくとも過ぎ去ってしまう愛おしい瞬間を、なんとか絵にしようともがく吉田の奮闘が感じられる作品たちです。
 
 《きらめきをつかまえる1》と同じ壁に掛かっている連作も近しいテーマの作品で、吉田があるキャンプ場で目にした、赤からオレンジ黄、青へと移り変わっていく夜空の色調を捉えようとしたシリーズです。

「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子
吉田和夏《きらめきをつかまえる1》2023
吉田和夏《きらめきをつかまえる2》2023(部分)
左から、吉田和夏《有明月とおおとり》、《上弦の月とおおとり》、《繊月とおおとり》

眠る恐竜たち

 会場には立体作品も展示されています。どれも眠る恐竜の姿を象った小さな彫刻です。海や川床で無防備に寝ている寝ている様子をイメージしながら、見る人が緊張感を解き、安心感を覚えながら同じ呼吸で見られるように、と考えながら制作したそうです。

「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子
吉田和夏《泡の音を聴きながら》2023(部分)
吉田和夏《眠る小さなプレシオサウルス》2023

吉田が出会った風景

 立体作品の隣の壁には、吉田が実際に見た景色から描いた作品が集まっています。例えば《Sound Traveler》は吉田の地元の最寄駅にある大瀧詠一の作品紹介コーナーがモデルになった作品。シャッターが作り出す画面上のリズムと奥行きが魅力的な作品です。
 《I wish you a good morning》は、以前は年に何度も遊びに行っていたという台湾のホテルの洗面所を描いた作品。恐竜の人形は実際に旅行中に見つけたものだそうです。吉田曰く、日常と制作の距離が近い日本から離れ、リフレッシュするために台湾へ行っていたのだが、結局この作品のように絵の素になるモチーフやアイデアを見つけてしまうことがあり、探しに行ったのではないからこそ、すっと自分の中にアイデアが入ってくるのかもしれない、とのこと。吉田の制作スタイルが感じられ、とても興味深い作品ではないでしょうか。

「吉田和夏 Who Comes, Who Knows」会場の様子
吉田和夏《Sound Traveler》2023
吉田和夏《I wish you a good morning》2023(部分)

グッズコーナー

 吉田和夏は絵画の発表を中心に活動してきましたが、今回の展示でも、普段使いできるバッグやチャームなどのグッズのほか、気軽に飾れるプリント作品などをたくさん発表・販売しています。どのグッズも吉田のこだわりが感じられるものばかりです。一部をここでご紹介します。

 「ザ・札」は吉田が台湾のアートフェアに参加した際に、見つけた紙を使用したものです。「relax」と「火の用心」の2種類があります。

【ザ・札】relax

 「恐竜対きのこプリント」「考える恐竜プリント」は、岩手県一関市東山町で800年間受け継がれてきた手漉き和紙である東山(とうざん)和紙を使用しています。実は吉田にとっては父の実家が東山で、よく夏休み遊びに行っていた馴染みの場所。以前からこれを使って何か作りたいと思っており、岩手で開催された今回の個展に合わせて初めて作ってみたそうです。


「恐竜対きのこプリント」
「考える恐竜プリント」

 今回の展示のテーマとも言える、登山家のグッズもあります。レトロなテイストのパッケージがかわいい「登山の友 ブローチ」「登山の友 チャーム」は、山登りや山菜採りのお供にぴったり。小さな鈴もついています。

「登山の友 ブローチ」
「登山の友 チャーム」

 そのほか、ここでは紹介しきれないたくさんのグッズを販売中です。できればシグアートギャラリーまで実際に足を運んでいただきたいですが、遠方の方はシグオンラインショップからも作品とグッズをお買い求めいただけますので、ぜひ覗いてみてください!

・シグオンラインショップ:https://cyg-morioka.stores.jp
 

グッズコーナー



 
 展覧会は6月21日(水)まで開催しています。会期は残りわずかですが、皆様のご来場をお待ちしています。

Cyg art gallery スタッフS

開催概要
吉田和夏 Who Comes, Who Knows
会期:2023年5月27日(土)─6月21日(水)
   10:00-19:00
   ※6月20日(火)は臨時休業
会場:Cyg art gallery(シグアートギャラリー)
岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルクアベニュー・カワトク cube-Ⅱ B1F
入場無料
作品をオンラインショップで販売中

展覧会に寄せて・吉田和夏の言葉

 絵の中に、山に登る人が訪ねてきた。

 以前見たことのある人だが、すっかり忘れていた頃に目の前に現れた。Who Comes, Who Knows、閃きとともに何かがやってくる。

 その人は、登山人形と呼ばれる民芸品の中の人だ。白樺の木の一刀彫りの置物である。白樺の山の向こうになぜか澄み渡る青空が見えてきて、山道を行く登山家はおおらかなタッチで彫られていて微笑ましい。
 
 その民芸品を初めて見たのは「尊厳の芸術展 ─ The Art of Gaman ─」(2012年)だった。農民美術という100年くらい前の、農業が休みの期間に副業になるよう美術活動をしようという運動があって、その一つとして紹介されていた。
 見た時に欲しいと思ったが手に入らないものだと思った。展覧会のガラスケースの中のものは貴重で高価にちがいない。
 
 2021年のある日、いつものように骨董市へ行き、引き出しそのまま持ってきたって様子の箱の中に小さな登山人形が紛れていたのを見つけた。ついに家にやってきた。やってきた!小さな登山家は、逞しい足取りで今日も山に登っている。
 
 長らく絵の中に登場する「人」について考えすぎていて、どんな人物なのかなぜこの人なのかと考えるほど慎重になった。
 
 山に登る人は、山の姿が見えなくてもどこかへ向かって歩いているし、帰宅するところかもしれない。向かう先には道らしい道がなかったりする。
 
 私の絵の中で、私の知らぬ意思を持って歩く人がいるのは新しい感覚だ。
どう動き出すかはわからないけれど、この未知な感覚に振り回されつつ描いていきたい。

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●お問合せ先

Cyg art gallery (シグアートギャラリー)
〒020-0024岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルク・アベニューカワトク cube-Ⅱ B1F 営業時間:10:00-19:00
※2023年7月19日(水)より 水曜・木曜定休、営業時間: 10:00~18:00 
Website:https://cyg-morioka.com

・SNS
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LINE:Cyg art gallery(週1回程度配信)


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