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いずれも異様な人間が登場する「出身国」

<文学(196歩目)>
ちょっと他にない短篇集で、小説の底力を感じました。おそらくテクニカル、でもドミトリイ・バーキンさんの文体は他にないユニークさを感じます。

出身国
ドミトリイ バーキン (著), 秋草 俊一郎 (翻訳)
群像社

「196歩目」は、ドミトリイ・バーキンさんのちょっと他にはない短篇集で独特です。

とても不思議な文体の理由がわかる。
短篇の出だしが強烈。でも、そこに描かれていることがどんどん流転していくから。最後は出だしとまるで異なることが描かれている。

一見すると、とりとめもないスタイルであるが、短文がとても研ぎ澄まされているので、最後まで読んでしまう。
そして考え込む。

他の作家ならば、一つ一つの短篇をつながりよくもっと長い作品にするだろう。しかし、ドミトリイ・バーキンさんはあくまでも普通でない文体で攻めてくる。これが不思議と引き込まれる。
またちょっといないであろう心に傷を負っている男が出てくるが、彼の存在感を増しているのはかかわる女。
やはりちょっといないようなキャラだが、とても存在感を感じさせる。

色々な人間の側面が見られる稀有な手法の作品で、なぜか設定が強烈だからか?読後にすごく心に残った。薄いけれど、とても重たく、印象深い作品集です。

「出身国」
この物語はいわく言い難い、一人の男が主人公であるが、濃密に存在感を放っているのはマリア。マリアはなんと駅で主人公の男を拾ってくる。

まさに拾ってくるのであるが、それを生きざまとして周囲の人々もあらかじめ予想していた。何かをしでかすのではないか?と周囲に思わせて、実際に自らの幸せのために実行する女。
この設定と展開で脳を殴られて、伝えたいことを絞り出している。
ちょっとこんな文体や小説は経験したことがない。
衝撃的な出だしでした。

「葉」
おそらく第二次世界大戦で家族を喪った少年と夫婦。
この設定はよくあるとは思ったが、出会いがまるで想定外。
つくづく思うのが、短篇なのですが、私たちが知る世界を描いていること。
出だしは、なんとなくこれからの展開を想像できたが、ここでも濃厚に存在感を出しているのは破廉恥なアンナ。

アンナはおそらくニンフォマニア。
清冽なロシアの大地に生きる生きることに不器用な男。なんかとても関係性が人間的と感じた。

「奈落に落ちて」
この作品もロシアの大地をひたすら走る軍用列車の風景が目に浮かぶ。
でも、この設定から大きく超えた世界に持っていかれる。
ここでも濃厚に存在感を出しているのは「おとりなさいな」と男に呼び掛ける女性。立ち上る熱気が凄まじく、やはり意識を持っていかれる。

どの作品も極めて短いが、ドミトリイ・バーキンさんの文体が脳に刷り込まれていく短篇集。
こんな作品はあまり経験できない。

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