東アジアの伝説にまつわるアンソロジー「七月七日」
<SF(77歩目)>
このアンソロジーは、東アジアの文化、伝説にまつわるSFアンソロジーです。
七月七日
ケン・リュウ、藤井太洋ほか (著), 小西 直子、古沢 嘉通 (翻訳)
東京創元社
「77歩目」は、ケン・リュウさんらしい素晴らしいアンソロジーです。
自分自身が東アジア文化圏に属しているのに、何も知らなかったのだなと感じた本でした。
※それぞれの地域に、「伝説」あり。おそらくよく知られたものなのでしょうが、特に韓国、済州島の伝説は聞いたこともなかった。
幾つか印象に残るもの
「七月七日」
七夕伝説が生まれ変わった。午郎と織女の物語。現代的な「遠距離恋愛」と「七夕伝説」が美しい織物に仕上がっている。
「自分たちが手に出来ないものに焦がれるのが愛というものだと信じるようになるのは、おかしい」
「愛が限られたものではなく、無限の源泉であることに気づきました」
やはりなのですが、ケン・リュウさんは心温まる名手だと思いました。
「愛している」という言葉が、強く突き刺さる作品です。未来にどう時が流れても、この瞬間は永遠に事実のまま。これが男女の縁ですね。
「伝説」って祖先の記憶であり、価値観です。これをあらためて考えさせられた。
これを古い伝承のままにせず、新しい語りてに物語にさせる。このアンソロジーの底流に流れるものです。
「九十九の野獣が死んだら」
韓国済州島の伝説にヒントを得た作品。
「誰かが社会で不当に弾圧されて排除されたとする。そうなったとき、その人はいなくなったと言えるのだろうか」
この言葉に対してのホン・ジウンさんの一つの回答がある。
「また自らの能力を発揮できるようになるその日のために、正体を隠して世間に溶け込むに違いない」
いちど消失しても、朽ち果てることのない心がある。
これが伝わる良作でした。
ホン・ジウンさんの作品は初めて。でも、済州島にかかわる伝説を含めて心に刺さる索引になっていました。
「徐福が去った宇宙で」
この伝説はかすかに記憶の中に残っていた。
秦の始皇帝の命をうけて、子どもたちと技術者と不老不死の不老草を見つけにいく。
徐福は二度と秦の地に足を踏み入れることが無かった。不老不死にまつわるいくつもの伝説の一つですが、探検・発見の物語の底流に流れるものにスポットを当てている。
これを宇宙植民の物語に昇華している。
「海女」から発想を得た「潜り手」がまたナム・セオさんの考えをあらわしている。予想した以上に深い短篇になっていました。
古い「伝説」を取り上げ、未来を描くSFの世界で昇華させて「愛」を語らせる。ケン・リュウさんのプロデュース能力に驚くとともに、特に韓国の作家との新しい出会いになるアンソロジーです。
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