現代アメリカの素晴らしい短篇集「マナートの娘たち」
<文学(179歩目)>
たった一冊ですが、いろいろな視点を突き付けてくる作品で、読後にとても考えさせられる作品集です。
マナートの娘たち (海外文学セレクション)
ディーマ・アルザヤット (著), 小竹 由美子 (翻訳)
東京創元社
「179歩目」は、いろいろなことが頭をよぎるアメリカ現代文学です。
「いろいろなことが頭をよぎる」とは、ディーマ・アルザヤットさんのオリジンであるシリアからの移民として成長した目で見たアメリカ社会、つまりイスラム教徒としての目線、若い女性の目でみたハラスメント。同性愛について。
アメリカ社会における異質なものを排除しようとする思想。
これは決してアメリカ社会だけではなく、アジアの片隅に暮らす私の心も突きました。
「浄め(グスル)」
最初、状況が入ってこなかった。「ここは中東なの?」でした。
「ここがアメリカ」であることがわかった後も、「なぜ?タブーなの?」が読み進むまでわからなかった。
文化に依拠した掟みたいなもの。これにあらがう姉の心情。短篇ですが、とても考えさせられる作品です。
「マナートの娘たち」
波乱の人生をおくった伯母の物語が、やはり短篇ながらとても心を突く。
アメリカ社会を生きるアラブ系移民二世の「わたし」と、イスラム社会からはみ出した伯母ザイナブ、古来からの伝統的な社会で生きた「祖母」のそれぞれの女の人生が交錯する。
ちょっと、驚く結末から希望が見える。
「懸命に努力するものだけが成功する」
過酷なアメリカのビジネス社会で生きるアラブ系女性のリナに起きたハラスメント。ちょっと深く入りすぎて、読み進めるのが苦しかった。
でも、現代社会の問題点を突く良作です。
「わたしたちはかつてシリア人だった」
「わたしたちの名前がものをいった時代があったの、シリア人であるということがべつの意味を持っていた時代があった。それを消しなさい。」
この言葉が、「シリア難民危機」を考える視点を改めさせてくれた。
「大切なのは、その人がどこの出身かとか、どれだけお金を持っているかではないはずです。その人が危険な状態にあるということだけを重要視すべきなのです。手を差し伸べるのは、安全なところにいるわたしたちの義務なのです。」
考えさせる言葉でした。
何気に手に取りましたが、現在私の本棚で一番目に付く場所にあります。
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