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詩「痕跡」


誰も足跡をつけていない
真っ白な雪の上に落とし込んだ
一筋の黒色
私の欲望が混ざり込み
熱が燃え
世界に影を落とす

あの子は
消えてしまった季節の後を追わなかった
変わってしまった歪な自然を受け入れていた
排気ガスが溶け込んだ灰色の空気さえ
深呼吸をした
瞳の中に変形した街が映り込む
ひとけのない図書室で
差し替えられた本のページを
白い手で捲っていく
脚色に怯えない明日を迎え入れる

私は昔から家の柱に傷を付けた
そして
その中に全自分を注入した
一心不乱に
私という存在を
最初から無かった事には出来ない様に…
この家の中に残りたい
一欠片でも

あの子の澄んだ瞳の中に歪んだ私が映り込む
唇に残ろうとする橙色のティントは
透明グラスにすら付かなかった

私は今日を諦めない
自分という拙い存在が
誰かの心に沁みるまで…


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