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バズらせない動画。あらゆる課題を解決する「誇張しない」情報発信

売り上げを上げたい、上場したい、ビジョンを達成したい。そのために企業はさまざまな情報発信をするが、その目的は「採用」に集約される――。クロスメディアンの立ち上げにも携わり、採用動画サービス「リクライブ」の編集長を務める二宮翔平氏は、そう言い切ります。

ビジネスを行うのは人であり、どれだけ素晴らしいビジョンを描いても、どれだけ緻密に戦略を立てても、採用ができなければ企業は成長しません。しかし、多くの企業では採用のための情報発信が不十分です。

大切なのは多くの人に見られることではなく、求職者が知りたい情報を用意しておくこと。自社の魅力を誇張せず、求職者の視点で正しく伝える。それが企業のあらゆる課題解決につながります。


リクライブ編集長・二宮翔平氏

求職者にとっての「安心材料」を用意する

私たちが提供している「リクライブ」というサービスの名前は、「リクルート+ライブ」を短縮したものです。主に動画制作を通して、採用に特化した情報発信を支援しています。

インターネットやSNSが発達した現在、多くの企業が情報発信の必要性を感じていると思います。ブランディング、マーケティング、PRなど、目的はいろいろありますが、私はそれらを突き詰めていくと「採用」に集約されると考えています。
ブランディングや認知度アップのための情報発信としては、そもそもの限界があります。日本には約330万の中小企業があり、当然ですが世の中の人たちがすべての会社に興味を持つわけではありません。有名になるためにどれだけお金を使っても、できることは限られています。

一方で、企業を成長させるために、マーケティングやPRといった視点で情報発信することはできます。しかし、それらを手段に1億円の売り上げを立てろと言われても難しいですよね。売り上げを上げたい、上場したい、ビジョンを達成したい。これらの実現のためには「人」が必要です。企業の成長や課題解決に必要なものは、すべて採用によって得られるんです。

しかし多くの企業が、採用に悩んでいます。人材紹介会社に依頼する、求人媒体に載せる、求人広告を打つ。最低でも年間数十万円をかけますが、なかなか求める人材が見つかりません。

そのような状況で、みんな「採用活動にお金をかけても人が集まらない」と言っています。当社でも、以前は採用に年間2000万円かけていましたが、やはり費用対効果が悪いのが課題でした。自分たちで採用向けの動画配信をできるのではないかと考えたことが、サービス立ち上げのきっかけです。

採用活動をしても人が集まらない理由を簡単にいえば、情報量が足りないからです。ホームページの採用情報ページに、職種や仕事内容、給与、出勤時間といった募集要項しか載っていない。これでは、求職者にとって不十分です。

自分が働こうと考えている企業で、どんな人が、どんな想いで働いているのかがまったく見えない。ビジネスをする上で、何を大事にしている会社なのかもわからない。当然、その中で働く自分の姿もイメージできません。そのまま、新卒採用であれば会社説明会、中途採用であれば面接・面談と進むことになります。求職者は、もっと事前情報が欲しいんです。

例えば、高級時計のCMを見ていきなり購入を決断することはないですよね。ほかの人がつけているのを見たり評判を聞いたりして、「買おうかな」と感じる。それから「いくらするんだろう」「アフターフォローは」と調べます。「これを選んでもいいんだ」という安心材料を集めなければ、買うという決断をできません。

これは採用でも同じです。自分が受けようとしている会社が誰もが認める優良企業であればともかく、大抵は中小企業です。周囲の人が誰もその会社のことを知らない中で、自分を納得させなければいけません。その後押しをするために、企業にはしっかりとした情報提供が必要なんです。

ホームページで伝えるべき「4つの内容」

これからは、採用戦略そのものを変えなければいけません。就業人口が減っていく一方で、求職者に届く情報は増えています。10年前では、企業が求人情報を発信できるのは求人広告や一部の人材紹介サービスしかありませんでした。その前は求人雑誌やコンビニに置かれている求人チラシ。限られた媒体しかなく、企業はそこに情報を載せていればよかったわけです。

しかしいまは、みんなそれらの媒体で企業を知った後に、商品やサ-ビスの口コミを見て、SNSもホームページもチェックします。

もちろん、既存の求人媒体を活用することは、これからも必須です。しかし、そこでどれだけ露出を増やしても、最終的に見られるのは公式ホームページです。インターネットに流れる情報は、どれが嘘でどれが本当かわかりづらくなっています。企業の偽りのない情報を知ろうと思えば、みんなホームページをチェックしますよね。私たちのサービスは、そこに動画を公開しようというものです。

クライアントにそのご提案をすると、「再生数がどれくらいになるか」「インプレッションはどうか」と聞かれることもあります。しかし、採用のために必要なのは、バズを狙ったエンタメ動画ではありません。ショートで面白い動画をつくれば認知は取れるかもしれませんが、知ってもらえたからといって選ばれるわけではないですよね。多くの人に見てもらうことよりも、「この会社を受けてみよう」と思った人が知りたい情報を用意しておくことが大事です。

企業が求職者に伝えるべきことが何なのかと言えば、大きく「会社」「事業」「人」「採用」の4つです。

「会社」は、いわゆる会社概要に加えて、ミッション・ビジョン・バリュー・パーパス、あるいは経営方針や経営理念です。これらが企業にとっての求心力となることは、みなさん感じていらっしゃると思います。

そのビジョンや理念を実現するための手法として、「事業」です。どんな人をターゲットとして、そのターゲットのどんなニーズに答えるために、どんな商品やサービスを提供するのかを説明します。

ここまでは、どの会社のホームページにも乗っています。多くの企業が抜けているのが、「人」と「採用」です。

近年では、ビジネスの多くの場面で「誰がやっているか」が重要視されています。例えば企業が発注先を探すとき、「当社でそのサービスを提供できます」と言われても、選ぶ理由にはなりません。同様のビジネスをしている企業はほかにもたくさんあり、機能や品質を見てもそれほどの違いはないでしょう。これはB to Cのビジネスでも同じです。

そこで最近は、「人」を見せる会社が多くなっています。以前、SNS上には企業名のアカウントがたくさんありましたが、いまはその企業で働く人の個人名を使ったアカウントが増えています。ホームページやブログでも、社員の写真やインタビュー記事、個人の実績紹介などを載せている企業が多くなっています。

4つ目の「採用」は、言い換えれば「働き方」です。募集要項に加えて、リモートワークやフレックス制の有無。もう少し掘り下げると、「当社は数字で考えることを大事にしている」といった企業カルチャーのようなことも含まれます。

これらの内容を「採用」としているのは、採用に特化したメッセージにするためです。どんな内容を発信するかと考えたときに、「採用」と定義づけておくことで、「これは採用者向けの情報なんだ」という意識を持つことができます。

定性的な部分を「動画」で伝える

採用のための情報発信の方法として、当社では動画を軸に置いています。ほかにも文章や音声でのアプローチも考えることができ、これらをかけ合わせることが大事だと思います。

文章のメリットは、第一にスピード感です。手軽に情報を得ることができて、かつ整理されているので理解しやすい。デメリットは、空気感や雰囲気が伝わりづらいことです。

動画の場合は、その真逆です。情報を得るためには最初から最後まで視聴しなければいけないけれど、しっかり見れば、その人の雰囲気が伝わってきます。

伝えるべき内容のうち、会社概要や事業内容の紹介、働き方の条件などは、文章で説明しやすいと思います。文字や数字では表現しづらい定性的な部分を、動画で伝えるべきです。具体的に言えば、社長が信じるビジョンやミッション、それに、社員がどんな想いで働いているのかについてです。

そうした内容を、動画に加えて音声でも発信できると、より求職者のためになります。動画は「見る」「聞く」を同時にしなければならず、視聴のハードルが高くなります。音声は「ながら」で聴くことができ、動画に比べて離脱率が低いという統計もあります。

それに、音声はコスパもいいと言えます。動画制作にはそれなりのコストがかかるので、なるべく長く使えるコンテンツにしたい。ただ、社長へのインタビューであれば数年後も使えるでしょうが、社員の場合は退職して使えなくなることもあります。その点、音声は動画に比べて低コストで、リスクは低い。それに編集も音声のほうがシンプルで、収録してから発信できるまでが早いというメリットもあります。

動画であっても音声であっても、大切なのは「採用のため」につくることです。私は以前デザイン会社に勤めていて、企業のホームページなどを制作していました。そのデザインはブランディングのためのもので、綺麗ではありますが、クライアント企業をリアルに表現したものではなくなります。実態の伴わないホームページを見て問い合わせをしてきた人との間には、少なからずギャップが生まれてしまいます。

一方で、企業の代わりに記事を書く会社もあります。noteを代筆する、あるいは「○○おすすめ15選」といったSEO記事を書く。これらは、新規獲得のためにより多くのヒットを狙うコンテンツです。もちろんすべてを否定するわけではありませんが、目的は「何を伝えるか」よりもPV数やユーザー数になってしまいがちです。

採用という目的を考えると、その間の発信が必要です。認知拡大のためでもなく、検索上位に並べるためのものでもない。求職者が知りたい情報を、正しく届けるべきです。

企業の魅力を伝えるための「編集目線」

動画や音声を制作するうえでは、第三者に聞き出してもらうのがベストです。ただし、それが誇張であってはいけません。求職者の知りたいことを理解し、その視点で企業のリアルを伝える編集目線が大切です。

企業が求職者に対して伝えたいことは、すでに決まっているはずです。ただ、それをそのまま伝えても上手く伝わりません。

例えば、企業は自分たちが頑張ってきたことや、新しく始めたチャレンジについて話しがちです。間違っているとは言いませんが、それが求職者の知りたいこととは限りません。主力事業について興味を持って応募を考えたのに、誰も知らない新規事業の話をされても参考になりません。

では、どのような内容を発信すべきか。まず、語るべきことは人によって違います。私たちがインタビューをする際、簡単に言えば、社長と社員で聞く内容を分けています。

採用のための情報発信であれば、間違いなく社長が表に出るべきです。先ほども言いましたが、動画を作るにはお金も時間もかかるので、社長が語ったほうがいい。それに、やっぱりトップの考え方を知らないと、その会社に合うかどうかを考えられないですよね。

社長が語ることとして絶対外せないのは、ミッション・ビジョン・バリューです。企業が存在する目的は、社長にしか話せません。そのうえで大切なのは、過去、現在、未来が地続きであることです。

多くの企業が、まだ起きていない未来のことを語ろうとします。なぜ事業を始めたのか、どんな課題を乗り越えてきたのか、現状の課題をどう解決することで、ビジョンを達成するのか。いま描く未来に、なぜたどり着けるかのロジックが必要です。

一方で、社員の方は日常の業務で忙しく、なかなか広い視点の話はできません。「仕事の魅力は何ですか」「どんな目標がありますか」と直接聞いても、同じような答えになってしまいます。

ここでは、人によって見せ方を切り替える必要があります、例えば、以前建造物の設計を手掛けるクライアントにインタビューさせていただいたことがあります。営業、施工管理、開発の担当の方々で、「どんな仕事をしているんですか?」と聞いても、仕事の説明にしかならないだろうと感じました。

しばらく話を聞いてみると、営業担当の方はすごくハードスケジュールで働かれていました。とても忙しいのに、長い間その企業で働いている。そこで「そんなハードなのに、なぜ辞めたくならないんですか?」と聞きました。すると「仕事がめちゃくちゃ面白いからです」と返ってきたんです。

こうした視点の持ち方は、自分たちではなかなか難しいと思います。人に聞かれるから発想できるし、言語化できる。それに、同じことを伝えるのでも、その切り取り方で印象は大きく変わるんです。

冒頭にお話しした通り、私は企業の情報発信の最大の目的を採用だと考えています。ただ、最近では広報の支援も必要だと考えるようになりました。

そのきっかけは、広報支援を手掛ける、あるクライアントの社長の言葉でした。社長へインタビューをするとき、「僕たちは、企業にいま何が起きているか、誇張せず、リアルに伝えています。そのために、打ち合わせを最低限にして、取材をさせてください」と伝えました。すると、「君は採用活動としてやっているだろうけれど、これは広報だよ」と言われました。

私は広報の専門家ではありませんが、広報とは何かをひと言で表現すれば、「企業がやっていることを、正しく伝えていく行為」だと考えています。その点では、採用でも広報でも同じです。

まずは、情報を届けたい相手が何を知りたいかを考える。誇張は必要ありません。第三者の視線を借りれば、自分たちが気づかない魅力や優位性がたくさん見つかります。聞かれれば聞かれるほど、話せば話すほど見えてくる。それを、そのまま発信するだけなんです。



二宮翔平(にのみや・しょうへい)

リクライブの編集長であり、責任者。1991年福島県生まれ、札幌育ち。札幌でデザイン系の大学を卒業後、デザイン事務所、ブランディング会社でデザイナー・ディレクター・役員の経験を積む。2020年からリクライブの立ち上げに携わり、リクライブ責任者に就任。47都道府県100大学の学生や多くの求職者と面談し、そこで本来求職者が聞きたかったことを求人企業が発信できていないことを課題だと考え、リクライブを当初のライブ配信型説明会サービスから採用動画サービスにPIVOT。サービスの事業転換から2年で、500本以上の採用動画制作に関わり、動画のMCとして企業の魅力を引き出すことが強み。

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