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「あいまいな喪失」とレジリエンス ー「別れのないさよなら」と「さよならのない別れ」

はじめに

「あいまいな喪失(Ambiguous Loss)」とは、心理学者ポーリン・ボスによって提唱された概念で、物理的または心理的な形で存在が曖昧になった対象を喪失することを指します。
この喪失は、従来の喪失や悲嘆と異なり、明確な終わりや解決がなく、そのために心理的な負担が増す特徴があります。
本記事では、「別れのないさよなら」「さよならのない別れ」という二つの状況を中心に、震災や家族、そしてレジリエンス(回復力)との関係について考察します。
本日は、阪神大震災から30年の節目の日です。

わたしは、心からの祈りと共に本記事を作成します。


1. 別れのないさよなら

「別れのないさよなら」とは、愛する人が物理的にいなくなってしまったものの、その存在がまだどこかにあるように感じられる状況を指します。

例:震災での行方不明者

震災などの災害で家族や親しい人が行方不明になるケースがこれに該当します。被災者の多くは、「どこかで生きているかもしれない」という希望を持ちながらも、「もう会えないかもしれない」という現実と向き合う必要があります。

心理的影響

このような状況では、明確な別れがないために悲しみを整理することが難しく、心の中で葛藤が続くことがあります。

  • 希望と現実の間で揺れる感情

  • 悲嘆が長引き、解決しにくい状態

  • 家族間の意見の相違が生じやすい(例えば、探し続けるべきか、諦めるべきか)

レジリエンスの必要性

この状況を乗り越えるためには、次のようなレジリエンスが重要です

  • 支援ネットワークの活用(地域コミュニティや支援団体)

  • 心理的なサポートを受ける

  • 悲しみを言語化し、共有する場を持つ


2. さよならのない別れ

「さよならのない別れ」とは、物理的には存在しているものの、心理的にその存在が感じられなくなる状況を指します。

例:認知症や精神疾患

認知症を患った家族がこれに該当します。家族としてその人が目の前にいるにもかかわらず、過去の人格や記憶が失われていくことで、心の中で「別れ」が進行していきます。

心理的影響

このような状況では、愛する人とのつながりが希薄になり、深い孤独感を抱えることがあります。

  • 「目の前にいるのにいない」という感覚

  • 罪悪感や無力感の増大

  • 介護者自身の心理的な負担

レジリエンスの必要性

この状況を乗り越えるためには、以下のポイントが役立ちます:

  • 介護者自身の心のケアを重視する

  • 残された小さなつながりを大切にする(例えば、笑顔やふとした瞬間の会話)

  • 専門家の支援を受けながら現実的な対応をする


3. あいまいな喪失と家族の絆

あいまいな喪失は、家族関係に大きな影響を与えます。しかし、家族が共通の目標や価値観を持つことで、この喪失を乗り越える力が生まれます。

家族間の対話の重要性

  • 喪失感を共有し、それぞれの気持ちを理解し合う場を作ることが重要です。

  • 家族が「一緒にいる」という実感を持つことで、孤立感を軽減できます。

家族の強みを活かす

  • 一人ひとりの役割を認識し、協力して問題に対処する。

  • 共通の儀式や活動(追悼式や記念日)を通じて絆を深める。


4. レジリエンスを育む方法

あいまいな喪失に直面したとき、個人や家族が回復力を高めるための方法を以下に挙げます。

1. 受け入れる

  • 状況を完全にコントロールできないことを受け入れる。

  • 「不確実性の中で生きる」ことを認識する。

2. 支援を求める

  • 専門家(心理カウンセラーや医療従事者)や地域の支援を活用する。

  • 同じ経験を持つ人々とつながりを持つ。

3. 新しい意味を見つける

  • 喪失を通じて得られる教訓や価値を見つける。

  • 日々の小さな喜びを見つけて大切にする。


まとめ

「あいまいな喪失」は、明確な解決が得られない喪失の形態であり、そのために深い悲嘆や混乱を引き起こします。「別れのないさよなら」と「さよならのない別れ」という異なる状況は、いずれも個人や家族に大きな心理的影響を与えます。しかし、家族の絆やレジリエンスを活かすことで、この困難な状況を乗り越えることが期待されています。

震災や家族の病気といった現実的な課題に直面する中で、私たちは支え合いながら新しい意味やつながりを見つける力を育む必要があります。それが「あいまいな喪失」を乗り越える鍵となるのです。


本書は、COVID-19のパンデミックによって人々が経験した「あいまいな喪失」について、本研究の先駆者であり、第一人者であるポーリン・ボス博士が、独自の視点で書き下ろしたもの。喪失と悲嘆の根幹となる考え方から、パンデミックで顕在化した人種差別問題までを、個人的な体験を詳述しつつ解説している。パンデミックや災害などによる変化とストレスの多いこの時代に、私たちが探し求めるべきものは、喪失の痛みを終結させることではなく、喪失のあいまいさとともに生き、悲しみを語り継ぐなかで、新たな人生の希望や意味を見出すことであると説く。

出版社の紹介文(Amazonリンク先より引用)



震災や事故で愛する人が行方不明になってしまった時、私たちは自分のこころの持って行き場を失う。その人の影は心の中に残り続け、それを追っても見つけることは既にできない。また、家族が認知症となり、愛する人が目の前にいるのに、その人の目に自分が他人として写っているのを知った時、私たちはその人を失ったような感覚に陥る。本書は、あいまいな喪失の治療と援助に携わる専門家に向けて書かれた包括的なガイドである。

原書名: Loss, Trauma, and Resilience: Therapeutic Work with Ambiguous Loss

出版社の紹介文(Amazonリンク先より引用)


Paulin Boss,1999, Ambigurous Loss -Learning to live with unresolved grief-, Harvard University Press. の全訳。

「家族」「恋人」など、一般に「親密」であるとされる関係において経験される喪失のうち、失われたのかどうかが不明確なため、喪失感が非常に曖昧であり、それゆえ人びとに 「明確な喪失」体験以上の苦悩を生じさせる「曖昧な喪失」。
突然の災害により戻らなくなった夫、戦争から帰ってこないわが子など、別れも告げずに突然いなくなってしまった家族。一方、成人して家を出ていった子どもや離婚による家族の喪失、アルツハイマー病になってしまった家族等、肉体的には存在するが、心理的には別れてしまった家族。悲嘆のやり場も曖昧であり、苦悩からの脱出もまた曖昧である。
この曖昧な喪失に苦しむ多くの人へむけられた至極の一冊。長年カウンセリングの現場で研究と実践の歩みをつみかさねてきた著者がその経験 体験をもとに曖昧な喪失を解明し、出口へとやさしく導いてくれる。

出版社の紹介文(Amazonリンク先より引用)


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