話題の絵本『もうじきたべられるぼく』で道徳授業をやってみた。
●はじめに
子どもが主体的に学ぶ道徳授業を目指して、私は「発問」・「展開」・「まとめ」の3つを問い直した。道徳授業は、子どもたちが本気で考え、楽しく学べる時間でありたい。
発問においては「考えさせられる発問」から「本気で考えたくなる発問」へ転換する。教師に考えさせられている状況を打破し、子どもたちの頭の中に思わず「?」が生まれる状況をつくり出す。
そのためには、具体的で経験のあることだが、既有知識や経験とは対立していたり、どっちの方がよいのか揺れ動いたりするような発問が望ましいと考える。
展開においては、【発問→発問→主発問(+補助発問)】の単線型から、【一貫して主発問】を軸にした複線型へ転換する。最低限の確認を済ませた後は、主発問に対する子どもの考えを起点に具体化したり抽象化したりしながら授業を展開していく。
ただし、一貫して主発問が子どもたちの解決すべき大きな問いになるよう設定する。発問がコロコロ変わる展開では難しい、考える⇄立ち歩きペア交流といった自由度の高い学びの場をつくることができる。
まとめにおいては、「閉じた終末」から「開いた終末」に転換する。授業の終末は、まだモヤモヤしている子、考えたことを整理して書きたい子、友達との交流で考えが変容した子など多様である。
そのため、終わり方を揃えないことが大事だと考える。意図的な振り返りを書かせる発問や最後の強引な説話は一切やめ、自分なりに学んだことを振り返る時間にした。
●『もうじきたべられるぼく』
給食は好きですか?
ほとんどの子が「好き」と応えた。中には、「でも苦手な食べ物もある…」と申し訳なさそうにつぶやいている子もいた。
みんなにとって給食はあった方がいい?【主発問】
一斉に当然といった反応が返ってきた。そのとき、ある子が「でも、給食がなかったらもっと遊べるかも」とつぶやいたので、「ない方がいい」と「あった方がいい」を4段階で示して数を数えた。結果は以下の通りだ。
↑ない方がいい
1…4人
2…0人
3…7人
4…12人
↓あった方がいい
ない方がいい派は、「もっと遊びたい」「苦手なものが出る」といったもの。他の子たちは「そういう気持ちもあるよね」といった反応を示していた。
反対に、あった方がいい派は、「おいしい」「栄養がある」「好きなものが多い」「ないと集中力が下がる」などを挙げた。既有知識や経験を踏まえれば、当然このような考えが出されることになる。
ここで、子どもたちの頭の中に思わず「?」が生まれる状況をつくり出すために、以下のように切り出して絵本を読んだ。
ある本を読んで給食はない方がいいんじゃないかと思ったんだよね。
(『もうじきたべられるぼく』の読み聞かせ)
読み終わった後、子どもたちは次々に「牛がかわいそう」「やっぱりない方がいい」とつぶやき始めた。
お隣の人に「どうだった?」と聞いてみて。
この投げかけで子どもたちはドッと堰を切ったように話し始めた。主体的に考えている姿である。再度、最初の発問をした。
みんなにとって給食はあった方がいい?【主発問】
↑ない方がいい
1…12人
2…7人
3…5人
4…9人
↓あった方がいい
※牛の立場と人間の立場両方から考えたという子が何人かいたため、複数回答をしている子がいる(この時点で多角的に考えている子がいると分かる)
ワークシートに自分の考え(ない方がいいか、あった方がいいか)とその理由を書くよう指示をした。書き終わった子は自由に立ち歩いてペア交流してよいことも伝えた。
子どもたちは自分なりに夢中になって考えていた。ただ、考えてはいるのだが何も書けずに困っている子が3人いた。どう考えているのか聞いてみると、モヤモヤしながらも自分の言葉で説明していた。
全体交流では、あった方がいい派からその理由を聞いた。以下のような理由が出た。
それに対して、ない方がいい派からは以下のような理由が出た。
相補的に互いの考えを補い合いながら、「牛も人間も生きるために生まれてきたのだから、どちらの命も大事なもの」という考えにたどり着いた。
そんな大事な命をいただいているから、いつも「いただきます」って言うんだね。
振り返りは形式を揃えず、自分なりに学んだことをワークシートに書く時間にした。ここでも子どもたちらしい多様な考えが見られた。いくつか抜粋して紹介する。
●おわりに
授業を通して、牛の立場と自分(人)の立場の両方から多角的に考える子どもの姿が見られたのがよかった。その結果として、「感謝の気持ちをもって食べようとする心構え」につながった授業となった。今後も子どもが主体的に学ぶ道徳授業を目指して、授業改善に努めていきたい。
●参考文献
・深澤久(2004)『道徳授業原論』日本標準
・島恒生(2020)『小学校・中学校 納得と共感のある道徳科 「深い学び」をつくる内容項目のポイント』日本文教出版社
・小山・道田(2021)『「問う力」を育てる理論と実践』ひつじ書房
・前田祐二(2018)『メモの魔力』幻冬社