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千夜千首#5/水滴のひとつひとつが月の檻レインコートの肩を抱けば

こんばんは! 毎夜19時に、あなたの心に響く一首をお届けする「千夜千首」。第5夜は、穂村弘さんの作品を味わっていきます。

今日もお疲れさまでした! 今回は美しい描写で綴られた短歌で、一日を締めくくってください。

お届けするのは、毎日短歌を読みつつ「心のお守り」になるような言葉を探したり、詠んだりしているつくだ@書籍編集×作家です。普段は文章を書いたりまとめたりする仕事をしています。

では穂村弘さんの作品を自選ベスト版歌集『ラインマーカーズ』からご紹介していきましょう。

水滴の
ひとつひとつが月の檻
レインコートの肩を抱けば

この歌は夜に降る雨の情景を背景としながら、人間の孤独さと繋がりを求める心を描いているように、わたしは読みました。

そして、「水滴がひとつひとつの月の檻」という幻想的な雰囲気を醸し出す言葉の美しさ。それが、この歌の魅力と言えるでしょう。

まず、この歌で着目するべきは「月の檻」という言葉です。穂村さんは、水滴のひとつひとつを月の檻にとらわれた存在として描いています。

前回までご紹介してきた小島なおさんの「あたたかい雨」では、命の源であり慈愛の象徴として描かれているように感じました。

しかし、穂村さんのこの歌において、水滴は月の光を受けて美しく輝きながらも、月の檻に閉じ込められて自由に身動きできない存在として描かれているようです。

なぜ、そう言えるのでしょう。一つには、月光を反映してキラリと輝きながらも落ちることしかできずに消えてしまうはかなさが水滴にはあるからかもしれません。また、水滴そのものも人間を比喩するものとしてみれば、人間関係に身動きできずにいる私たちの姿が浮かびあがってくるような気もします。

そして「月」が登場しているということは、日中よりも気温の下がった夜の雨。当然ながら冷たい雨として、レインコートに降り注いでいます。冷たい雨がもたらすイメージとはある種の孤独のように感じました。

しかも興味深いのは、その孤独な雨がレインコートを抱きしめているという表現です。穂村さんは水滴を擬人化して表現することによって、主体(レインコートを着た人)に対して、繋がりをもとうとするさまを表現しようとしているのでしょう。そして繋がりを求めるからこそ、その孤独が強調される。だからこそ、水滴の孤独さが際立ちます。

また、結句として「レインコートの肩を抱けば」と、体言止めが使われています。月の檻たる水滴がレインコートの方を抱くとどうなるのか、ここでは余韻を残したまま終わっています。

結論が明示されていないので、この歌を読む人は自分の人生経験や知見を踏まえながら、人それぞれの結末をイメージすることができます。そのあたりもこの歌の魅力的なところですね。

一方の主体はどうでしょうか。この歌において、主体は何も話しません。行動も起こしません。ただ月の檻たる水滴になされるがままになっています。また主体が身につけているレインコートは、雨から体を守るだけでなく、外部から自分を隔てる役割を果たしています。

つまり、主体もまた孤独なのだとわたしは感じました。水滴のように人との繋がりを求めているかどうかはこの歌からはわかりませんが、夜の雨の中レインコートを着て外に出ているということは、もしかすると主体もまた人との繋がりを求めて夜を歩いているのかもしれません。

今日もまた、実に味わい深く素晴らしい歌に出会いました。感謝!

穂村弘さんのプロフィール
穂村宏さんは、1962年、札幌生まれの歌人です。1990年、歌集『シンジケート』でデビューする。その後、評論、エッセイ、絵本、翻訳などさまざまな分野で活躍されています。『手紙屋まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』ほか、著書多数。『短歌の友人』で伊藤整文学賞、『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で、若山牧水賞を受賞する。

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かの大編集者・松岡正剛さんの人気連載「千夜千冊」のごとく、毎夜にわたり、おすすめの現代短歌を一首ご紹介していく連載企画「千夜千首」、お楽しみいただけたでしょうか? 

それぞれの歌についてわたしなりに解説していますが、その解釈にかかわらずご自由に解釈して楽しんでいただけたら幸いです。もしよければ、その感想をコメントにお寄せいただけたらとても嬉しいです。

明日も穗村弘さんの、心に響く1首をお届けしていきます。
どうぞお楽しみに!

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