「1」と「足し算」から始める数学 第一回目
1. はじめに
「1」と「足し算」から始める数学, 第一回目です. この「足し算から始める数学」の狙いは, 「一から数学をきちんと学ぶ」ということです.
例えば, 学校で自然数と言うものを習った方がこの読者の中にもいるでしょう. しかし, この「自然数」と言うものを明確に他人に説明できる人はどの程度いるのでしょうか. 「物を数えるときに使う数」という風に記憶している方もいるでしょう. しかし人間というのは利口なもので, 多くのものを数えると時には「2, 4, 6, …」といった風に, 2つ飛ばしで物を数えます. このとき「1, 3, 5, …」といった数字は登場しないのですから, 「物を数えるときに使う数」を自然数として定義した場合, 1, 3, 5, …といった数字は自然数ではなくなってしまいます.
このような「ごまかし」が, 数学が苦手になったり, どこかで躓いてしまったりする要因であると私は考えています. そのため, 特にこの記事は, 数学が苦手になってしまった方や, 数学のことが嫌いな方に読んでいただきたいです.
本題に入りましょう. 今日のテーマは「自然数と0」です.
2. 本文
2.1 ルール説明
私たちはこれから, 数学をこの記事を通して学んでいきます. しかし, このときに二つのルールを設けます. それは
最初から使用していいものは, 1と足し算だけ
追加で何かを使用したいときは, 必ず[定義]してからそれを導入する.
ということです. このルールを設けている理由は主に二つあります. 一つ目は, どこで躓いたのかがわかるということ, もう一つは, 現代数学の流れを感じ取るためです.
たいていの場合, 学校の数学で何かわからなくなったとき, いったいどこで躓いたのかを理解するのは容易なことではありません. これは, 中学校の数学がわりとごまかしをしているからと言うところにあります. しかし, 先に挙げた二つのルールを徹底してさえいれば, 理論上はどこで躓いたのかわかります. なぜなら, 上から定義を見ていって, 「ああこれはわかる」というのが途切れたところが, 躓いているところだからです.
また, 現代数学は非常に面白いのですが, その数学までたどり着ける人はほんのわずかです. この理由はいくつか考えられますが, やはり一番大きいのは, そもそもそこまで到達しようとする人間の母数が多くないからということでしょう. 私はその現状を変えたい. 義務教育機関に教えられている数学と現代研究されている数学というのは全く異なるものであると私は考えています. というのも, 私は義務教育の数学はからっきしだめだったのですが, 現代数学はまったくそうは思わないからです. つまり, 義務教育の数学の時点で数学を嫌いになってしまった人の中にも, 現代の数学には体制のある人がいるはずなのです. 私は, そのような人に数学の楽しさを知ってほしいと考え, このような記事を書いています.
2.2 自然数を作る
まず, 自然数を作るところから始めましょう. この時に使っていいのは, 先にも言った通り「1」と「足し算」だけです. また, 誰が見ても必ず同じになっていないと, 数学の定義は定義として機能しませんので, そこだけ注意してください.
さて, 自然数をどう定義すれば, 誰が見ても同じものにできるでしょうか. 冒頭の分でも記載したように「物を数えるときに使う数」では少し不十分であることがわかりますね. もう少し「自然数」というものを別の角度から見る必要がありそうです.
そもそも, 自然数とはなんでしたか. 「1, 2, 3, 4, 5, 6, …」と続く数のことをまとめて「自然数」と呼んでいたのではないでしょうか. では, これらの数の特徴をうまく普遍的に定義することができれば, これは自然数の定義として採用することができるのではないかと考えられます. ここで, 次のように考えてみましょう.
2という数字は, 1+1と書ける
3という数字は, 2+1と書ける
4という数字は, 3+1と書ける
5という数字は, 4+1と書ける
ある自然数は, (ある自然数の一個前の自然数)+1をしたものになっていませんか. また, この定義の仕方はドミノ倒しのようになっています. つまり, 2を定義してしまえば3を定義することができて, 3を定義してしまえば4を定義することができて, …と続いていってくれるわけです. では, 最初のドミノである「2」という数をどう倒せばいいでしょうか. 私たちが使っていいのは, 「1」と「足し算」だけです. しかし, これは悩むまでもなく, 上を見ればこれはもう答えが出てますね. 1に1を足した数を2と定義してしまえばいいのです. この考察から, 自然数を次のように定義しましょう.
[定義1.1]
1に1を足して得られる数を2, またその2に1を足して得られる数を3, この3という数に1を足して得られる数字を4, この4という数字に1を足して得られる数字を5, …というふうに名前を付けていく. この足し算によって得られた「2, 3, 4, 5, …」という数字たちに, 「1」という数字を付け加えた数字の列「1, 2, 3, 4, 5, 」を自然数と呼ぶことにする.
これで自然数を「1」と「足し算」のみで定義することができましたね. 大成功です.
一応図にすると下のようになります. 文字でだらだらと書かれるより, こちらの方がわかりやすいかもしれません(定義の文中に「2」だったり「3」だったりが出てきているじゃないか, という指摘があるかもしれませんが, それは図1.1を見てもらえれば解決すると思います. 1に1を足した数字を2と定義して, その後にそれを用いて3を定義しているので, 問題ないのです). また, このような自然数が矢印でつながれた列を「自然数の生成列」といいます. この生成列において, 矢印の左側にある数字は矢印の右側にある数字より「前にある」ということにします(または, 右側にある数字は, 左側にある数字より「あとにある」ということにします).
また, 自然数の間に「大きさを定義します」.
[定義1.2]
ある自然数no.1がある自然数no.2より大きいとは, ある自然数no.1が, 自然数の生成列においてある自然数no.2よりもあとに出てくることである. また, このような関係があるとき, (ある自然数no.1)>(ある自然数no.2) と表現する. もし等しい可能性がある場合は, >=と表現する.
ここは少し難しいので, 飛ばしてしまっても問題ないです.
2.3 「0」という数
今私たちは自然数と言う道具を手に入れました. そこで, 次のような問題を考えてみましょう.
(ある自然数no.1)+(ある自然数no.2)=(ある自然数no.1)
となるようなある自然数no.2は存在しているのだろうか, というものです. さて, この問題に対する回答として今から次の命題を証明します(難しかったら読み飛ばしてもらって問題ないです).
[命題1.1]
上の条件を満たすような自然数は存在しない
[証明]
上の等式を満たすようなある自然数no.2が存在していると仮定する.
自然数の定義から, あきらかに(ある自然数no.2)>=1である. この両辺にある自然数no.1を加えると, (ある自然数no.1)+(ある自然数no.2)>=1+(ある自然数no.1)>(ある自然数no.1)となり, (ある自然数no.1)+(ある自然数no.2)≠(ある自然数no.1)である. これは, ある自然数no.2の条件に反する. したがって矛盾であり, これより上の等式を満たすようなある自然数no.2は存在しない.
この事態を解決するにはどうすればいいでしょうか. 答えは簡単です. 上のような性質を持つ数字を新しく定義してしまえばいいのです. そもそも, 私たちは上のような性質を持つ数字を知っていますよね.
[定義1.3]
(ある自然数no.1)+(ある数)=(ある自然数no.1)を満たすような(ある数)を「0」と定義する.
上の証明から分かるように, 0は自然数ではありません(注1). また, ここにはとても大切なことが詰まっています. 私たちはいま知らない数に出会ったとき, それを手名付けるためその数字に名前を付け, 私たちの手中に収まるようにしました. これによって, 私たちの使うことのできる数字の世界が広がったのです. このように, 未知の数字に出会ったとき, この数字に名前を付け自分たちの数字の世界に取り組むことで, 数字の世界を拡張していく. これは今後も頻繁に使用します.
2.4 引き算
私たちは先ほどの議論によって, 1と足し算に加えて自然数, 0という武器を手に入れました. このとき, 例えば2+3 という数式を別の自然数で表現できるでしょうか. この答えはYESです. このことについて詳しく考えてみましょう. 2+3という式は, (1+1)+(2+1)という式と考えることができます. またこれより, (1+1)+(2+1)=(1+1+2)+1=4+1となります ここで, 先ほどの自然数の定義を思い出してみましょう. 自然数とは, ドミノ倒しのように定義された数字でした. そして, 4は定義中にも出てきたように自然数ですし, これに1を足した数は自然数の定義から明らかに自然数です. これを私たちは通常「5」と書きますから, その週間に合わせて5と書くことにしましょう. すると, 2+3=5となり, 2+3の結果は自然数となることがわかりました.
ここで, 次の演算を定義します
[定義.1.4]
(ある数no.1)+(ある数no.2)=(ある数no.3)という式があったとき, 引き算-という演算を (ある数no.1)=(ある数no.3)−(ある数no.2)という関係式を満たすようなものとする.
少し難しくなりましたが, 例を通して理解しましょう. 2+3=5でしたね. この式に対して, 引き算-は2=5−3または, 3=5-2 として定義されるのです. 足し算の逆演算として考えてもいいでしょう. またほかの例として, 1+2=3なわけですから, この式に対して引き算は2=3−1, または1=3−2として定義されます.
また, 0について同様の議論を行ってみましょう. つまり, [定義1.3]から2+0=2であり, この式に対する引き算は0=2-2または2=2-0として定義されます. ここで, 次の性質が0に備わっていることがわかります
[性質1.1]
(ある自然数)-0=(ある自然数)
[性質1.2]
(ある自然数)−(ある自然数)=0
次に2−3という数式について考察してみましょう. これを満たすような自然数, つまり, 2−3=(ある自然数)となるような自然数は存在するでしょうか. この答えはNOです. このことを証明しましょう.
[命題1.2]
2−3=(ある自然数)をみたすような自然数は存在しない
[証明]
上の等式を満たすある自然数が存在する仮定する.
2-3=(ある自然数)の両辺に3を足すと, 2+3-3=(ある自然数)+3となり, [性質1.2]と[定義1.2]から2=(ある自然数)+3となる. ここで, [定義1.1]から(ある自然数)>=1なのだから, (ある自然数)+3>=4>2であり, (ある自然数)+3≠2となり矛盾. よって仮定が間違えであり, そのような自然数は存在しない.
0を定義した時と全く同様の事象が起こっていますね. つまり, 数の世界を拡張するチャンスです. しかしここで注意しなければならないのは, でたらめに世界を拡張するのではなく, 今まで私たちが行ってきた定義と無矛盾になるように世界を拡張しなければならないということです. そこで, 簡単に次のことを考えてみましょう.
まず, 3−2の答えは1, つまり3−2=1でした. 今考えている式は単純にこの式の中の2と3が入れ替わっただけであり, 1と言う数字は動いていません. つまり, 2−3の計算結果にはなにかしら1が関係してくるのではないだろうか, と言うことがわかります. これを踏まえて次の数字を定義します.
[定義1.5]
(ある自然数)の前に-のシンボルを付けた-(ある自然数)を, ある自然数の負の数という.
いくつか例を見ましょう. 1の負の数は-1ですし, 4の負の数は-4です. さて, このような負の数と自然数に対して, 次の性質が成り立ちます.
[性質1.3]
(ある自然数)+(ある自然数の負の数)=0
これをみてわかるよう, 単純に引き算のシンボルと自然数をひとまとめにして考えたのが負の数というそれだけです. これを導入したうえで, 次のように2-3=-1という式を考えてみましょう. こうすれば, 右辺は1に関係している数字であるし, なおかつ1ではない数字として私たちの欲していた数字であることが期待できます. さて, この式の両辺に1を加えましょう. このとき, [性質1.3]から-1+1=0であるし, 1+2-3=3-3となり[性質1.2]からこれは0, したがって0=0となり, 全く無矛盾の式が導出されました. 数の拡張がうまくいった証拠です.
最後に, 整数と言うものを定義してこの節を終わりにします.
[定義1.6]
負の数, 0, 自然数をひとまとめにして整数と言う.
3. さいごに
今回は整数を定義するまで論じました. 次は実数を目標にします. ご覧いただきありがとうございました.
4. 参考文献
[1] Taikei-Book_15.pdf (tohoku.ac.jp)
[2] 減法 - Wikipedia
(注1)自然数に0を含めることもありますが, 今回はそうしてません.
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