「血族の王」評 -熱く、煮えたぎるもの
年始のバタバタが落ち着きつつも年度末の忙しさが始まっている。2月といえばいつもそう。それに加え、会社の人事でショックもあり少し動揺もしている。まとまった時間を取れず、本を読むペースが極端に落ちているが、今日、読み切った。
半分くらいから最後は本当に一気に読めた。松下幸之助の少し変わった評伝。変わった評伝というには申し訳ないくらい、深い。光と闇を交互に当て、人間としての「松下幸之助」を書いた。神格化された表記はなく、偉人としての幻想を抱かせることはない。最後のあとがきぐらいだろうか、著者の根底にある、リスペクトを匂わせるのは。
ある意味、徹底して客観性にこだわっていて、「え、そうだったの?」と思うことが多い。私も大阪出身なので、丁稚奉公から立身出世した松下幸之助の話はよく聞いた。私の淡い記憶でも、「発明王」で「偉い人」で、「苦労人」だったけど成功した偉人として、記憶している。
少し変わった経験で、PHP研究所に韓国の友人の助けで訪問したことがある。私はそれまでただの出版社だと思い、PHP研究所が松下幸之助が設立したことも知らなかった。訪問の際、当時の所長に詳細を伺い、松下幸之助が使っていた茶室なども見せてもらった思い出がある。あらためて、松下幸之助を身近に感じ、またその偉大さに触れたものだ。
そんな大半の日本人が抱く松下幸之助に対する幻想を、この本は小気味良く打ち砕いてくれる。肩肘の張った表現ではなく、ただただ客観性をもとに、淡々とした語り口で、実像に迫っていく。個人的に一番心を打たれたのは、戦後の財閥解体のくだりで、商売を続けるために足掻きもがく松下幸之助の姿から、熱い想いが行き過ぎた執念にまで昇華して燃えたぎる様子を感じた。
いかに儲けるか、儲けるためには何をすべきか。当たり前すぎるけれど、ときに忘れることもある、商売の真理。経営者としての誰よりも強い執念に触れられた。少しドキドキしている。熱く煮えたぎるものが、人の心を動かす。
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