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#203 長崎原爆の日に寄せて【劇評・賛】NODA MAP『正三角関係』と映画『オッペンハイマー』(3/3)

今日もお読みくださってありがとうございます!
手元のメモに書いてあることをすべてここに文字化したいと思っているのに、多すぎるのかなかなか書き終わりません。
読むの大変ですみません。

一昨日、昨日の続きです。
思い立って、図書館で野田秀樹『解散後全劇作』(新潮社)を借りてきました。冒頭の短文に早速しびれてしまった。

日本よ、お前は何をしていたのだ
(前略)
 停電のことを思い出して欲しい。
 停電後、パッとあかりがついたとき、一気にものが見えてくる。と同時に、停電前となにひとつ変わっていないその状況に改めてびっくりする。まちがい捜しクイズをしているような錯覚にさえおちいる。停電中の闇の時間だけが空白となり、ぬけおちる。

 あれと同じだった。一年ぶりに日本の町を歩いた時、僕は一年前の日本とのまちがい捜しクイズをした。
 答えは、Jリーグだけだった。それだけでことたりた。実に傲慢である。
 それと共に、日本よ、お前はいったいこの一年何をしていたのだ、しっかりしろバカヤローと叱咤激励してやりたい気がした。実にえらそうである。
 だから停電後は、いきなり放電することに決めた。感電してほしい。停電前とかわらず、実に感じのわるい男である。(太字くらた)

1994年「キル」公演パンフレットより

「感電してほしい」ってしびれる殺し文句ですね!しゅき!
「キル」は演劇サークルの部室にあったVHSでしか見たことがありませんが、とても面白かった。堤真一さんかっこよかった。羽野晶紀さんのおばかなお姫様、エキセントリックでかわいらしかった。ああそういえばこのときの渡辺いっけいさんがすごくすごく良かった。
あの頃は、どなたか先輩がWOWOWをVHS化して部室にコレクションしてくださっていて、過去の名作をたくさん見られて、今思えばいい時代でした。

閑話休題。
この文章を読んだら、野田さんあれでも今はずいぶん丸くなったのかもな。
今日の記事もNODA MAP『正三角関係』、映画『オッペンハイマー』のネタバレを含みます。
目次を見るだけでもネタバレしまくりですので、これからご覧になる方はご注意ください。
また、役者さんについては部分的に敬称略とさせていただきます。

 
 ↓↓↓↓ ネタバレ ↓↓↓↓ ネタバレ ↓↓↓↓ ネタバレ ↓↓↓↓
 


NODA MAP『正三角関係』レポつづき

戦後79年

物理学者・次男の威蕃(永山瑛太)の台詞に「79光年かなたの星の光」というものがありました。
そこではっと気が付けば今年は終戦から79年。
ということは来年80年なのかあ。

今年は終戦の日まわりの金曜ロードショーにも戦争映画はないようですね。「戦後」さえも遠くなりにけり。
79年、キリが良くないからこそ、「キリのよい年だけ数えればいいってもんではないだろう」と言われている気もしてきます。うむむ、そのとおり。

また、飛行機に向かって竹槍訓練をするシーンがあり、会場から笑いが漏れていました。これほんとにやってたんだからね。くらたも生まれてないけど。笑えない、というレビューも見ましたが、この馬鹿馬鹿しさを当然のように笑える状態を、保たなければならないと思う。

戦争ではたくさん人を殺すのに、一人の人間の殺人をこんなに丁寧に裁くのか

終盤、次男・威蕃(永山瑛太)と長男・富太郎(松潤)に、「戦争でたくさん人を殺すのに、一人の人間の殺人を裁くのか?」という趣旨の台詞がありました。人をたくさん殺したのに罪にならないどころか、讃えられるとは?
ここで威蕃と富太郎二人の台詞で描くのは、ふたりでひとりのオッペンハイマーなのかもしれない。

また、原爆投下の言い訳に「戦争を終わらせるには飛躍が必要」という台詞がありました(あれ、日ソ不可侵条約を破棄してソ連が進行してくる言い訳だったかな)。
何の言い訳にもならないけれど、一面真実なのかもしれないと思いました。始まったが最後、終わらせることができないのは現在も同じですよね。

原爆の表現

紫色に膨れ上がった人間が水を求めている。
上を向いて口を開けて死んでいる。
粉になった骨、とけたロザリオ。

1/3に書いたとおり、スピーカーが近かったので、原爆の音は迫力でした。2/3にも書きましたが、原爆は布によって表現されていました。大きな白い布に舞台が覆われていくと、その下の人々の命が失われていく。たくさんいた人間が、動かない、形のはっきりしない、死体に変わってゆく。
その中で水を求める手。口を開けて倒れる人たち。
手元に「キノコ雲の表現」というメモがあったのですが、時が経ちすぎていてどんなだったか忘れてしまった……。

長崎の原爆の被害に遭った浦上天主堂について少し調べたら、当時教会には鐘がふたつあり、一つは原爆によって壊されたものの、一つは奇跡的に地中に埋まっているのが見つかったのだとか
そうかあ、だからNODA MAPで最初に原爆をテーマにした作品は『パンドラの鐘』だったのかあ。今回の公式パンフレットに書いてあって初めて知ったのですが、当初野田さんは「当時の自分の作風で原爆はないな、不謹慎だよなと思っていた」のだそうです。今となってはびっくりの話です。

「原罪」

いつも公式パンフレットでは野田さんが見開き2ページ巻頭言を書かれていて、それをいつも楽しみにしています。芝居の本編とどうかかわってくるのか、とてもわかりにくいのでアレコレと想像するのが楽しいのです。

(前略)そこで最近、リュックを背負うことにした。それも中身を重くするのだ。生半可な重さだと、かえって背中が曲がる。だが、うんと重ければ、ひっくり返りそうになり背筋が伸びる。上を向くことができる。
けれども一体、リュックにどんなものを入れれば、人間の背筋をそっくり帰らせるほどの重量になるだろう。
(中略)
結局、リュックの中に入れて人間の背筋を伸ばすほどの重量は、「人間の原罪」くらいしかないのではないか、そう思案した。

野田秀樹『正三角関係』公式パンフレットから引用

「リュックの中に入れて人間の背筋を伸ばすほどの重量」……なるほど野田さんの芝居の特徴をぴたりと言い当てている言葉だと思いました。
野田さんの芝居はいつも、毟り合う人間の業、第二次世界大戦、オウム真理教事件、日航機墜落事故、拉致被害者など、「これを忘れるなよ」とこちらに突き付けてくるような題材です。

人が空を見上げるとき

花火師・富太郎(松潤)の夢は花火を上げて見上げる人を笑顔にすること。
戦争で花火が禁じられ火薬を没収されて絶望し、夢の実現を信じることができなくなった富太郎に、末弟の在良(長澤まさみ)は「僕は花火が上がる空を信じる」と伝えます。

聖職者である在良はまさに信じる人でありました。
「カラマーゾフの兄弟」におけるアリョーシャと同じように、素直で無垢なキャラクターが物語における空気清浄機の役割を果たしていました。

しかし、花火が上がった空を見上げるとき人は皆笑顔、幸せなはずだったのに、ラストで皆が見上げる空にあったのは原爆の閃光でした。

原爆投下の瞬間で印象的だったのは、威蕃(永山瑛太)だけが笑顔だったことです。まるで花火を見るような笑顔で、やがて爆風に巻き込まれて死んでいきました。
威蕃も在良も倒れ、立っているのは富太郎(松潤)だけでした。

演者百景

うむー!終わらないのでここからは力尽きて走り書き!
そもそもすべて書き残すというのも自己満なのに、力尽きてすみません!!

嵐らしからぬ役の松潤

ジャニーズ、それも嵐でよくこのテーマのこの芝居に出ることを決めたな、というのが正直な感想でした。
でも、ハマってみればジャニーズいちNODA MAPに合っていたのかも。
台詞の量が多いこともあり、滑舌がたまに良くなかったけど、荒っぽく動きまわる役で動きが良かったです。
肌の色はウィンターか?
カーテンコールでは座長らしい佇まいが良かったです。

「何考えてるかわからない」永山瑛太

この人は若いですね。松潤よりも年上だと思うけど、弟らしかったです。
また、天才サイコパスらしさも出ていてよかった。
三兄弟のうち彼だけが、内々に戦争にコミットしていく。
その、なんだかわからないけどなんとなく周囲が感じる違和感が良く出ていた。
上にも書きましたが原爆投下のシーンで最初笑っていた演技がとてもよかった。
そういえば昨年『怪物』で先生役やってたのもとても良かったなあ。最初のパートの何を考えているのかわからない若者の感じもよかったし、中盤のパートの「実はこういう事情だった」というのがわかるのもよかった。

野田さんに途中で演出の養生テープを「これ切っていいんだっけ?」と聞かれてコクンとうなずきながら笑ってしまっていたのが面白かった。

野田秀樹

はあ~、いつまでも元気で新作書いて、出演してほしい。
遠目に見たら大神雄子HCに似ている。

長澤まさみ

顔ちっさ!肩ほっそ!かわいい!!
骨格はウェーブタイプか?

在良は千と千尋みたいな服を着ていた。
聖職者の少年と娼婦の二役は絶妙。

『THE BEE』に引き続き、長澤まさみを脱がせすぎ。
ポールダンスっぽいの良かった。
長澤まさみと松潤のソファのからみがセクシー。
カーブスのコーチに似ている。

席的にグルーシェニカ→在良の早替えよくみえた。

グルーシェニカが富太郎に語り掛ける台詞「良い人間になりましょう」は原作(カラマーゾフの兄弟)にあるみたい。
「そこでは白い雪がうんぬんかんぬん」はドミトリーが流刑されるシベリアのことか?「黒い雪」は原爆後の「黒い雨」のイメージか?

アンサンブルなど

初期は戦勝の花火、凧が上がる演出。
開戦と共に花火を打ち上げられなくなって火薬を取り上げられる。

電報を持ってくる役の子、かわいい。
最初は召集令状 → 戦死の電報 → 自分の父の戦死の電報

疑問

在良が途中で神父に、自分が同性愛者かもしれない、と告白するのですが、その話はそれで終わってしまいました。あの話はどこにいったのかな?

「花火師は火薬に女性の名前を付ける」というエピソードがありましたが、元ネタ見つからず。フィクションかな?

映画『オッペンハイマー』について


付け足しのようですみません。
ほんとうはこれも一本書けるくらいの大作なのですが、もともとNODA MAP『正三角関係』の翌日に、『正三角関係』をより深く理解するためにという動機で観に行ったので、さらっと触れる程度に収めたいと思います。

オッペンハイマーの一代記

時制があっちこっち行ってわかりにくかった。
無知のためそうそうたる学者たちにタイムリーにキャッチアップできず。
マイナーだった理論物理学者から原爆設計者になり一躍時の人に。

アメリカのプロメテウス

科学の進歩による人類の思い上がりの象徴
ドイツが敗戦して学者の中にも原爆投下中止の機運が高まるが、オッペンハイマーは投下で押し切る場面に狂気を見た。原爆実行の魔力。

原爆投下後

現実の惨状を見て後悔。
アカ狩りに遭う。

「ガジェット」『正三角関係』と『オッペンハイマー』をつなぐ

『オッペンハイマー』終盤で原爆の隠語として「ガジェット(装置)」という言葉が出てきた。
『正三角関係』で野田秀樹が日本製の原爆のことを意味ありげに「ガジェット」と言い直すシーンで、客席から笑いが漏れていたのを思い出す。
やっぱりな!

おわりに

長くなりすぎました!すみません!!

この記事を書き始めた時から、この記事の最後には、8月9日の長崎の平和祈念式典で被爆者代表の方の『平和への誓い』の言葉を引用させていただきたいと思っていました。

「平和は人類共有の世界遺産」

被爆国日本こそが、核廃絶に向けて真摯に向き合っていくべき。
平和は人類共有の世界遺産

被爆者代表 三瀬清一朗さん 『平和への誓い』から抜粋

自然遺産も文化遺産もすばらしいものだけれど、人が戦争で殺し合わない、平和こそが人類共有の世界遺産であるとの言葉に、心の底から賛同します。
そういう世の中にできるよう、自分ができることを考えて実行していきたいと思いを新たにしました。

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